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昔話 ライター修行外伝 6

うそつきナナ 再襲来!①


――これまでのエピソードで済んでいれば、あれから十数年経った今、ナナのことを覚えてはいなかったかもしれない。

 どういうわけか、うちには居候がしょっちゅういたから。でも、ここまでのことは、実はほんの序盤だったのだ。これだけなら、タイトルに「うそつきナナ」と書くほど、森下もいじわるじゃない。そう、その1週間後、ナナは帰ってきたのだった。とても、とてもドラマチックに!

 いつものように部屋に戻ると、部屋に明かりがともっていた。でもそのときは "友だちが来てるのかな?" としか思っていなかった。当時私が住んでいたのは、5階建てのビルの5階。そのビルは、建坪率の関係からか、屋根(?)がナナメになっていたので、5階には私の部屋しかなかった。

 おまけにエレベーターがなかったので、しつこい新聞の勧誘員でさえ、1度も上がってきたことがなかった。
 なので、家を空けるときは、カギを閉めたりしなかった。家に戻ると、万が一、気まぐれでやってきた強盗なんかにでっくわしたりしないように、内側からカギをかけるという具合(今思い返すと、恐ろしすぎる……)。

 友だちは、私の不規則な生活を知っていたので、ヒマになると私の部屋にやってきて、勝手にくつろいで私の帰りを待ってくれていた。だから電気がついていても、ちっとも不思議じゃなかったのだ。

「誰がきてるの? ただいま~」
 声をかけながら入っていくと、ちっとも悪びれた様子もなくナナが玄関までやって来て、明るく出迎えてくれた。

「おかえりなさい~、あかねさん♪」
「!?、ナナ!? ど、どうしたの?」

 動揺を隠せず立ちつくす森下。 "挨拶もしないで出ていって!" とナナの不義理をなじることも、 "心配したんだよ!" と偽善者を気取ることも、もちろん "今頃、なんの用?" と、クールに振る舞うこともできず、私の器では、どうにも抱えきれない「問題物件」の再登場に、ひたすら困惑していた。

 そんな私の前で、ナナはいきなり土下座をはじめた。
「ごめんなさいっ! あかねさん。ナナ、あかねさんを裏切りました。ごめんなさい!」

 突然、出て行ってしまったことを後悔して、謝りに来たのか。必死に "ごめんなさい" を連発するナナを見て、ナナが出ていったことを喜んでいた自分が、とんでもなく悪いヤツのような気がして後悔していると、ナナは例の大きな家出バッグを脇に引き寄せた。

「ごめんなさい、ナナ、ちょっと欲しかったの。だから、つい持ってっちゃったの」
 ナナのバッグの中からじゃらじゃら出てきたのは、私のシャネルのイヤリング(大ハジ。当時はビンボーながら、ブランド大好き娘だったのだ。当時、女子の口癖だった「自分へのご褒美」ってやつ。若気の至れり尽くせりということで、お許し願いたい)やスカーフ、小さなバッグ。一張羅の革ジャンに、買い置きしてあった化粧品などが小山になるほど出てきた。

 ナナが出て行ってから1週間。ナナはとっくにバレていると思ったようだが、実は森下、仕事でドタバタしていたせいか、これらのものがなくなっていることに、ちっとも気がついていなかった。

「ごめんなさい。ナナ、見てたら欲しくなっちゃったの。ごめんなさい!」
 謝り続けるナナを焦点の合わない目で見つめるだけで、ナナにかける言葉すら探せず、自分のボンクラさ加減にボーゼン自失の森下。この "ごめんなさい" 攻撃が、ナナの次なる作戦だとは、当然、わかっていなかった。恐るべし18歳、ナナ!(つづく)


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