【画家・絵本作家の声】しもかわらゆみさんインタビュー~「愛しさの絵本」絵本原画展によせて
こんにちは、森のおうちの米山です。
2023年の絵本美術館 森のおうちの企画展は、年間を通して「森よ!」をテーマにお届けします。
2023年1月27日(金)~4月10日(月) はVol.1として、
「森からささやく“愛しさの絵本”原画展」
「森からはじまる『たんぽぽのふね』絵本原画展」
の二本立てで御覧頂きます。
「森からささやく“愛しさの絵本”原画展」では、動物たちの自然な姿を残しながら、抱きしめたくなるような可愛らしさを引き出している、しもかわらゆみさんの3冊の絵本の原画全点と、絵本を創る過程のダミー本やラフなど資料を展示致します。
皆がゆとりを無くしやすいこんな時だからこそ、それぞれが周りの人々を愛しく思う心を改めて見つめ直す機会にしてほしいと、考えた企画です。
明るくやわらかな話し方の、しもかわらゆみさん。
展示に寄せて、しもかわらさんから、お人柄を感じられるお話を伺えました。
●絵本『ほしをさがしに』 創作のときのお話
<きっかけ>
講談社フェーマススクールズという通信の講座でイラストレーションを学んでいた時に色々ある校内コンペの一つ「絵本グランプリ」に応募しようと思い立ったのがきっかけです。
世の一般公募コンクールは作品まるごと一つ(24ページか32ページ)を作り上げて応募するのが基本ですが、学校内のコンクールだったので、挑戦しやすいよう全編24ページの物語を想定し、そのうちの4場面だけで応募できるというルールでした。
わたしのように絵本を描いたことのない人でもちょっと頑張れば参加できる という機会に巡り合えたのがとても幸運でした。
当時、わたしは希望者が参加できる「動物細密画」のクラスを受講していました。
図鑑などのように、科学的な動物の生態を描く時に用いられる方法です。
時間のかかる描き方ですが、元々動物が好きなのでとても楽しく学んでいました。
そして、それとは別にずっと絵本が(読者の立場で)好きだったので、自分が楽しいと感じる方法で絵本が描けたらいいなと考え、このコンクールで挑戦してみようと思ったのです。
<エピソード>
“きっかけ”として書きましたが、初めて応募した学校内のコンクールで賞を頂き、その副賞として、出版を目指すチャンスを頂きました。
ただし、実を言うと元々応募のためにわたしが書いた物語は、どちらかというと暗いおはなしで、「(絵は良いけど)物語はもっと小さな子供たちにふさわしいものに考え直しなさい」という条件付きでした。
ここからが長い道のりで、書き直しては「ダメ」また書き直して「ダメ」という具合。
ダメダメと言われ続け半年ほど経った頃、ふとこのお話の結末が思い浮かびました。
それまで考えた色々な案は自分でも「考えてはみたものの、あまりピンとこない」という感じだったのですが、このストーリーにたどり着いた時「あれ?これかも!?」と思いました。
ずっとそこにあったのに、なくしたと思って必死に探していたものがパッと視界に飛び込んできたような、一瞬呆気に取られるような不思議な感覚でした(笑)
●絵本『ねえねえ あのね』 創作のときのお話
<きっかけ>
この絵本ができた当時、紹介文を…ということで書いた文章があります。
漠然と、こういうことを書きたいなぁ と思ったのがきっかけです(^^)
<エピソード>
動物の中では哺乳類が一番好きです。その次が鳥類、次いで爬虫類と両生類。
だからわたしのおはなしに登場する動物はどうしても圧倒的に哺乳類が多いです。
なので、この時はいつもとは違うこと、哺乳類ではなく鳥のひよこちゃんを主人公にしよう と決めました。
ひよこちゃんがねずみさんに耳打ちする様子がパッと思い浮かんで「可愛~い♪これは決定!」と、ここまでは即決。
でも他のメンバーが決まるにはずいぶん時間がかかりました。
お母さんでさえ、なんですよ。
●絵本『ありがとう なかよし』 創作のときのお話
<きっかけ>
編集者さんと「ありがとうの絵本って、意外と少ないですね」という話になったのがきっかけです。
「生まれてきてくれてありがとう」や「産んでくれてありがとう」「命にありがとう」というような
「壮大なありがとう」が題材になることは多いけど、
もっと日常的な、普通の「他愛ないありがとう」のおはなしって案外少ないのかも?と思って
「尊過ぎないありがとうのおはなしを作りましょう」というところから、この絵本は生まれました。
<エピソード>
ねずみくんと友情を育む相手は誰が良いだろう?と線路沿いの道を歩きながら考えていました。
日常的な、普通のお話を書くなら、それはわたしたちのすぐ近くで繰り広げられる物語がいい。
そう、例えばこの道の脇に咲いている夏の草花の間をチョロチョロッとねずみくんが駆け抜けたとして、その後に顔を出すのは誰だろう?
この夏草の茂る中に当たり前に暮らしているのは…
「あ!カナヘビちゃんか!」
と、いう訳で「ねずみくんととかげくんの友情」という設定は案外あっさりと決まりました。
意外な取り合わせだというご感想を頂くこともあるのですが、わたしの中ではものすごく必然的で、何の意外性もない、出会うべくして出会った運命の二人なんです♪
●動物への思い
《米山:どの作品も動物が描かれ、動物への愛を感じる描き方のしもかわらさん。動物へどんな思いをもっているのでしょう?》
とても単純に、子どもの頃から好きなんです。
ただ、わたしは動物が好きなんですけど、残念なことに わたしはあまり動物に好いてもらえないのです(苦笑)
極端に嫌われるわけではありませんが。
例えば我が家の歴代の犬にも猫にも弟の方が好かれていました。
動物たちの方から見ると、わたしはあまりにも「ただの人間」なんですよね。当たり前なんですが。
ところがわたしの方は彼らに対して「好き好き大好き!」と思っているので
(好きすぎて「嫌われたくない」という思いが強すぎて挙動不審で警戒されちゃうのかも??)
結果として現実世界に於いて、わたしは常に動物たちに片思いなんです。
だから、絵を描く時には「もし、この子とわたしが親しかったら、この子がわたしに好意を持ってくれていたら
一体どういう表情を見せてくれるんだろう?どういう眼差しをわたしに向けてくれるんだろう?」と想像して描いています。
片思いが高じた結果の妄想と言って良いです(笑)
●描く対象の観察、スケッチ
《米山:動物の毛並みのタッチなど見事ですが、描く対象をどのように観察、スケッチされているのでしょうか。》
動物園などでスケッチをしている人を見ると「いいな~」ととてもうらやましくなります。
そのくらいわたしは「手早く的確に描く」ということが苦手です(残念!)
だから実際に動物の姿を見る機会に恵まれた時は、カメラの充電が無くなるまで写真を撮りまくって、その後はひたすらボ~っと眺めています。
眺めながら「うわ、可愛いなぁ」とか「へ~、そんなことするんだ」「意外と〇〇なんだな~」と、めいっぱい堪能して色んな印象を記憶と心に残します。(触れる時は触ります)
そして後になって写真や動画などの資料を大量に集めて参考にする際、その時の印象を重ねて見ます。
この「印象」というのが意外と大事だとわたしは感じています。
●画材や描き方について
《米山:現在の作品作りの形になった経緯などございましたら伺いたいです。》
先にも述べましたが「動物細密画」のクラスを受講していた時に習った方法でほぼそのまま描いています。
細い筆を使い、水彩絵の具で淡く淡く描き重ねていくのですが、今のようにカメラの性能が高くなかった昔は図鑑なども皆このようにして描かれたイラストでした。
科学的な動植物の生態を描く一般的な方法だったのだと聞いています。
と言っても、絵本で描いている絵は「本当の細密画」ほどに細かくも正確でもないので「細密画・生態画」と紹介して頂く度に「本当のそれらを描いている作家さんたちにどう思われるかしら…」と冷や汗が出ます。
●原画を御覧になる皆様へ向けてのメッセージ
人生って 好きなものが一つでも多い方が、その分幸せなんだとわたしは思っています。
逆説的?に言うと、嫌いなものは一つでも少ない方が、やっぱりその分幸せなんだと思っています。
わたしたちは色々なものを先入観で見てしまいがちなので、一度「嫌い」「怖い」と思ってしまったものとは、仲良くなる切っ掛けを失ってしまいがちです。
わたしの描く動物を見て「実物より可愛い」と言ってくださる方がおられるんですけど、「いやいや、実物の方が断然可愛いですよ!わたしは全然彼らの可愛さに追いついて行けてないですよ!」って、いつも思います。
もし、わたしの描いた動物さんたちを見て「可愛いな」と思ってくださった方は、以後、その動物に出会う機会があった時「同じく可愛いはず」と思ってその子を見て頂きたいなと思います。
そう思って見ると、きっと 本当にそこにある可愛らしさがパァァ~っと見えてきます。
そう思って見ないと見えないものって、世の中にはいっぱいあって、
そう思って見ることで 絵本の外の現実の世界で「好きなもの」が一つ増えるきっかけになる。
それはすなわち、その分人生が幸せになるってことなんだと思うんです。
大げさだと思います?(笑) でもわたしは本当にそうだと信じているんです。
特に小さな子どもさんには、色々なものとそういう出会いをしていってほしい。
わたしの描く動物たちがそのきっかけになれたら無上の喜びです。
彼らもきっと喜ぶと思います。
しもかわらゆみ
●お一人でじっくりと、ご家族で楽しくコミュニケーションをとりながら……
しもかわらさんの絵本には、見る人を笑顔にして心をほぐす力があります。
これまでも、当館内の絵本書店「星めぐり」にて、絵本を手に取り、「なんてかわいいんでしょう。つれて帰ります。」と家族を思いながら笑顔でお話し下さる方が何人もいらっしゃいました。
また、私自身、実際に育児の中で『ねえねえ あのね』を子どもに読み聞かせることでイライラがおさまり、子どもを抱きしめ、優しくできた経験を持っています。
そんな絵本を多くの親御さんたちにもぜひ読んでほしいのです。
お一人でじっくりと、ご家族で楽しくコミュニケーションをとりながらと、多くの皆様に絵本の魅力を感じていただける展示になれば幸いです。
学芸員*米山裕美
●「森からささやく“愛しさの絵本”原画展」情報
「森よ!」Vol.1●2023年1月27日(金)~4月10日(月)
「森からささやく“愛しさの絵本”原画展」
<展示作品>
『ほしをさがしに』
『ねえねえ あのね』
『ありがとう なかよし』
(すべて、 しもかわらゆみ/作・絵 講談社刊)
上記、各原画全点&資料
【同時展示】
「森からはじまる『たんぽぽのふね』絵本原画展」
<展示作品>
『たんぽぽのふね』まるやまあやこ/作・絵(世界文化社)3月刊行予定
原画全点&立体作品
絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00※12月~2月16:30閉館(最終入館は閉館30分前まで)
休館日●木曜日※2月のみ水・木曜日(祝日振り替え、変更日あり・当館HPカレンダー参照)
入館料●大人800円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL0263-83-5670
FAX0263-83-5885
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