【1分小説】俺とヒロインと、昼下がりの怪獣
お題:「俺とヒロイン」
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「またあいつに助けてもらえば良いじゃないか」
そう言うと、彼女はそっぽを向いてしまった。
屋上には俺と彼女と二人。
そう言えば聞こえはいいが、彼女は美人で背が高いクラスのマドンナ。
一方の俺は、クラスの誰からも相手にされない、どうしようもない粗末な男だ。
柵の向こうにはすがすがしい青空と町の景色と、町を破壊していく怪獣と。
立ち上る黒煙も人々の悲鳴も、大気に薄まり、こちらには淡く聞こえてくるばかり。
まるで、こちらと向こうが膜のようなもので隔てられているような、他人事な感じ。
マドンナの彼氏、すなわち町のヒーローは、今あの怪獣と戦っているのだろう。
きっと、ヒーローは今日も勝つ。明日も勝つ。今までがそうであったように。
だから俺の出る幕はないのだ。
「違う」
彼女は透き通った声でそう言った。
「あなたの力が必要。ヒーローでもなく、他の誰でもなく、あなたの」
マドンナはまっすぐ俺を見ていた。
「また冗談を」
「本当だよ」
「あなたには才能がある」
「なんの才能だよ。俺が怪獣を倒せるとでも?」
「いいえ」
「ほら、だから」
「あなたには理解する才能がある。怪獣の心を」
昼下がりの甘い風が吹く。
怪獣はまだ暴れている。