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10月9日(水)2日目 藤井寺、焼山寺(前編)

昨晩は夜中ずっと雨が降っており、びしょ濡れになりながら野宿するという素晴らしい体験をしたけれど、今朝4時頃にようやくその雨も止んだ。それが嬉しくて嬉しくて、まだ4時だというのに目が覚めてしまった。

近所のコンビニに行き菓子パンと缶コーヒーを購入。その足で最寄のコインランドリーへと向かう。事前にネットで調べたところ「年中無休」と書いてあったし、無人のコインランドリーなんだから24時間開いてるだろうと思っていたが、行ってみると閉まっていた。開店は6時かららしい。6時になるまで店の外でさっき買った缶コーヒーで菓子パン流し込みながら、昨日の旅の記録を書いて待つ。

6時になりようやくコインランドリーが開店。昨日の雨で今着ている服以外はすべてびしょ濡れだったのでこれを洗濯しようとしたのだが、価格を見て驚いた。洗濯機一回まわすだけで500円??? とはいえ「やるしかない」ので言われるがままに500円を投入し洗濯。その後、10分100円の乾燥機を20分まわした。横を見ると「靴の乾燥機」というものがあり、これも100円で20分、靴を乾燥させてくれるらしい。昨日から靴がグショグショで気持ち悪かったからこちらも利用してみた。乾燥した衣類、乾燥した靴ってこんなに気持ちいいんだ。ちょっとしたことだけでハッピーになれてしまう。お遍路の醍醐味だ。

テントに「帰宅」して朝食をつくったり、旅の支度を整える。とにかく昨日持ってる持ち物という持ち物はすべて濡れたからこれを乾かすしかない。あまり時間もないし心配だったが、日光の力は本当にすごい。少ししただけでテントも寝袋もいい感じにだいたい乾いてくれた。

さて本日はまずは近くにある十一番札所藤井寺(ふじいでら)に向かい、その後はいよいよ「遍路ころがし」の異名を持つ、ある意味四国遍路で最も有名な難所、焼山寺(しょうさんじ)へと進む予定だ。

9時30分頃に藤井寺に向けて走り出す。30分ほど自転車をこいだら呆気なく到着。石像などが多く飾られている年季の入ったお寺だ。ネットで「オンライン接待」をしてくださった方々の願い事を丁寧に一つずつ、大師堂と本堂のそれぞれに祈願していく。この寺で一番印象に残っているのが駐車場である。駐車場は有料でなんと自転車であってもお金を取るという。こんながめつい(あえてハッキリと言わせていただく)お寺はこれまでに実はなかった。駐車場でもう一つ気になったのが、やたらと多いタクシー広告である。そうか、次はいよいよ遍路ころがし……広告はこう言っているのである。「無理しなくてもいいですよ」「タクシーでもまわれますよ」と。

いよいよ十一番札所藤井寺から十二番札所焼山寺へと向かう。しばらく進んだところでさっきの藤井寺で輪袈裟を置き忘れてきたことに気づいた。輪袈裟は「お大師様、つまり空海そのもの」とも言われているため、トイレに入る時には外すのがお遍路のゲームルールになっている。そのルールに従って話袈裟を外したのだが、そのまま置いてきてしまったのだ。

輪袈裟なあ……。バチ当たりな物言いで申し訳ないがマジで邪魔。持っていても物理世界的な効能としては「毎回トイレに行くたび着脱する義務が発生する」「忘れて取りに戻るリスクを発生させる」「頻繁に自転車に引っかかり事故しそうになるリスクを発生させる」くらいしかない。特に最後の事故リスクは結構深刻で本気で処分することも考えたことがあるくらいだ。でも仕方ない。引き返し、輪袈裟を取りに戻るしかない。空海様を置いてはいけまい。

無事置き忘れた輪袈裟を発見し、気を取り直してふたたび焼山寺へと向かう。地図アプリで道のりを検索すると焼山寺への距離はおよそ8km、2時間程度かかると出ていたので「どれだけ道のりがキツかろうが8kmならなんとかなるし2時間なら我慢できる」と判断。早速、目の前の坂を登りはじめた。が、行けども行けども坂、坂、坂。本当に坂がつきない。あまりの坂の連続にグッタリと座り込んでしまった。ふと目をあげるととんでもなく大きな神殿が建っている。幸福の科学『聖地エル・カンターレ生誕館』だ。徳島、実はエル・カンターレ、つまり幸福の科学創始者、大川隆法の出身地なのである。ちなみに瀬戸内寂聴も徳島出身だ。どうも宗教的なリーダーが生まれやすい土地柄らしい。自分が幸福の科学信者だったらとこんなに強く願ったのは人生ではじめてだ。信者だったらここがゴール。これ以上の道を行かなくて済んだのに……。

それでも休み休み坂を登っていったのだが、本当にこのペースで進んだら2時間8kmで焼山寺に到着するのか。なんだかおかしいと思いはじめた。地図アプリで再度道のりを調べてみる。するとどうだろう。さっきの結果とは異なり、焼山寺まではおよそ20km。そのほとんどが急勾配で到着予定時刻は5時間後!と出てきたのである。え??どういうこと???

5時間もかかる、20kmも坂が続くとなると話はまったく変わってくる。お寺の納経は午後5時までである。つまりこのペースだとそれまでに到着できない可能性が高い。到着した後もそんな僻地に宿があるとも限らない。夜道移動も困難だろう。食料品や水が確保できるかどうかも怪しい。道の途中でiPhoneを見つめながらしばし呆然とした後、その場に座り込んでしまった。

このまま進むか。それとも戻るか。戻るとなるとここまで登ってきたその努力がまずはすべて無駄になる。しかしだからと言って進むにしたってこの距離この時間は非常に厳しい。とはいえ、調べてみても他のルートも相当きつそうである。たとえば今登ってきた道をまず降りる。そして自転車を40kmほどこいで徳島市まで戻れば、そこから焼山寺のある神山町までは割と走りやすい道が整備されている。神山町の「都心部」からさらに山道を行けば焼山寺に辿り着くのだが……。考えただけで疲労困憊するし、相当な時間がかかる。

一体どのルートが正解なのか、まったくわからない。行くか戻るか。しばらく考え込んでいたが考えていても一歩も前に進まないことだけは明らかだ。そうこうするうちに逆ギレというか、自分の思考が「反転」してきた。

ピンチもアクシデントもない、効率よく無駄のない旅。それが望みならそもそも遍路なんてしなきゃいい。遍路、それも野宿だの自転車だのでの1400km巡礼を望むって、要するにお前がほしかったのは今、ここにある「これ」じゃないか。望み通りの状況だよな。一体何を迷ってるんだ?そう思うと肉体の疲労は極限なのに、なぜかだんだん笑えてきた。せっかくならどれだけ「遍路ころがし」がキツいのか、一番エグいの体験したほうが「取れ高」としては最高じゃん!それに幸いこちらは野宿装備。食料もシェルターも調理器具もモバイルバッテリーさえある。あとは途中で飲料水さえ確保できれば、この季節だ。死ぬことはないだろう。不思議なもので「行く」と決めてしまったら苦痛も大きく軽減したし、それどころかなんだか楽しく感じるようになってきた。そもそも目的地は決まっていて、道もある。ただそこを「進めばいいだけ」なんて逆にこんなにイージーなことも人生そうそうないではないか。ゴールも明確ではなく道すらない、わからない。それでも「進む」しかない衆生の地獄に比べればこんなもの極楽である。

そう思い、進んでいくうちに、山道の中、さくらの木が植っている小さな展望台のような場所にたどりついた。小さなベンチがあり、そこに男性が座っている。男性はスマホを見ていたが、こちらの気配を感じとり振り向いた。「こんにちは」と挨拶をすると「え??自転車ですか??大丈夫ですか???」とめちゃくちゃ心配された。聞けば地元の方らしい。ときどき気分転換に一人でここに来るのだという。「この道、本当に焼山寺まで行くんですかね」と聞くと、確かに焼山寺まで「道」はある、だけれど「エグい」なんてものじゃない、相当キツい。ここを少し過ぎると今度は下り道になるのだが、またしばらく行くと下った分、今度はまた登ることになる。それを何回か繰り返すと焼山寺にたどり着くとのこと。それ以外の行き方、あるんですか?と聞くと「あるけど、どの道もえらいね……。(徳島)市内からやったら道あるけんど相当遠回りやし」。そりゃ当然だが、ここから先、道中に商業施設も自動販売機も一切ないという。「そこにあるのが最後やね」と男性が指差した先を見るとなんとそこに自動販売機が。自動販売機見てこんなに興奮したのは初めてだ。よかった、これで水は確保できる。「いろはす」500mlを3本買った。まだまだ先は長そうだ。進めるところまで進んでやる。先を急ぐ。

しばらく進むとあちこちに看板が立っている。近くにある温泉リゾート施設らしい。看板も比較的新しい。先ほどの男性の話ではこの先、商業施設は一切ないとのことだったが、温泉はあるの??? 男性の証言との食い違いが気になったが、こんな場所で温泉入れるとかハッピーすぎる。施設には食事処もあるらしい。実は昼食はろくに食べていない(カロリーメイトと携帯用のゆでたまごのみ)。地獄に仏とはこのことかと期待に胸をふくらませ、しばらく歩いていくと、また看板があり、そこには大きな字で「営業中」「温泉はこちら↑」と書いてある。マジか!!温泉!!開いてる!!

これまた温泉まで坂道になっていたが喜んで坂を登っていくと、施設の自動ドアの前に「営業中」という看板が出ている。もうほとんど涙が出そうだった。が、早速中に入ろうとしたところ、施設の横にいた男性が声をかけてきた。「ごめんなさい。今日お休みなんですよ」。え???? 確かに他に車やバイクは一切ない。が、え???施設の前の看板に「営業中」って書いてある……。

あまりにも納得できず「でも営業中って書いてますけど」と口ごたえすると「休みなんです。すみません」とまた同じことを言われる。「下の看板に休みって書いてませんでした?」。休みと書いていなかったどころか「営業中」とデカデカと書いてあったからここに来たのだが……。「いや、営業中って書いてましたけど……」と言うと「そんなことはないのになあ」と言ってきた。いずれにせよ、温泉。やってないのかよ。やってないならやってないで休みって書いておいてくれよ。これ、実は徳島あるあるなのだが、徳島の人間、商売が下手過ぎるというか、「遊びで気ままに地元の知り合いだけを相手に商売やってる」ので、「営業時間通りに営業する」「お店が営業中がそうでないかをわかりやすく明示する」といったことすらできない店がかなりある。毎回このパターンでの「やってない」を何度も経験してるので「いつものあれか」と悟り、押し問答しても仕方がない。諦めた。

今さっき登ってきた坂を下っていくと、さっきの温泉スタッフの男性が「営業中」の看板を「休館日」に変更していた。なんやってん……マジそういうとこしっかりしてくれ。温泉と食事にありつけると期待してしまったがゆえに幻滅のダメージが一気に来た。それでも歩いていくしかない。「歩いて」と書いたのは他でもない。一応自転車を持ってきているが、本当にずっと傾斜のきつい坂道なので、自転車に乗っての移動はアスリートとかその手の能力者でないとかなり厳しいと思う。自転車に乗って坂道を登れるだけ登り、息が切れたら今度は降りて自転車を押す。それを何度も繰り返していた。

もうどれくらい坂道を登ったかわからなかったが、それでも地図アプリを見ると焼山寺まで残り16kmと表示されている。気を失いそうになった。だか進むしかない。すると、突然「焼山寺30m」という看板に出会った。え???30m????地図を見ると残り16kmなのに???

わけがわからず周囲を見渡すと「空海ウォーク」との看板があり、そこから山の中に昔の古道のようなとんでもない山道が伸びている。今までの道は急峻な坂ではあったが一応すべてアスファルトで舗装されているし、ガードレールもところどころあった。が、これは本当の本当にガチの山道である。

この道を30m行けば焼山寺なのか?と最初は思ったが流石にそれはないだろう。どうやら「焼山寺まで行く道まで30m」という意味だったらしい。紛らわしい書き方すんなと言いたいが、そこでその「道」を少し覗いてみたら「焼山寺5.9km」という看板が立っている。どうやらこの山道を行けばおよそ6kmで焼山寺に着く。そうでない、ナビに出ている道を行けば残り16kmで着く。と、どうやらそういうことらしい。

さすがにこの山道のほうは自転車に乗ることはおろか「押していく」ことも厳しそうである。とすると自転車はここに置いていくしかない。置いている間、自転車や荷物が盗まれないかも心配だが、そもそも「置いていく」ということはまた今度これを取りに戻らなければならないということだ。6km山道を行き、また6km山道を戻り、今度は自転車を押してさらに先の坂道をまた進まなければならないということで、これは考えるだに大変だし、荷物を置いていく=到着先で宿がなければゲームオーバーということでもある。かといってここからさらに16kmも同じような道のりを進み続けるなんて考えただけでも地獄である。

自転車の場合、どちらの道をどう行けばいいのか。そもそも道はどちらが正解なのか。わからなくなってきた。困ってあたりを見渡すと、反対側に小さな小屋がある。人の気配がする。地元の人がいたら道を教えてもらえるかもしれない。そう思いその小屋に近づいたところ中からGet in!と声がする。英語だ。見ると体の大きな白人の男性が座敷でゴロゴロしている。どうやら遍路用の休憩所らしい。

言われたままに小屋の中に入ると、その外国人が話しかけてくる。すべて英語である。「君は今日どうするの?十二番に行く?」。行きたいがさすがに疲れてると言うと「ぼくは今日行くかもしれないし、行かないかもしれない。膝に聞いてみないとね。膝がいいって言ったら行くけど、嫌と言ったらやめようかな」などと言う。やめるってどうするんだ?と聞くと「ここに泊まってゴロゴロする。気が向いたときに出発する」などと言う。宿泊は禁止なのでは?と聞くと「ここ読んでごらん」と男性は張り紙を指差す。「宿泊は禁止です。ただし緊急の場合、一泊までは許可します」と書いてある。「Google lensを使ったんだよ。日本語読めなくても平気」などと言う。

この男性、話を聞くところによると、名前はクリスと言い、年齢は59歳。生まれはドイツ、20歳でカナダに移民としてうつり、現在はカナダでガイドをして生計を立てているという。旅行が趣味でスペイン、ニュージーランド、タイ、ベトナムなど各地を何度も旅しているらしい。日本のお遍路は今回が三回目。「一回目はclockwise(時計回り=順打ち)、二回目はanti-clockwise(反時計回り=逆打ち)でまわった。三回目の今回はたった四週間しかいないから時間が足りない。だからいくつかの寺を飛ばしてショートカットしたり、ヒッチハイクやバスを使って回ろうと思ってる。23番から24番なんかめちゃくちゃ距離があるけど、そこらへんは全部ヒッチハイクで行く予定」などと言う。外国人だが、お遍路について日本人、徳島県民の自分よりも圧倒的に詳しいし、経験も豊富だ。いろいろ教えてもらった。

クリスによるとコロナを挟んでお遍路文化もだいぶ変わったという。「5年前に来た時もこの休憩所に泊まったけれど、その時はすごかったな。ケーキやスイーツがそこの机の上にたくさん置いてあって自由に食べることができた。たまたまかもしれないけれど、今回はないよね。全体的に以前は宿泊できた施設が今では禁止になっていたり、コロナが終わってから(クリスにとってはコロナは「終わった」(over)という認識)お遍路もだいぶ変わったと思う」。その後もクリスといろんな話をする。日本の文化の話。クリスの国の話。お遍路の話。人生の話。

クリスは日本にもう何回も来ているが日本語は一切できない。勉強する気もない。日本語も学んでみては?語学楽しいよ!的なこと言うとあからさまに嫌な顔をする。それくらい日本語やりたくないらしい。「日本の文化は素晴らしいし、語学はとてもいい。でもぼくも来年2月には60歳になる。どうしても吸収力が悪くなる。少なくともぼくはそうだ。日本語の学習はまったく考えてないよ。日本語は難しすぎる」とのこと。だからクリスとのやり取りはすべて英語だ。自分の英語力はマジで大したことがない。簡単なことすら正しく表現できないのだが、ネイティブっぽく大袈裟に発音するのは得意だし、声も大きいし、聞き取りは、クリスくらいの聞き取りやすい英語だったら9割くらいはできるという感じ。

一切日本語使わずに一応英語で話してくれる。それにウマも合ったのだろう。クリスはぼくを気に入ってくれたようで、本当にいろんなことを話した。楽しかったが、さっきまで全力で延々と坂道自転車を押してきたと思ったら今度は突然の終わりなき英会話。まるでトライアスロンだ。疲労がすごい。

しばらく話していたら、車の音がする。小屋にトラックを停めて中からおじいさんが二人降りてきた。「おうおう、どないで?」。そう言って近づいて来た。もちろんすべて日本語である。「わしら松茸狩りにきたんよ。まだ早かったな。一本もなかったわ」。クリスは退屈そうにしている。通訳をする。「松茸なら知ってる。カナダにもある」とクリスは言う。英語は通じないがおじいさんは理解してるようで「ほうじゃろ。カナダにも松茸はあるけんなー」などと言う。するとおもむろに「ほい、これ!」と言って飲み物を手渡してくれた。クリスには缶コーヒー、ぼくにはチオビタ。これが記念すべき今回初の「お接待」だった。

地元の方らしいので気になっていたことを全部聞く。情報は大事だ。焼山寺まで行きたいがどの道がいいかと。自転車だとこのまままっすぐ、16km続く坂道を進むしかないのでは?と一人のおじいさんが言うと、もう一人のおじいさんが「こっちのへんろ道通れば6kmやろ」と言う。「ほなけんど自転車やろ。無理やろ」と一人が言うと「ほなけんど乗るのは無理でも押していけるでえな」ともう一人が言う。「押していけるって押していけんだろ」「いや押してやったらいけるやろ」「いけんやろ」などとやり取りしてる。結局行けるのか行けないのかわからなかった。判断難しいな。でも、今日は疲れている。明日のことは明日決めよう。

自分も今日は遍路小屋に宿泊することに決めた。しばらくすると、また一人、遍路小屋にやってきた。スポーティなおじさんでNさんと言う。元自衛官とのことで体力もあるし、野営も手慣れたものだし、とても気持ちのいい、優しい人だった。が、英語が一切できない。クリスに「お名前は?」などと言う。クリスは「ナメ?」みたいな感じ。「名前は何かだって」。「あー、クリスです」。「クリスさんです」。「モリ、彼に名前を聞いてくれるか?」「あ、クリスさんがお名前は何かと聞いてます」「Nです」「クリス、こちらNさん」「Nさん?何歳か聞いてくれ」「Nさん、クリスさんが何歳かと聞いてます」「60歳です。60歳。ろーくーじゅう。わかるかなあ?ろーく、じゅー」「ロキジュ?」クリス、Nさんは60歳だって」「おー!60歳!」みたいな感じで本当にほぼ全部通訳してた。

そんな感じで3人になってわいわいと過ごした。小屋の中に寝るスペースはあったが、クリスもNさんもノーマスク。「コロナは終わった」との認識の人たちだったし、夜は自分も旅の記録を書いたり、ダラダラとSNSしたりしたかったので、建物からかなり離れたところにテントを貼ることにした。

「えー?テント張るの?中で寝ればいいじゃない」とNさんは言ってくれるが「いや、自分、イビキがマジでひどいんで」と言って固辞した。クリスも「なんでテント?」と聞いてくる。「イビキがひどいんだよ。横で寝てもいいけど、クリスは多分眠れないと思う……」と言ったらクリスは爆笑していた。

初日は十も札所をまわれたのに、今日はたったの一つだけ。でも人生なんてそんなもの。明日こそは焼山寺を打つ。打ってこます。

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