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傍らに寄り添い、たすけ、心やわらげる人。 #名前の由来
私は子供の頃からずっと、
自分の名前が、それはもう全力で嫌いだった。
(お父さんお母さん、本当にごめんなさい。)
その理由は、いくつかある。
まず、100%の確率で読み間違えられること。
漢字だけを見れば、割と見かけるし、
有名人にも同じ漢字の方がいらっしゃるから、
馴染みのある名前だと思う。
ただ、私の場合、
その漢字を素直に読まず、
想像の斜め上をいく、“当て字”なので、
みなさん必ず、「え?」となる。
(その気持ちは非常によく分かる)
そして、漢字も読み方も、
どちらも古風で華がないと思っていたし、
人からダイレクトに「古い名前」と言われ、
深く傷ついたこともある。
自慢にはならないが、昔から、
名前にまつわるネガティブエピソードには事欠かない。
中でも強烈に覚えている出来事として、
小学校3年生の時のエピソードがある。
同級生のジュンコちゃんに、妹が生まれることになり、
ジュンコちゃんは、妹の名前が決まるのを、
それはそれは楽しみにしていた。
しかし、最終的に決まった名前は、
天文学的な確率で、なんと私と同じ名前だった(!)
名前が決まった時に、
ジュンコちゃんが残念そうにつぶやいたひと言。
「もっと可愛い名前ならよかったのに・・・」
まだ9歳だった私に、
その言葉は、まるで鋭い刃物のように襲いかかった。
ジュンコちゃんが発した言葉が、
私の心にグサリと刺さって、
全身の血がサーッと引いていくのが分かった。
私はうつむいたまま、顔を上げれず、
聞こえていないフリをするので精一杯。
たまたま同じ名前というだけなのに、
自分にも少し責任があるように感じて、
それから自分の名前を否定するようになった。
私自身は、何にも悪くないのに。
数えきれないほどのネガティブエピソードが、
名前に対するマイナス思考をつくり出し、
私の脳に植え付けていった。
「名前を変えたい」
「どうしてこの名前にしたのか」
子供の頃から、
口を開けば、親にしつこく聞いた。
父親に問うと、「またか!」と激怒され、
手も足も出て、惨状を見ることになるので、
問う相手は、常に母親だった。
でも母は、のらりくらりと私の質問をかわし、
答えてもらえなかったのか、
答えを聞いたのに忘れてしまったのか、
記憶が曖昧で、どうしても思い出せない。
そんなわけで、もう30年以上、
明確な名前の由来を知らずに生きてきたのだけれど、
最近になって、大きな進展があった。
なんと、父親から『由来書』なるものが送られてきたのである。
由来書があるなんて初耳だったし、届いた時も目を疑った。
この由来書が送られてきた経緯は、
実は、私から父親に、
改めて名前の由来を尋ねたことに始まる。
このコロナ禍の中、実家には1年以上も帰れていない。
父親は元気とはいえ、70歳を超えているので、
聞きたいことがあるなら、今のうちでは…と思い、
思い切って聞いてみたのである。
3つ折りの紙。
紙の状態から、長い年月が経過していることが窺える。
恐る恐る、紙を開くと、
目に飛び込んでくるのは、筆でかかれた力強い文字。
真ん中に、大きく『長寿』と書かれ、
『明朗快活』『衆人に愛される』
『福運強大』『金財・成功を得る』
など、縁起のよい言葉が連っている。
由来書に穴が開くんじゃないかというほど、食い入るように見た。
とても縁起の良い名前をいただいたんだなと思うと、
今まで名前を受け入れようとしなかった自分が恥ずかしくなった。
私の名前は、父親がいくつか候補を考え、
易者の方に姓名判断をお願いして、
一番良い名前を選んでもらったようだ。
『名前は親からの最初のプレゼント』
そんな言葉を、よく耳にするけれど、
まさか私も実感する日がくるとは思わなかった。
そして、もうひとつ。
大きな心境の変化があった。
以前、自分の名前の漢字を、
漢和辞典で、一文字ずつ調べたことがある。
どうしても好きになれない名前を、
新たな角度から、とらえようとしたのか、
少しでも好きになれる部分を見いだそうとしたのか、
ただの興味本位だったのか、動機はよく覚えていない。
一文字一文字の漢字の意味を知り、
その意味をつなぎ合わせたとき。
誰かに肩を叩かれた時のように、
ハッ!とするような感覚があった。
『傍らに寄り添い、たすけながら、心をやわらげる人』
それは、心のどこかで、
ずっと「こうありたい」と思っていたこと、
そのものだった。
父親から届いた由来書、
そして漢字の意味をつなぎ合わせた言葉。
その2つを認識した時、
自分に与えられた名前の『真実』に、
少し触れることができたような気がした。
子供の頃から好きになれなかった名前。
でも今は、貴重でとても愛おしい。
そして、この名前を付けてくれた方々に感謝している。
この気持ちを忘れずに、
これからも胸を張って生きていこう。
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