【画家・絵本作家の声】たかおゆうこさんインタビュー~絵本原画展によせて
こんにちは、森のおうちの米山です。
おかげさまで2024年4月29日に、当館は開館30周年を迎えました。
その記念すべき日を含んだ、4月12日(金)~7月1日(月)の期間に開催しているのが、企画展「たかお ゆうこ 絵本原画展」です。
展示について
絵本作家・たかお ゆうこさんは、玩具メーカーの企画デザイン室を経て、渡米。カリグラフィー、銅版画を学び、挿絵や絵本を手がけてきました。
水彩や色鉛筆、コラージュなどの技法を使って「色の美しさ」「自然の豊かさと不思議」などを描き続けています。
当館では、2019年に「ひとつぶの魔法 絵本原画展」にて『くるみのなかには』(講談社)を全点展示し、その読む人の想像力をかきたてる絵本づくりの見事さに心を奪われました。
その後、2020年に『くるみのなかには』の1シーンから飛び出した物語『ちいさなふたりの いえさがし』(福音館書店)を、2023年に『くるみのなかには』の姉妹作『うみのたからもの』を発刊。
作品を創るごとに、美しい色の表現が複雑により深く、豊かになって進化を遂げています。
特に、今回展示の『くるみのなかには』、『ちいさなふたりの いえさがし』、『こいのぼりくんのさんぽ』は、長野県内を取材してできた作品たちだと伺いました。
また、『うみのたからもの』は、第5回親子で読んでほしい絵本大賞(JPIC読書アドバイザークラブ)「この本読んで! 読者賞」の3位に輝くなど、注目を集めている絵本です。
今回は、そんな、たかおゆうこさんへのインタビューをお届けします。
たかおゆうこさんへのインタビュー
※細字が質問、太字がたかおさんの言葉です
―――絵本を創作する上で、大切にされていることは、どんなことでしょうか。
その絵本の物語の中に流れる空気を大切にしたいと考えています。
子どもも大人も、ともに楽しめる絵本を目指しています。
―――『ふゆの日のコンサート』(1995年・架空社)がデビュー作でしょうか? 現在、販売されていないので、拝見できないのですが、表紙絵を見ると、今の先生の作品とはかなり雰囲気が違うように感じます。 作品を創るごとに、色を複雑に重ねる事で美しい表現をされるように進化を遂げるいると感じます。 色に対してのこだわりにご自身で変化を感じたことはありますか。
『ふゆの日のコンサート』(架空社)が最初に出版された絵本です。大学生の時にクレヨンハウス絵本大賞に応募して優秀賞をいただいた作品が元になっています。若い時に考えたものですから、編集者さんとの出会いもなく、読者に⼦どもたちを意識していることもなく、ただただ、音が色や形になって見えるという自分が感じる世界をそのまま絵本の物語にしました。この絵本は英語圏の国々で出版され、海外でとても熱い評価を頂きました。当時は音楽家の方々からお手紙をよく頂きました。
今の私の絵のタッチとはちがいますが、見えないものを描く、イマジネーションを描くという点で、根にあるものは変わっていないのかもしれません。
描く絵は日々変化し続けています。それは私自身が描くことに退屈したくないからです。ご指摘のとおり、色については特別な思いがあります。美しい色と光を発見したくて絵を描いています。
―――『うみのたからもの』『ちいさなふたりの いえさがし』は作・絵ともたかおさん、『あなふさぎのジグモンタ』『こいのぼりくんのさんぽ』は絵のみと、2タイプに分かれました。
創作の流れや気持ち、難しさなど何か異なる部分があればお聞かせ下さい。
絵を頼まれた絵本は、いただいた絵本の世界が豊かに広がっていくように、愛おしく感じられるように描きたいと考えています。
作と絵のオリジナル絵本は、私の中では二つに分けられています。一つは物語絵本、もう⼀つは問いかけの絵本。
物語絵本は取材を重ねていると自然に生まれてきます。
問いかけの絵本は、⼀つの「問い」からはじまり、答えを探す探究心が新しい絵本を生み出しているように感じています。それはまるで答えを求めてさすらう旅をしているようです。出発した時点では終着点は見えていません。自問自答しながらとても悩み苦しみます。助けとなるのは直感と実感と知識です。
どちらにしても客観的に見てくれ、信頼してくれる編集者さんの存在はかかせません。家族や友人からの助言も大切です。
―――今企画の展示の絵本づくりの上でのこだわりの点やエピソード、見どころを教えていただければ幸いです。
・『うみのたからもの』について
2019年、断崖絶壁が連なるイギリスの南海岸を旅した時に、不思議な模様の石をひろいました。ずっしりと重く、貝の一部のようにも見える化石でした。そのあたりはジュラ紀の地層が剥き出しで、波や雨風の浸食で浜辺に化石が打ち上げられるのです。その化石を手にのせて海を見ていると、2億年前の太古の生き物たちが目の前にあらわれ、時空を超えて自分と繋がっているような不思議な感覚を覚えました。
海辺に打ち上げられた貝殻や化石を手にした時のわくわくした気持ちはどこからくるのでしょう。欠けたり穴があいたりしたものも不思議な美しさで物語を感じます。貝殻や化石は単なる冷たい死骸ではなく、その生き物たちの燃えるような生命の息吹を感じさせるあかしだからでしょうか。
この絵本を作るために、イギリス、沖縄、熊本、四国、石川、福井、福島、神奈川、東京とたくさんの海辺を歩きました。
寄せては返す波の音に耳を傾けていると、どうしても生命の起源の不思議さにたどり着きます。この地球の豊かさは、脈々と繋がれてきた多様で様々な⽣命の輝きにあると感じます。滅びてしまった生き物たちも含めて、多様であったからこそ命をつないでこられたのではないか、と私は考えました。どうかこの海がいつまでも豊かで美しくありますようにと願わずにはいられません。
海辺に降り立ち貝殻を手にのせて、想像と空想の翼を羽ばたかせてみませんか。
・『ちいさなふたりの いえさがし』について
幼い頃、冬になると長野市内の山間に住む祖母が野沢菜とくるみを送ってくれました。母はくるみを漬け物石の上に置いて慎重にカナヅチでトントン、トントンと叩き、中身をとりだすのでした。子ども心にくるみは何故そんなに堅いのだろうと思いました。くるみはふっくらと手をあわせた形にも似て、何か大切なものを守っているようにも見えました。母がくるみを割る作業を始めるとドキドキしました。もしかしたら、桃太郎やかぐや姫のように、くるみからはくるみ太郎?くるみ姫が?
大人になっても、くるみを目にするとそんな気持ちがむくむくとわいてくるのです。くるみ太郎とくるみ姫は次第に変化し、いつしかくるみの中でロウソクを灯して静かに暮らしているおじいさんとおばあさんになっていきました。
ある日、取材先の小諸で、さわさわと豊かな葉を揺らしている大きな木を見つけました。その木は小高い丘に立っていて、周りにはジャガイモ畑やリンゴ園、その向こうには八ヶ岳の山々が美しく連なって見えました。ふと木の下を見ると、黄緑色の果皮に包まれたくるみの実が落ちていました。「ああ、この木がくるみの木なんだ…」
それから私の頭の中のくるみに住むおじいさんとおばあさんは、くるみの外にとびだします。川に水をくみにでかけたり、リンゴ園のリンゴの木に登ったりもしはじめます。ちいさなふたりが大きなスイカを家にしたらどんなだろう……。折しも長野県はスイカの名産地でもあることを知りました。
そんなおじいさんとおばあさんのお話を絵本にすることができました。「家は、くらしの宝石箱でなければならない」とはモダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエの言葉です。ちいさなふたりが作る家はどれもこれも難点があります。でも楽しそうです。彩り豊かなふたりの家を⼀緒に楽しんでいただけたら嬉しいです。
・『あなふさぎのジグモンタ』について
このお話をいただいた時に編集者さんから「クモを可愛く魅力的に描けるのは、たかおさんしかいない」と口説かれました。
とみながまいさんが作ったお話の中のジグモのジグモンタは、健気で謙虚で勤勉でコツコツと仕事をします。私はそれをとても愛おしく感じました。
雨あがりの楽しみは、しずくで輝くレースの様に美しいクモの巣を見ること。私は小さい頃から、細やかで見事な巣を作るクモに尊敬と賞賛に似たような不思議な気持ちを抱いていました。
そんな私がジグモンタという名のジクモを主⼈公にした物語絵本の絵をかくことになりました。
ジグモンタは辛抱強く洋服の穴を修理します。修理されたものは新しい命を吹き込まれたように生まれ変わります。ものを大切にあつかう生活は、心豊かな生活だと小さなジグモンタから気づかされます。心を込めて一生懸命に仕事をするジグモンタが、みなさんに愛されるように、私も心を込めて描きました。
―――絵本原画と絵本の絵とが異なっているシーンが沢山あります。来館の皆様にどのように絵本原画をみてほしいでしょうか。
絵本は⼀枚の完成された絵画とはちがい、書籍の形態をもって、絵または絵と文のつながりから生まれる表現媒体、総合芸術の⼀つだと考えています。「本当にこれでいいのか?」そのことを入稿後の校了直前、最後の最後まで考えて制作しています。印刷された絵が原画をこえるようにと苦心します。そのためにさらにデータで描き込むこともあります。
文章は、読み手の想像がふくらむように最小限にとどめています。ページをめくりながら声に出して読み、耳で確かめながら何回も何回も推敲します。絵と文章は、言い過ぎなように、語りすぎないように、お互いが響きあうことをめざしています。
絵本を手にとりながら、原画と絵本が違うところを探して⾒るのも面白いかもしれません。私が何にこだわり修正しているのか考えていくと私が見つめているものがさらに見えてくるかもしれません。
―――他に作品を御覧になった方にお伝えしたいことなどがございましたら、教えて下さい。
絵本には間があります。幸いなことにページをめくる時間、とどまることができる時間があります。その時間に読者が自身の想像力の翼を広げて自由に豊かに楽しんで頂けたらと願っています。そして少しでも明るい未来への想像につながれば幸いです。
たかおゆうこ
関連イベント開催の報告
・講演会
企画展を開催中の5月25日(土)、関連イベントとして、講演会「くるみと貝殻から生まれた絵本」がありました。
作品創作の素材やエピソードについて、そして絵本づくりへの想いなどをたっぷりと伺いました。
たかおさんは話の中で、自身の絵本作りを振り返って「子どもの頃に出会ったものは心の奥底にずっとあって忘れることができない」「(取材を重ね、出会ってきたものから)様々な生命の輝き、多様で多彩であることが生命をつなぐことになったことを感じている」「子どもたちに、自分を肯定できるような物語を作っていきたい」と、深い想いを伝えて下さいました。
今後、生み出される作品も楽しみです。
・ワークショップ
5月26日(日)には、子どもたちを含む親子を中心としたワークショップ「色と遊んで想像しよう!~色の発見から素材づくり、お絵かきまで!」を開催。
みんなでおにぎりをほおばるお昼タイムも含んで、長時間の作品作りに挑戦しました!
子どもも大人も関係なく、皆さん、それぞれに魅力的な美しい作品が出来上がりました。
たかおさん創作時の資料展示
原画展では、たかおゆうこさんが創作時に集めたものや絵本のラフなど、様々な資料も展示しています。
『うみのたからもの』では、イギリスや日本のあちらこちらを取材で巡って発掘した貝の化石や、集めた貝殻たち。
『くるみのなかには』でモデルになった胡桃の木の写真や、たかおさんが幼い頃に通ったおばあさんの家の写真。
『あなふさぎのジグモンタ』(ひさかたチャイルド)のベールのモデルや、フクロウの体の各箇所の羽まで!
絵本作家の深い観察力や学びを知ることができます。
ぜひ、原画と共に資料を見ることで、絵本を奥深く、その魅力を感じてください。
*学芸員 米山 裕美*
原画展情報
「たかおゆうこ 絵本原画展」
2024年4月12日(金)~7月1日(月)
【展示作品】
『あなふさぎのジグモンタ』(とみなが まい/作、ひさかたチャイルド)
『うみのたからもの』(講談社)
『こいのぼりくんのさんぽ』(すとうあさえ/作、ほるぷ出版)
『ちいさなふたりの いえさがし』(福音館書店)
以上、各全点
『くるみのなかには』(講談社)1点
他
絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(最終入館は閉館30分前まで、変更日あり・当館HPカレンダー参照)
休館日●木曜日(祝日振り替えあり、ゴールデンウィーク、お盆の週は開館)
入館料●大人900円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
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FAX0263-83-5885