スタートアップ経営者は将来の幹部候補とどこで出会うか?
私の元へ来た人は、私に惹かれて来たのか。
それとも富や地位に惹かれて来たのか。
多くの富を持つ者の憂鬱の一つは、新たに腹の底から信じられる関係を築くのが難しいということです。
もしも事業が傾き出したら、あるいは私が病気になったりでもしたら、周りから人がいなくなってしまうのではないか。そんな不安が押し寄せる。
さて、何億円も資産があるのに心許せる人がいない孤独な人生と、たとえ貧しくとも周りの人たちと支え合いながら生きる人生と、あなたならどちらを選ぶでしょうか。
私は…、もし許されるなら信頼できる人間関係と金銭的自由の両方を手に入れたい。
ですが、純粋に自分の描く夢に共感し、荒波にもへこたれず共に歩んでくれる、そんな人材は一体どこにいるのでしょう?
この問いに対する一つのヒントが、新卒社会人の採用なのです。
今回は、特に駆け出しのスタートアップ企業が多少のリスクを取ってでも新卒社会人を採用するメリットについて、短期的・中期的・長期的観点から述べたいと思います。
そこから学びを抽象化すれば、タイトルの通り、将来の幹部候補を見つける方法のイメージがつかめるはずです。
<短期のメリット:費用を抑え、熱量の高い人材を獲得>
前提として、スタートアップはごく限られたリソースしか持っていません。
その中で、突出したスキルを持った中途人材を採用することは当然必要なことです。基本はそれでいい。とはいえ、そういう人しか会社にいないとあまり効率的とはいえません。
高単価で優れた技術を持つ人材を、単純な事務作業や初歩的な仕事でわずらわせるよりは、社会人としての修行がてら人件費を抑えられる新卒にやってもらった方がいいでしょう。
要するに、スタートアップの新卒採用の短期的メリットは、まず人件費の抑制にあります。とはいえ、それだけなら契約社員やアルバイトでもいいわけです。
新卒社会人である意味は何か。
彼らは社会人としての経験が浅く、まだ柔らかく謙虚な心を持っています。それに、純粋なビジョンへの共感から入社を決めていることが多い。
ですから、採用コストを抑えつつも、熱量が高くて柔軟な人材を得られる可能性があるのです。
特定のスキルがなく、まだ何者でもないからこそ、手広くあれこれしてみることが彼らの成長につながります。
ビジネス的な観点をまだ色濃く持たないからこそ、消費者に近い視点から新しいアイデアや意見を出せたりもします。
<短期の意外なメリット:初心を思い出させてくれる>
先ほど述べたように、スタートアップを選ぶ新卒社会人は、中途の方に比べると純粋にビジョンへの共感が理由であることが多いです。
就活生に向けた企業説明会などでも、ビジョンや経営理念が主題になることが多いですよね。
うちの小渕社長は「企業説明会や面接で新卒に語りかけるときは、創業メンバーを口説いた時と同じ気持ちになれる」「新卒の前で話す時がいちばん原点に立ち帰れる」と述べていました。
経済的価値としては測りにくいものですが、これは新卒採用をする意外なメリットと言えるかもしれません。
経営者は孤独です。
上手くいかないとき、自分に自信がなくなりかけたとき、純粋な若者が自分の描いた夢を信じ懸命に働く姿が勇気をくれます。
飲みの席でまっすぐに「こんな世界が見たいって言ってたじゃないですか!」と思い出させてくれたりすることがどれだけ励みになることか。
何物にも染まっておらず、志を同じくするメンバーとは強い絆が生まれやすく、より一体感のあるチームになることが期待できます。
一体となって目標に向かって働くことによって、より効率的に業務を進めることができます。
<中長期のメリット:将来の幹部候補になる>
中長期的なメリットも見ていきましょう。
スタートアップを立ち上げて間もない頃は、めまぐるしい変化の連続、荒波を小さな船で航海するような日々が続きます。
この時期を乗り切った人材は超絶タフです。困難に対して持ち堪える胆力がある。ちょっとやそっとのことでは動揺せず、へこたれません。
そもそも、新卒でそんなスタートアップにやってくる人はいい意味で変人です。いい意味で。最悪自分でやっていくぞという覚悟と度胸がある。
前にも取り上げましたが、CROOZが創業間もない頃にやってきた、社長に眼を飛ばす高校中退ヤンキーは、その後クルーズの数々の事業を立ち上げ100億200億の事業を育ててきました。今は取締役副社長です。
物語でもそうですが、まだ何者でもない主人公の夢や熱意に惚れてついてきた人が最強の右腕になりがちですよね。
もしも『ONE PIECE』のルフィーが、ちゃんと海賊活動が軌道に乗ってからクルーを採用しようなどと思っていたら、ゾロは仲間にならなかったでしょう(ワンピース知らない方、すみません)。
創業期に来た新卒は、タフなだけではありません。
スタートアップはまだ事業が軌道に乗っていないため、新卒社員は多岐にわたる業務を任されることになります。
これにより、素直で成長意欲が高い彼らが多岐にわたる業務を経験し、組織全体を俯瞰的に見ることができるようになっていきます。
CROOZはもうスタートアップではありませんが、今も、食わず嫌いしない新卒が数年後には事業や組織の肝になっていったりします。
<信頼が人を育てる>
「君が彼を忠実な人間だと信ずるなら、彼は忠実な人間になるだろう」と古代の哲学者セネカは言いました。
私たちは、友人がなんでも打ち明けてくれるから彼を信頼するのだし、尊敬する先生が「君なら必ずできるようになる」と言うからめげずにがんばれるのです。
信頼は人を育てる。
限られたリソースを、まだ何者でもない若者に将来の幹部候補だと思って注ぐなら、その覚悟は彼を一人前にするでしょう。
そして何より、未来ある若者のもっとも貴重な時期を借りる決断は、自分が自分の成そうとしていることを信じることの証となります。
最後に。
誤解なきよう言っておくと、スタートアップなら新卒採用は必ずやれと言うつもりはありません。
ただ、困難な状況に強く、純粋なビジョンへの共感から仲間になる人物を見つけておくのは後々身を助けることになりますよとは思います。
加えていうと、そういう人材は困難な時にほど現われるものです。
<今回のワーク>
毎回恒例の、
テーマに合致した若手起業家向けのワークです。
これらは、内容を体験的に理解してもらうための実践的なものです。ぜひ、いくつかでもチャレンジしてみてください。
それでは、また次回お会いしましょう!
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。