なぜ集英社がゲーム事業に取り組むのか
年の瀬にこんばんは
ドタバタのあまりにこの5か月更新ができなかったnoteなのですが、この一年間の仕事をまとめたい想い、来年に向けて頑張るよ!という想いもあり、書きます。
今回のテーマは私が担当している新規事業のゲーム事業についてです。私の部門「新規事業開発部」は約2年前に設立した部門です。当初は「新規事業開発部 新規事業開発1課」だったのですが、この秋より「新規事業開発部 ゲーム事業・映像事業開発課」と名称変更になりました。集英社として正式に「ゲーム」という名前が部門名につくのはかなり画期的なことなのですが、外から見ている方々からすると、何をやるの?と疑問に思われることが多いです。ゲーム事業立ち上げの当事者である僕らが、どういう思いで今取り組んでいるのかを簡単にご紹介できれば、と先日の経験者採用の説明会の際に説明した資料をベースにお話します。
隣接の市場規模としての魅力がある
新規事業の部門が立ち上がり、担当になったタイミングでは「攻める事業領域自体も自由に考えても良い」という事だったのですが、せっかく挑戦するのであれば「10年後においても継続性がある事業ドメイン」を作りたいと考え、まずは現状の自社の事業領域から整理しようと。どうしたものかと、モヤモヤと考えていたときに思い出したのがこの図です。
(Disney's Corporate synergy,1957)
世界のエンタメ企業のトップ企業ことディズニー社がどういうビジネスシナジーを通して成長を考えていたのか、そして2020年の今もほぼ変わらずこの事業戦略を継続し続けている企業であることが分かる図です。
テーマパークのイメージが強いディズニー社ですが、こうやってみると映画を中心とした企業であり、映画事業をとても大事にしていることがわかります。近年の買収も、マーベル社(2009年)、ルーカスフィルム(2012年)、21世紀フォックス(2019年)と立て続けに映画につながる事業買収をしており、2015年~2019年は映画分野で最高収益を上げ続けています。
そして、この図の出版業界バージョンを作ってみようと思って作ったのがこちらです。
ディズニーのシナジーモデルのように、現状我々の事業がどのようにつながって、どういう市場が隣接にあるのかを簡易的に整理しました。
以前の記事にも書きましたが、マンガ市場は雑誌を中心としたビジネスモデルで成立しています。上半分(青い色)が現状で集英社が事業ドメインとして取り組んでいる領域、下半分(赤い色)が現状で集英社が協業、すなわちパートナー企業と連携して取り組んでいる隣接の領域です。
出版を中心としたマンガ市場の規模(上半分)はそれなりの規模感があるものの、やはり下半分の領域は圧倒的な市場規模の魅力があり、特にゲーム市場は国内の規模感だけでなく、グローバル規模での伸びしろもかなり大きいことが分かります。
ゲームと映像市場は出版社領域の隣接領域であり、大きく、成長性も高い。まだまだ取り組める余地があるのではないかと。
現状のライセンスビジネスにおいても、下半分の市場から収益は高いのでは?と思われるかと思います。答えとしてはイエスです。しかし、事業とライセンスでは大きく収益性が異なります。アニメビジネスが大ヒットしていても、事業出資をしていない限り収益のリターンは小さくなります。
出版社ではKADOKAWAさんがゲーム事業を着々と伸ばしていますし、隣接業界ではアニプレックスさん、DMMさんもゲーム事業は大きなドメインになっています。集英社は約1千数百億円規模の売り上げ規模の会社です。リソースが限られている中で、企業としての身の丈はあるものの、事業として数十億の単位で領域拡大をしていくには、ゲーム市場はとても魅力的な市場だと考えるわけです。
もちろん、人的・金銭的リソースも大きく必要になるので、リスクは大きく上がりますので慎重な判断は必要になりますが、リスクをかけてでも、取り組む意義があると私は考えています。
タッチポイント市場として魅力がある
もう一点、「シナジ―」という言葉を考えた際に、ゲーム事業で成功をさせるのであれば、現在我々のメイン事業である出版ビジネスにもメリットが生まれないといけない。双方で伸びる仕組みが大事だと思っています。
2019年、私は会社に甘えさせてもらって、世界中のゲームやアニメのイベントに足を運んで取材をさせてもらいました。そこで強く感じたことは「若年層のエンタメの入り口はスマホ」特に「東アジア圏はモバイルゲーム・モバイル動画エンタメの中心になっている」ということ。
(自分が社内説明で使っている資料の一部)
アジアではMOBAというゲームジャンルが大きく流行っているのですが、ゲームを通して登場するキャラクターが人気になったり、映像においてもアベンジャーズの映画を通して、マーベルキャラクターが人気になるなどキャラクターを知るタッチポイントが大きく変化しており、エンタメ企業はそのタッチポイントをいかに仕掛けていくのかが重要になってきています。日本のエンタメキャラクター事業者はココが弱い。特に東アジアは成長市場なのにまだまだ日本のキャラクターが攻め切れていない。ゲームビジネスはアジアに限らず、新しいキャラクターのタッチポイントを作れる。そう思いました。
そこで私が新しい流れを作ってみたいなと思っているのはこんなイメージです。
従来、原作がある作品がゲームになるのは大半は上記のような流れです。原作の人気を通してアニメ化され、そのアニメの版権の商品化のを通してゲーム化が実現される。原作→アニメ→ゲームといった段階的にファン層を拡大していくことで商品化のリスクは減るのですが、この流れの欠点として「原作・アニメのファン層にしかゲームが響かない」という点だと思っています。言い換えると、市場として大きいはずのIPゲームの売上の限界は原作・アニメファンの数で頭打ちになってしまうこと。もっとタッチポイントを増やせるはずなのに。
この流れに対してチャレンジをしてみたいと思っているのが上記アプローチです。日本で作ったゲームを海外にもっていくのではなく、狙いたい市場で何のジャンルのゲームが一番人気が高いのかを見極め、市場に合いそうな適切な作品をもってゲーム企業とその市場に合わせたゲームを作る。原作があるので世界観とキャラクターはしっかりと立っているはずなので、ゲームとしての成功率が上がることにつながり、ゲームを楽しむ層にしっかりとリーチする。そして、そのゲームを遊んでいる層が、「このキャラクターや世界観って日本の日本のマンガがオリジナルなんだ」と気付いてもらうことにより、結果としての認知を取り、原作やアニメの視聴につなげていく。といった逆のアプローチができないかと思っています。
このようなインパクトを残せるようなゲーム企画はハイリスクハイリターン。そんなことが簡単にできたら苦労しないし、ノウハウがない集英社ではいきなり成功は難しいよ!という事は理解してます。
ただ、マーベルが映画でそれを実現してきたように、ポケモンがゲーム人気を通してキャラクター人気を作ってきたように、近いチャレンジはできるのではないかと思っています。
どういうことをやっていきたいか
我々がゲームや映像を取り組んでいくという話をすると、現状のヒット作品のゲーム化や、アニメ制作に取り組んでいくのかという話をされます。我々が大きな組織であればそれも実現できるとは思うのですが、そんな人的リソースはまだまだ足りません。大きな企画は既存の優秀なパートナーさんに任せつつ、少し違う切り口での協業をもって少しずつゲーム事業のノウハウを貯めていき、組織を作っていきたいと思っています。
今、事業の立ち上げを任せてもらえている身として、集英社のゲーム事業をどんなビジョンで進めているのかについて、大きく2点掲げています。
・作品の価値を違う観点で広げることができるプロデュースのノウハウを持つこと
・クリエイターの才能を幅広い範囲で支援できるプロデュースの組織を持つこと
1つ目については、前述もしましたが、マンガ→ゲームではなく、ゲーム→マンガといったアプローチの事例を少しでも作りたいと思っています。ありがたいことに、この2年間を通して自分の考えに賛同してくれるパートナーさんには恵まれまして、小規模な企画から大きな企画までいくつかの企画を仕込んでいます。数年がかりのものになりますし、企画が本当に実現できるのかという心配もありますが、粛々と取り組んでいきます。
2つ目については、集英社が今までアプロ―チできている漫画家さん、イラストレーターさんといったいわゆる作家と言われるクリエイター以外に、ゲームクリエイターさんの方々と集英社がご一緒にビジネス化していける可能性を模索しています。
講談社さんも先駆けてゲームクリエイター支援の取り組みをやられているように、我々も集英社ならではの取り組みを進めていきたいと思っています。
https://daysneo.com/info/gclab.html
マンガ制作は少人数で出来る一方で、ゲームは複数人による協業プロジェクトであることが多いと伺っています。様々なクリエイターの方々が、それぞれがそれぞれの才能を補完しあって面白いものを作り上げる。そして、集英社が抱える媒体力・プロデュースの力を活用して、クリエイティブの活動がより大きくなれる触媒になれるよう、マッチングときっかけ提供の仕組みづくりを取り組んでいきたいと思っています。こちらについても、色々なアプローチを検討していますが、この活動のフラッグシップとなるような取り組みを来春に発表できる予定です。
以上が、我々がゲーム市場をどうとらえているのか、どういった事にチャレンジしていきたいのかの簡単なまとめです。まだまだ話したいことはあるのですが、これを読んでいる方に直接お会いできる機会があればぜひ。
このnoteを縁あって読んでいただいているゲーム業界の皆さま、我々はまだまだヒヨッコな組織ではありますが、皆様のライバルではなく良い協業パートナーになれるべく動いております。ぜひ、ご縁がありましたらご一緒にお仕事できればですし、意見交換させてもらえると幸いです。(現状、業務過多に伴い、新規の協業はお断りしているのですが、意見交換は是非是非)
また、色々なチャレンジの成功を通して、少しずつ組織を拡大していきたいと思っています。採用面含めて少しずつ広げております。いつか集英社のゲーム事業で働いてみたい!と思ってもらえるよう頑張ります。
皆さま、良いお年をお過ごしくださいませ。
来年はもう少しnoteが更新できるよう頑張ります!