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見つけたっ!

それは、昨年の秋の終わりに、松山に越してきた日のこと。
我ら夫婦は、10時に不動産屋さんから新居の鍵を受け取り、10時30分には引っ越し屋さんが荷物の搬入に来るという、なかなかにギリギリなスケジュールの1日をスタートさせようとしていた。

新居は、ネットで間取り図と写真を見ただけで内見はしていない。

(詳細は、このマガジンのラスト2話あたりをご覧ください)

ざっくりと家具の配置など決めてはきたものの、実際にそれらが入るのかどうか、30分で計測し検証しなくてはいけない。
焦りに焦って荷物をまとめると、前泊していたホテルにタクシーを呼んでもらい、飛び乗って新居を目指した。

城の堀端のホテルから新居まで、全然馴染みのない松山の街を走っていると、目の前を激安カットの看板が流れていった。

これまで見たカットの最安値は3Qカットの1000円、それが松山には、690円カットの店がある!すごい!ここは爆安天国か?

私は興奮したが、タクシーは時速40キロほどで看板の前を通り過ぎて行き、私もその後の慌しさに紛れて看板のことを忘れていた。

その後、引越しの片付けが一段落した頃、夫がバリカンを取り出してきた。

夫は、一年中丸刈りの坊主頭なので、以前住んでいた敦賀でも、節約のため私が髪を刈ることがあった。
しかし、北陸は、冬の寒さがハンパではない。
風呂場で半裸のまま、じっと刈り終わるのを待つのは耐寒訓練のようだったろうし、刈る方の私も足の裏が冷えて辛い。
「バーバー・妻」はそういった理由で長らく休業していたのだが、暖かい松山でなら問題なかろうと、夫は満を持してバリカンを登場させたものらしい。

しかし、私の方では、最初は羊の毛刈りのように夫の散髪を楽しんでいたのだが、単なる丸刈りなのに、「ここが長い」だの「ちゃんと刈れてない」だのクレームが多くて嫌になっており、刈る気は失せている。
そんな時に、あの看板を思い出したのである。

「ねえ、この辺にめっちゃ安いカットのお店があったはずだよ。城の堀端からウチまで来る途中のどこかのスーパーの2階に『カット690円』て、出ていたのを見たもん」

夫は瞬時に、技術の未熟な妻の虎刈りと、690円の爆安丸刈りを天秤に乗せ、プロの690円を選んだ。
そして、私のあやふやな情報から、『690円カットの店』を探しに出掛けていったのである。

しかし、その日の夕方、夫はプンプン怒りながら帰ってきた。
「そんな店はどこにもない。ネットで探しても見つからなかった。お前は幻を見たのだ。結局、俺は丸刈りに1300円も出してしまった。お前のあやふやな話はもう信じない!」

私は「メイ、トトロ、見たもん!」とばかりに、激安カット店の存在を主張したかったのだが、自分の記憶が信じられないお年頃、あれは幻だったのかもしれないと自信が揺らぐ。

けれども、数字を覚えないことに定評のあるこの私が、『690円』というやけに具体的な金額を覚えているのも、おかしな話なのである。
……あるんじゃないの?
あってもおかしくないよね、いやきっとある!
私が私を信じてあげなくてどうするの?!

それ以来、私も気をつけて爆安カット店を探すようになった。
散歩圏内、バイク圏内、くまなく見て回ったつもりの3ヶ月が過ぎた。

そしてついに本日。
8回目のチョコザップ帰りに、遠回りして帰ろうと東へトコトコ進路変更したところに、それはあった。

ほらほらー!!
ちゃんと690円!
ちゃんとスーパーの2階!
喜び勇んで、特にカットの予定もないのに、店の前まで行ってみた。
すると、さらにすごい情報が出ている。

丸刈りカット(いつでも)490円

すごい。
スタバでコーヒーを飲むより安く、髪をカットできるサロンがあるなんて!
先程見つけた、お店のインスタアカウントに載っていたお客様の声もすごかったので紹介させていただく。

美容室イワサキ

とんでもない髪型の人、会ってみたかった。
きっと、夫のとても良い友達になれることだろう。
夫には、もちろん、帰宅後すぐに店の場所を教えてお薦めしておいた。

松山、まだまだ未知数だ。

**連続投稿734日目**

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はんだあゆみ
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