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昔話 ライター修行外伝 エピローグ
ナナからの最後の忠告
それから4年ほど経ったある日。ナナからまたまた電話がかかってきた。
ナナとの直接の連絡はとだえていたものの、彼女がモデルの仕事をすっぽかしまくってとうとう事務所から出入り禁止にされてしまったことや、ゲッソリやせてやつれた姿で、テレビの深夜番組の水着のお姉さんとして出ているのを見かけたという目撃談、さらには六本木のあやしげなパブ(ランジェリーパブ?)で働いていたが、店の女のコとつかみ合いの大げんかをして、店を飛び出したなどと言う物騒なウワサだけは耳に入っていた。
「あ、まだそこに住んでたんだ。あかねさん? 覚えてる? ナナです♪」
「…………」
またまた不幸の到来か? 悪魔ににらみつけられた小鳥(←これ森下♪)のように、全身に鳥肌を立てて黙りこくっている私に、ナナはこういった。
「あ、やだ~。もう面倒かけないよう(笑)。私ね、結婚することにしたの。あの彼? ううん、全然別の人。2歳年下なんだけど、すっごく気が合うんだ。彼? 今はプー。でもね、お父さんは外車ディーラーやってて、そのうちその会社をつぐんだ。
だけどまだ遊びたいじゃない? ふたりで世界中を旅したいねって。今ね、妊娠中なの。もう8ヶ月。でもさ、日本で産むと高いでしょ? だからね、船で産もうかと思って。国際線の船の中で産むと、出産費用はかかんないんだって。旅行もできて赤ちゃんもタダで産めるんだよ。
しかも海の上で生まれた赤ちゃんなんて、超ロマンチックだし」
同じように、船で出産した未婚の母の先駆け・桐島洋子さんが聞いたら、あきれて笑い出すかもしれない。突拍子もない話だ。けれどどこまでもナナは本気なのである。
「え、え、え? それで、いつ出発するの?」
「明日~。あかねさんには、いつかちゃんとありがとうって言わなくちゃって思ってたのに、ナナ、いいそびれてたから」
「そ、そうなんだ~。(本当に大丈夫なの? などと、いろいろ言いたいことがあったがあわてて飲み込んで)と、とにかく結婚おめでとう」
「ありがとう♪ ナナ、幸せになる。あとさ、最後だからゆっとくけど」
「え、なに?」
「あかねさん、あんまりお人好しだと、あぶないよ。ナナ、あかねさんみてると、心配になっちゃう。気をつけてね、じゃ」
私を面倒ごとに巻き込んだ張本人からの、ありがたいアドバイスに、ものすごく複雑な気持ちになりつつ、
「ま、これもライター稼業をやってるおかげの人生修行だ」
と、自分にいいきかせ、ちょっぴりホッとして電話を切った森下なのだった。(結)