見出し画像

フォロワーが死んで食う刺身

(⚠︎この記事はあくまでフィクションであり、
実際に私が関わりを持たせていただいている実在の方々とは一切関係ありません。
題材が題材であるため、非常に不謹慎な内容となって
おります。大変申し訳ございません。)



焼香。
一礼だかお辞儀だか細かな作法は忘れました。
指先のざらつきを忘れないまま私は席に戻りました。
適当な祈りの真似事をするのだけは上手かった。

そこそこ付き合いが長い、と、自分だけだったかも
しれませんが、勝手に話せる仲だ、とか思えていた人でした。
ここでは仮に、名前をH・Iさんとしておきます。
これは「彼女」の数ある「名前」の一つでしかありませんでしたが、私はよくIさん、Iちゃんなどと予測変換からその名を探す時間が好きでした。
ご自身の名前が好きではない、と仰っていたので、私もあえてその名前以外で呼ぶような真似はしませんでした。

たまたま好きなRPGゲームを通じて、こちらから声を
かけて話すようになりました。
好きなキャラクターの話だの、シナリオの構成だの、
グッズ展開に偏りがあるだの、最初こそ互いに
よそよそしくしていましたが、私はさほど日の経たない内に彼女の心の温みを 少しばかり 感じ得られるようになりました。

声が好きでした。
通話アプリで初めて話して、はつらつと私の名前を呼んでくれました。 
居たんですよ。あの人。
いた。電子越しのぬくみが耳をざわざわ撫でるこそばゆさ。
年に見合わない大人びた声色で、しかしあどけなさの
抜けない、やさしい声でした。 
やさしい声でした。
「歌はヘタクソだから聴かせるのは嫌だ」と時折
口にしてはいましたが、私はあの人の歌声を聴きたい、とこの口からついぞ言い出さなかった事を一生呪います。

ギターとお好み焼きと御座候と目的の無い散歩と目付きの悪いタイプの男性と雨の日とあんかけチャーハンが好きで熱帯魚を飼っていて餌やりをたまにサボって写真を送ってくれて父親と専門学校の教師が人生をぶち壊した底無しの屑野郎ででも嫌いになり切れなくてそんな自分が嫌いで好きでどうでもよくて定期的にアカウントを消して戻ってきてラーメンの写真上げて帰ってから泣いててバイト先の二歳上の先輩が生り的に受け付けなくて生きる事を諦められなくて小さなハムスターのマスコットがすきでずっとにこにこして写真のせてくれてまた見せたいねっていってくれたのにずっと優しくて強い人でわたしあなたのことなんにもしってなかったごめんねだいすきまた


初めて顔を知りました。
白に汚されて よく見えませんでしたが
「目元が きれい」
が 最初の気持ちでした

奥二重だと言っていたのに 綺麗な一重でした。
首元が不自然に切り取られていました。
毟られた跡があると聞いていたので 意図して隠されたのだと直ぐに勘付き 私は遺族側の席を睨み付けました。

泣いてやがりました。
一丁前に。
死んでしまえ。
私の大切な
優しいあの人の
美しい時間を剥ぎ取って使い潰した屑野郎供。
間抜けな経で気が抜けて 憤りも燻って潰れました。

あの人は 巨大市場としてのアプリケーションの内の
ほんの1ユーザーでしかなかったので 「〇〇が何日に〜」などと広報されるような存在ではありませんでしたが 私はアプリ内のメッセージで 彼女の式に
呼ばれました。
彼女が「生前大切にしていた人」として。

同級生 部活仲間 皆泣いている中 私はこの場で
泣いていい御身分なのかと
暫く彼女のついぞ見なかった笑顔を
へたくそな笑顔を薄ぼんやりと眺めていました。
棺の中は 見ない事にしました。
どうせ見えないんです。
涙で彼女の装束を濡らしたくなかったんです。
浴衣の写真を載せて「今考えたら左前だね これ」
なんて 笑っていましたね。

精進落としの場は不気味な程 つい先ほどまでの神妙な面持ちが嘘のように 各々肴に箸を付けながら職場の愚痴だので賑わっていました。

生温い刺身が 膳立てされて 置かれました。
鯛が好きだったんです あの人。

途端に 空気が抜けてしまった様に 全てがつまらなく
濁り始めました。
元からつまらなかったのかもしれません。
死穢って こういうのなんですかね
へへ。

出された物は美味しく食べる性分です。
ツマと添えの菊ごと頬張りました。
いつもの刺身
かなしい
いつもの刺身 でしかありませんでした。


帰り 家族に 葬式帰りだから塩を撒くようにと
言われましたが 明日早いから だのと 適当な理由を付けて逃げ出しました。

いなかったのに いたあの人を
またいないことにされるのが 嫌でした。
いさせてあげなきゃいけない。
クソみたいな使命感に似た何か 寂しさでした。
わたしが覚えていてごめんね
わたしじゃなきゃだめな理由 あったのかな
ごめんね 君ほどやさしくなれなかった
気持ち悪い人間のまんまだった
これからも
ずっとね
ずっと









「私が死んだら誰か葬式の場で泣いてくれるだろうか…」みたいな想像 疲れてる時によくするじゃないですか。
でも逆に 私は私の大切な人達の前で泣ける人間なのかどうか 親類は確定で泣くタイプだから 
フォロワーさんはどうかなあ 大切なフォロワーさん…

みたいな趣旨で書き殴った散文です。
はい。
完全に疲れてます。寝ます。
次はもうちょっと明るい記事が書きたいですね。
人生の真理を勝手に悟った気にはまだなりたくないので。
それではまた。

いいなと思ったら応援しよう!