終の住処を探す旅に出ている②別府編
2日目と言いながら、話の発端は昨日に遡る。
着いて早々、夫が怪我をした。
ホテルから海までが徒歩10分ほどだったので、チェックインしたのち、海を見に行った。
予定では、そのあと市役所方面へ向かい、住宅地の様子はどんなもんかと見てくるつもりだった。
が、夫は海水に触ろうとして、階段状に整備された人工海岸の、最下段に降りた途端、濡れたコンクリート面で派手にすっ転んで波を被った。
「助けてくれー!」
という声に振り返ると、夫が下半身びしょ濡れで、立てずにこちらに手を伸ばしている。
(ずいぶん体を張った遭難ごっこだな)と思ったが、どうやらホンモノらしいと気づいたのは、次の波が来ても立ち上がる気配がなかったからだ。
手を伸ばし、助け上げると
「膝を捻った」
と泣きそうな顔をしている。
かなりまずいことになったな、と思った。
夫は若い頃に半月板を割って手術しているし、極端なX脚なために膝に負担がかかるようで、時々、膝に溜まった水を抜きに整形外科に通っている。
「救急車呼ぶ?」
と聞くと
「とりあえず、ちょっと休ませてくれ。様子を見てから決める」
と、冷たい風がびゅーびゅー吹き付ける海岸で、濡れたまま座ってタバコを喫い出した。
一本喫い終わると
「よし、歩ける」
と、まだ市役所方面に向かう気でいる。
ニコチンのパワーってすごいんだなあと思ったが、問題はそこではない。
下半身びしょ濡れの、片足引きずったおじさんと、どんな顔して歩けばいいのか。
私が困る。
夫を説得し、宿に帰ることに決めた。
途中の大型商業施設で、湿布と換えのズボンを買う。
脛にも広範囲に擦り傷をこさえており、触ると痛いというので、ガーゼとテープも。
初日から大災難である。
翌日、歩いて行ける整形外科を探して受診してみると、
「とりあえず骨折ではないね。きっと内側の靭帯を傷めたんだね」
という診断だったので、サポーターと松葉杖を購入して旅を続けることになった。
ケチな我ら夫婦は、宿代を切り詰めて、たいそうしょぼいホテルに泊まっていたのだけれど、その節約分が全部吹っ飛んだ。
まあ、それはいい。
生きていれば、そんなこともある。
しかし、ここは別府。
温泉と海を見に来ているのに、果たして松葉杖で山やら海やら歩けるのか。
結果から言うと、夫は随時、ニコチンを補給しながら、別府の地獄めぐりを成し遂げたのであった。
(3キロほど離れた二つの地獄はパスした)
次の「鬼山地獄」は、地熱と熱水を利用して、ワニを大量に飼っている。
もう「ワニ地獄」でいいんじゃないかと思ったら、実際、そうとも呼ばれているらしい。
こうして、通常の倍近い時間をかけて、地獄を巡った我々は、あとは別府の名物を食べることにした。(グルメ情報のソースは、ふらとぴでお馴染み、チョッピーさん!)
結果、終の住処としてどうなのか?という点についてはまるでリサーチできてない。
何しろ生活に関わりそうなところで得られた情報は「佐藤整形外科の先生は、腕が良さそう」ということだけだ。
地獄には住めないし、ご馳走は毎日は食べられない。
どうかなぁ、住んだらどこでも天国だとは思うんだけどなあ。
夫は、初日から痛い目に遭ったので、あまり印象は良くないようだ。
結局、観光しかしてないのに、明日はもう移動だ。
ほんとに移住先は決まるのか?
どうなる、我らの老後よ!
**連続投稿332日目**