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飼い主さんと、何をどのように話しているのか〜獣医師が考える「対話」の方法

「一人ひとりの飼い主さんと、
じっくり、時間をかけて向き合っているんですね」

私たちの病院の診察のスタンスについて話すと、たまに、このようなコメントをもらうことがあります。

病気やケガ等の症状、動物の状況・状態を診るだけではなく、動物を含めた「家族」と向き合い、飼い主さんとの対話を重ねていくことが「動物を含めた家族みんなの幸せ」につながるはずだ

以前のnoteで書きましたが、「対話をする=一人ひとりと、じっくり、時間をかけて向き合う」とイメージする方もいるのでしょう。でも、実際のところ、そこまで多くの時間をかけているわけではありません。

では、一体、何をどのように聞いているのか。
今日「飼い主さんとの対話」について、その中身背景にあるものを紹介していきます。


飼い主さんに向き合うことで、結果として診察がスムーズになる

まず、私にとって「飼い主さんと向き合うこと」は、多くの動物や飼い主さんと向き合うなかで「これが大事なんだ」と気づかされたことです。

なぜ大事なのか。
それは、動物だけをみていてもわからないことがあるからです。

動物病院にくる動物たちは、何らかの症状を抱えています。
獣医療スタッフは、その症状をつくりだしている原因を特定して、治療をしていくことになるわけですが、症状を生み出す原因は、一つとは限りません。
その症状は細菌感染によるものなのか、ウイルス性なのか、細菌やウイルスだとしたら具体的にどういうものなのか、それとも内臓に問題があるのか、心因性(ストレス)なのか……こうした様々な可能性のなかから「本当の原因」を特定していくことになります。

このとき、動物”だけ”をみていると、原因の特定に、かなり時間がかかります

動物は話すことができませんから、普段の生活を聞くことはできません。
となると、知識・経験をもとに、色々な可能性に対して一つひとつ検査をして確かめていくことになるのです。

でも、飼い主さんからヒアリングができると、このプロセスが、かなりスムーズになります

たとえば、皮膚に炎症が出ている場合、細菌やウイルスによる炎症のほかに、ストレスから自傷行為を行なっている可能性も考えられます。

「最近、家庭環境で変化はありませんでしたか?」

と飼い主さんに訊ねて、「実は、この子を可愛がっていたお姉ちゃんが大学生になって、4月から一人暮らしをはじめて……」となった場合、「ストレスからの自傷行為」の可能性が高くなります(もちろん、別の可能性も視野に入れながら診療を進める必要はありますが)。

検査でも動物をみることはできますが、検査でわかるのは部分的です。
検査でわからない部分——普段の生活の様子などは——は、飼い主さんから引き出す必要があるのです。

また、治療をして回復したと思ったら、また同じ症状をくり返してしまう……といった場合、根本的な原因は解決できていない可能性が高いと言えます。この時、根本的な原因を特定するヒントは、飼い主さんの言葉に隠されていたなんてこともあり得るのです。

「飼い主さんに向き合う」とか「飼い主さんとの対話を大切にする」「飼い主さんの話をしっかり聴く」というと、愛情溢れた人間味のある応対をイメージするかもしれません。
しかし、対話やヒアリングには、こうした診療上のメリットもあるのです。

話を聴くのは、時間よりも「中身」が大事

実際の現場では、スピード感も求められます。
急患が入ることもあるので、限られた時間で診察し、判断していくことになるわけですが、ここで大切になるのは「ヒアリングの質」ではないでしょうか。

また、たっぷり時間をかけたら、必要な情報が聞き出せるとは限りません。
「何を、どのように聞いていくか」が大切だと思うのです。

たとえば、動物病院には、
「今日、これからみてもらえませんか?」
という電話がかかってくることがあります。

私たちの動物病院は、ありがたいことに毎日、ほぼ予約で一杯。
とはいえ、急を要する場合ならば可能な限り受け入れたいと思っています。そのため、電話を通じて「本当に今日、来てもらったほうがいいか、それとも明日以降でも問題ないか」を判断するための情報を伺うようにしています。
動物の命に関わる可能性もあるので、電話を受ける人は責任重大です。

では、この時、何をどのようにヒアリングすればいいのか
私はスタッフに

「飼い主さんの状況が、自分のなかで映像化できるようになるまで話を聞いてほしい」

と伝えています。

ただ詳しく聞いて、情報量が多ければいいわけではありません。
飼い主さんが見ているもの、感じている感覚を、自分自身も見たり、感じたりできるようになるまでヒアリングしていくのです。

時には、飼い主さんの言葉が的を得ないこともあるでしょう。
それに、上辺の言葉に耳を傾けるだけではなく、言葉尻から「ほかに言いたいことが何かあるのではないか?」と違和感に察知し、そこに踏み込んでいかなければいけないこともあるでしょう。

こうしたやり取りには、難しさや大変さがあるかもしれませんが、何が必要かを理解し、ヒアリングをしていくと、たとえ短時間でも本質的な情報に辿り着きやすくなるのです。そうなると、一気に診察がスムーズになるというのは、前半に書いたとおりです。

「理想」は後からついてくる

意外かもしれませんが、実を言うと私は「獣医師として、こうあるべきだ」という高らかな理想をもっているわけではありません。
毎日やっているのは、とにかく目の前の動物と飼い主さんと向き合い、対処していくことです。

記事でご紹介しているような、印象的だった飼い主さんのエピソードだけを集めると、じっくり、ゆっくりやっているように見えるかもしれませんが、実際の診察は、想像よりもっと短時間だし、客観的には淡白で事務的なものに映るかもしれません。

とはいえ、短時間のやり取りのなかでも、できる限り飼い主さんと向き合い、動物の症状を生み出している背景にあるものを探ろうとする。そのスタンスは、どの診察でも変わらないことです。

そもそも「飼い主さんに向き合う」という今のスタンスは、「こうあるべきだ」と思って出来上がったものではありません。多くの動物や飼い主さんと向き合ってきたなかで「こういうことが大事なんだ」と気づかされ、「こうした仕事のやり方は、やりがいがある」と感じたものです。
だからこそ「他の動物病院や獣医療に携わる方と分かち合っていきたい!」と思い、こうしたnoteを綴っています。

というわけで……

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