【安曇野から発信する潤一博士の目】43~焚(たき)火~
ある年の9月下旬、2人の学生が北アルプスで行方不明になった。ヘリコプターによる捜索でも発見されず、山では初雪も降り、捜索最終日を迎えた。この日幸運にもヘリコプターに反応があり、発見・救助された。
後日私は学生に質問した。“なぜタキ火をしなかったのか?”と。タキ火をしていれば、その煙でヘリからもすぐに発見されたはずだから…。学生の答えは“何回も火を起こそうと試みたが、木が湿っていて火が点かなかった”とのことだった。また、非常食はチョコレートやカリントウを持っており、ヘリが捜索していることはわかったので、動かずに救助を待っていたとのことだった。
この出来事を機に、一年生の野外実習に“タキ火”を取り入れ、山中の悪条件のもとでもタキ火が出来るように練習することにした。
タキ火は、テント泊での調査には不可欠だし、心にゆとりや安心感を与えてくれる。また非常食の大切さも実感できたことで、4年生は卒業研究で山に入るときには、必ず非常食を持つようになった。フィールドシーズンが終わったリュックの中には、粉々に砕けたカリントウの袋が入っていたとのこと。非常食を必要としなかった安全な山歩きの証であった。
(地質学者・理学博士 酒井 潤一)
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