唐揚げ熱
普段、主夫として家計の一切を管理している夫は、一人で旅に出る時には、必ず私に「現金」「近所のAコープのカード」「WAONカード」を渡してから出かける。
AコープのカードとWAONカードには、それぞれ少なくない金額がチャージされている。
「これで、なんでも買って食べて生き延びろ」
ということなのだろう。
現金は
「このお金で、普段しない外食もしていいよ」
という意味らしい。
今回、夫の出発前、私は外で食べるご飯をかなり楽しみにしていた。
「お寿司とラーメンはマストだな」
「ピザの美味しいイタリアンにも行きたい」
「飲茶の店もいいな」
と、お店のチョイスに悩んでいたくらい。
ところが、夫が不在の3日の間、私は結局のところ外には一度も食べにいかなかった。
何を食べていたかというと、ひたすら鶏もも肉を食べていた。
倹約第一の夫は、私が
「鶏肉が食べたい」
と言うと、必ず胸肉を買ってくる。
そのたび、
「いやいやいや、これは鶏肉じゃないから。こんなパサパサで硬い肉は鶏じゃないから」
と思っていた。(鶏よごめん!)
私は、ジューシーな鶏もも肉が食べたかったのだ。
中でも特に、自分で作る唐揚げの味に飢えていた。
夫だって唐揚げくらい作る。
そして、夫は自分の作る唐揚げが世界一美味いと思っている。
けれどもそれは、私の食べたい味ではない。
何しろ、胸肉だし。
私の欲しいものは、私が作らなければ手に入らないのだ。
約一年半、台所から離れ、料理をしないでいた間に、自分の味に対する飢えがMAXまで蓄積されていたようだ。
そんなわけで、近所のAコープで、100g98円のもも肉が、5枚入った巨大なパックを見た瞬間、私は突然、唐揚げ熱に罹患した。
冷静に考えれば、食べ切れるわけがないジャンボパック。
それをためらわずに買い物かごに入れ、総重量1kgオーバーのその鶏もも肉で、大量の唐揚げを作ったのだった。
使った金額は1000円と少し。
私は3日間、その唐揚げを食べ続けた。
全く飽きることなく、私の味のもも肉の唐揚げを心ゆくまで食べたのだった。
「人に食事を用意してもらって文句を言うのは違う」
と思うから言わないが、たまにこういう機会をもらえるのはとてもありがたい。
私の唐揚げ熱は、3日で平癒し「胸肉でも美味しく食べられる体」が戻ってきたのだった。