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【画家・絵本作家の声】絵本『雨ニモマケズ Rain Won’t』『やまなしMountain Stream』~山村浩二さん、アーサー・ビナードさん、編集者さん
こんにちは、森のおうちの米山です。
おかげさま開館30周年を迎えた当館の今年最後の企画展は、当館が指針としている宮沢賢治作品の絵本原画展「西洋の薫り~宮沢賢治絵本原画展」です。
<展示について>
宮沢賢治が生前に出版した書籍はたったの2冊でした。
今年は、その詩集(心象スケッチ)『春と修羅』と、童話集『注文の多い料理店』の発刊から100周年を迎えました。
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そこで、今一度『注文の多い料理店』をご来館の皆様に読んで頂こうという所からスタートし、「西洋の薫り」をテーマに今回の企画となりました。
まずは、宮沢賢治作品の絵本シリーズをライフワークとして出し続け、2003年には花巻市などが出す宮沢賢治賞を当時、絵本作家として唯一受賞した小林敏也さんの『画本宮澤賢治 注文の多い料理店』、『黄いろのトマト』の2作品。
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今回、このうち、『画本宮澤賢治 注文の多い料理店』の展示は画家自らどのように額を配置するかや、レイアウト、展示作業をし、展示をみる人にも“注文がある”魅力的な展示空間となっています。
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また、詩人アーサー・ビナードさんが、言葉の裏にある文化や宮沢賢治の世界観、造語の響きを壊すことなく訳した賢治作品の英訳に、アニメーション作家・絵本作家の山村浩二さんが、動きを感じさせる構成で絵を展開する、賢治作品の絵本としては新たな試みのコラボレーション作品『雨ニモマケズ Rain Won’t』『やまなし Mountain Stream』の2冊の絵本の原画全点を展示しています。
この2作品の原画が同時に掛かるのは本展が初めてとなります。
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宮沢賢治/文、アーサー・ビナード/英訳、山村浩二/絵、今人舎刊
当館としては、2013年に『雨ニモマケズ Rain Won’t』が発刊されてからずっと原画展をしたいと願っていた、念願の展示です。
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<山村浩二さん、アーサービナードさん、編集者さんへインタビュー>
今回は、この展示の中から、『雨ニモマケズ Rain Won’t』『やまなし Mountain Stream』について、山村浩二さん、アーサービナードさん、今人舎の編集者さんに当館からの質問に答えていただきました。
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宮沢賢治/文、アーサー・ビナード/英訳、山村浩二/絵、今人舎刊
裏表紙(帯付き)
●どんな経緯で、『雨ニモマケズ Rain Won’t』『やまなし Mountain Stream』の作品をつくることになったのでしょうか。
<山村浩二>
アーサー・ビナードさんとNHKの「プレキソ英語」という番組で、一緒にアニメーションを制作していた時に、「雨ニモマケズ」の英訳絵本の企画があると声をかけていただきました。
『雨ニモマケズ Rain Won’t』が好評で、すぐに第2弾として「やまなし」の企画が出版社から提案がありました。
元々賢治の作品の中でもこの2つは、思いがある作品でしたので、どちらも前向きにお引き受けしました。
<編集者>
2014年3月、山梨県北杜市大泉にある、「金田一春彦記念図書館」で原画展を実施。
(この年の原画展は山村先生のサイトご参照:http://www.yamamura-animation.jp/Jp_BOOKS_PB_I_Arthur_Binard.html )
アーサー先生がゲストとしておいでくださり、サイン・お話会をしていただきました。
懇親会の席で、出版社社長(当時)から、次回作のご相談をアーサー先生に。雨ニモ制作中から構想していた「やまなし」をご提案しました。「ここは山梨県ですね。やまなし、ぜひやりましょう!」と、その場の皆様、盛り上がりました。
その後すぐに山村先生にご提案し、ご快諾くださったという流れです。
ちなみに、8年後しで『やまなし』が完成した際には、やはりはじめの場所で、と、同じ金田一春彦記念図書館(ほか、県内の図書館をキャラバン)で原画展をさせていただきました。
●山村浩二さんがこの作品に込めた想いを教えて下さい。
<山村浩二>
どの作品も、内心的にはとても共感する原作なのですが、よくわからないところも多く、それを絵本創作を通じて自分なりに理解を深められました。
●アーサー・ビナードさんはどんな想いを持って英訳されているのかを教えて下さい。
<アーサー・ビナード>
宮沢賢治は造語の名手であり、『やまなし』を翻訳するためには英語でも同じように新しい言葉を作らなければなりません。
自分が作っている英語が賢治の日本語と本当に共鳴しているかどうか深めて確かめるために、かなり時間がかかりました。
それぞれの絵本のあとがき「今ニモマケズ」「なま麦なま米プラトン」を、ぜひご覧下さい。
●『雨ニモマケズ Rain Won’t』について、絵本づくりの上でのこだわりの点やエピソード、見どころを教えていただければ幸いです。
<山村浩二>
賢治が過ごした章は初期の日本の現実を描くことです。また随所に賢治の童話や詩に登場する動植物を散りばめました。
賢治のインスピレーションの源を描くことで、この詩の深い理解につながればと思い描きました。
また主人公を賢治その人や、詩人、教師とせず、郵便配達員にしたところが、一番の狙いです。
これはアーサーさんの「アメリカにも負けず」のエッセイで、「雨にも負けず」というフレーズが、フィラデルフィアの郵便局の標語に書いてあり、それはヘロドトスの「歴史」からの引用で、賢治もこの引用をノートにメモしたのかも知れない、と言う考察でした。
そこから郵便局員を主人公にするアイデアを思いつき、村の様子を俯瞰的に見ている郵便局員の視点で描くことで、詩の全体の整合性が取れると考えました。
●『やまなし Mountain Stream』について、絵本づくりの上でのこだわりの点やエピソード、見どころを教えていただければ幸いです。
<山村浩二>
実際テキスト上では、「2枚の幻燈」を見ているだけですが、「オズの魔法使い」のように「幻燈」を見ている兄弟の現実が、幻燈のカニの兄弟の物語の空想へと広がる物語だと考えました。
美しい水の表現が随所にあり、月明かりの青さも表現するために、藍染の顔料を使いました。
●編集者さんが先生方にお願いしたことは何かございますか。
<編集者>
すべて、先生方のお力にお任せしていました。こちらから、作品の内容、解釈の仕方、作り方などについて具体的にお願いすることはありませんでした。
この絵本は、日本語から絵をつけるのではなく、まずアーサー先生が、英語ネイティブの方にも宮沢賢治の世界観を伝えられるような英訳に取り組むことから始まります。アーサー先生がその解釈をするのに、8年かかったといっても過言ではありません。クラムボンを、crambomと横文字に置き換えてもなんの意味もありません。それをどう訳すか?とアーサーさんが葛藤するうちに、最後、さらに数年がたちました。
アーサーさんの解釈を、山村先生に、対面の打ち合わせでお伝えします。
が、これも、お話し合いは全てお二人にお任せです。本当にプロ中のプロのお二人の会議は、その場でどんどんと様々な化学反応がおきます。その場で山村先生の指から紙に作品となって表されていき、本当に密な時間でした。
完成までの数年、わたしが務めていたのは、とにかく折を見て、ビナー度先生に何度も何度もお目にかかり、また山村先生には、その都度ビナード先生のご様子をお伝えして、お二人の先生方に、やまなし完成へのモチベーションを維持し続けていただくことだけでした。
●以上の他、作品を御覧になった方にお伝えしたいこと、などがございましたら、教えて下さい。
<山村浩二>
上記のように、『雨ニモマケズ Rain Won’t』で、賢治の童話や詩に登場する動植物を見つけてみたり、『やまなし Mountain Stream』で現実と空想の世界のつながりを探すのを楽しんでいただければと思います。
●今回の企画展にご来場の皆様に向けてのメッセージをお願いいたします。
<山村浩二>
賢治のビジュアル化は大変難しく、正解はないのかも知れませんが、アーサーさんと私との独自の解釈で生まれた2つの物語を、この絵を通じて再発見していただければ幸いです。
ーーーインタビュー終わりーーー
12月1日には、アーサー・ビナードさんがお越し下さり、「いよいよもってクラムボンが怪しい」と題して講演会をしてくださいました。
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魅力的な内容、話の展開のおもしろさ、テンポのよさを、お伝えしきれないほど充実した時間となりました。
こちらについては、また別の形でお伝えできれば嬉しいなと検討中です。
<原画展情報>
森のおうちは年末年始を休まず開館しております。
ただし、開館時間に変更がありますので、館HPカレンダーをご確認の上、ご来館ください。
また、1月7日(火)~16日(木) は冬休みになります。
ご注意下さい。
この機会に皆様のご来館をお待ち申し上げております。
学芸員*米山裕美
2024年10日4日(金)~2025年1月20日(月)
「西洋の薫り~宮沢賢治絵本原画展」
【展示作品】
『雨ニモマケズ Rain Won’t』
『やまなし Mountain Stream』
(以上、宮沢賢治/文、アーサー・ビナード/英訳、山村浩二/絵、今人舎)
『注文の多い料理店』(好学社)
『黄いろのトマト』(パロル舎版)
(以上、宮沢賢治/作、小林敏也/画)
各全点
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絵本美術館 森のおうち
399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL 0263-83-5670 FAX 0263-83-5885
開館時間●9:30~17:00※12月~2月は16:30まで(最終入館は閉館の30分前) ※変更日有、当館HP参照
休館日●木曜日(ゴールデンウィーク期間・お盆期間中・年末年始無休)※祝日振替休有、当館HP参照
入館料●大人900円 小・中学生500円 3才以上250円 3才未満無料
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