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死ぬのは、まだ怖いですか?

うちの息子は、幼いころから、寝る頃になると「死ぬのが怖い」と不安になる子だった。
「自分という存在が、この世の中から消えてしまって、そのあとに何もなくなってしまうのが怖い」のだそうだ。
別に多感な時期に、親族の誰かが亡くなったとか、友達を事故で亡くしたとかいった、別れの経験をしたわけではない。
というか、人の死を身近に経験したことは一度もないはずだ。
彼は「死」を、飼っていた虫や魚が動かなくなる、という形でしか見たことがない。
そこから「自分の死」を考えていたとしたら、相当哲学的な子どもだと思う。
「人の死」が具体的ではないから、怖かったのだろうか。
見たことがないから、余計に恐ろしがったのだろうか。
それとも、単に夜の闇に引っ張られて不安になっていただけなのだろうか。

「死ぬのが怖い」と言われるたびに、私は「死んだら、意識も消えるので、怖いという感情すらなくなるはず。死んだあと、何が消えようが、気になる自分はいないのだから、気にしなくていいのではないか。それに、死ぬことより、痛みがずっと続くことや、つらい気持ちがずっと続くことの方が怖い。それに比べたら死ぬ方がまだましだ」という自分の主張を繰り返した。
お互いの感情は、共有されることがなく、永遠に平行線だった。

今考えると、なかなか、ひどい母である。
彼が欲しかったのは、理詰めで説得されることではなく、共感による癒しだったのだろうから。

そんな下の子が、大人になって選んだ仕事が、猟師だったのにはかなり驚いた。
人に害をなす獣の駆除とはいえ、毎日、たくさんの鹿を冥府に送っている。
繊細なあの子が、そのことに痛みを感じたりしないのだろうか、と心配になる。
まあ、彼も私が知っている子どものころと今とでは、変化もしているのだろうし、自分なりの答えを見つけ出しているのだろうけれども。

私の頭の中では、彼はいつまでも夜になると「死にたくない」と泣いているので、「大丈夫かな」と、「大丈夫だよ」の間をふらふらしながら、眠りに落ちることが多い。
こんな時、お母さんというのは、離れていても厄介な生き物だなあとつくづく思う。

**連続投稿231日目**


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はんだあゆみ
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