たいていの欲望を鎮める呪文
ネットの世界は欲望を煽るもので溢れかえっている。
例えば、ショート動画でよく見入ってしまうのが、ロングヘアのアレンジ動画。
よくこんな編み込みを思いつくなあ、と思える天才的アレンジが幾つも出てきて、見ているうちに自分もやってみたくなる。
そして
「髪を伸ばそうかなあ」
と思いながら、刈り上げたワカメちゃん風の後頭部をジョリジョリと触りながら振り返るのだ。
「私の髪が長かった時、こんなアレンジしたことあったっけ?」
答えは否。
面倒くさがりで、暑がりで、不器用な私は、ロングヘアに憧れて肩甲骨まで伸ばした時も、後ろでひとつに結んで、暑い暑いと文句ばかり言っていた。
またこんなこともある。
ミンネや、クリマといったサイトを眺めていると、作家さんが作る一点物の革製品にときめく。
写真の可愛さに惹かれて、つい何万円もする作品を買ってしまいそうになる。
だが、ちょっと待て。
「私、革製品を買ってお手入れなんかしたことあったっけ?」
否。
とんでもなく可愛いモカシンのシューズも、気に入って十年使った財布も、捨てられずに箪笥の奥に眠ってはいるものの、可愛いものを可愛いままに使ってあげる才能と気力が、私にはない。
「きちんとお手入れすれば、死ぬまで使えますよ」
と言われても、私の手元でみるみる見すぼらしくなっていく可愛かったものたちの、墓場を作るために買っているとしか思えない。
エプロンドレスもワンピースも、そうだ。
「私、エプロンなんてすることあったっけ?」
「ワンピース、最後に着たのいつだっけ?」
そう思い返せば、たいていの物欲は消えていく。
「面倒くさがり、不器用」
自分の性格を表すこの二つのワード。
これさえ思い出すことができれば、たいていの物欲は鎮めることができる。
物欲が猛り狂うのは真夜中なので、この時間帯には絶対に買い物をしないと決めて、翌朝カートを見直せば、すべて
「要らないな」
と思うことができる。
「だって、私がこんなめんどくさそうなものを使うはずないもの」。
ネットで買い物をするようになって、数十年、身につけた知恵である。
「欲望」と「必要」は全然違うものなのだ。