Chet Baker〜ブルー ヴァレンタイン ジャズ
2月14日は、こちらの国はヴァレンタインデーではなく「友だちの日」だ。
愛を告白する日でも、恋人同士が愛を囁き合う日でもなく、女性から女性、男性から男性、女性から男性またはその逆などなど、親しい友人にクッキーなどほんのちょっとしたものを贈る日なのだ。それもけっこう最近のことで、その前は只の普通の日だったので、そんなに定着もしていない。
あくまでも欧米の商業主義には迎合せず(いちおうヨーロッパなんだけど)我が道をゆくこの国(笑)
日本のヴァレンタインデーは盛り上がってますよね。
デパートのチョコレート売り場は女性で一杯、有名パティスリーのチョコレートも続々と販売され、よりどりみどり。私は自分で自分に美味しいチョコレートを買ってました(笑)
一度だけ夫にもピエール・エルメのチョコを奮発してプレゼントしたこともあったけど、ヴァレンタインデーのない国の民である夫には、は?なんで?とキョトン顔され、高級チョコを一気喰いされムカつきました(苦笑)
会社勤めをしていた頃は、今年こそ義理チョコはやめよう、ということで女子社員で同盟を組み、あげない方向で進むものの、その密約を破り抜け駆けする女子が必ず出てきたり(苦笑)
男性にとっては苦難の日でもあるのでしょうか?
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前置きが長くなりましたが、今日はヴァレンタインデーにちなんだジャズをということで、Chet Bakerをお届けします。
トランペットを吹きつつ歌う、というのはジャズでは珍しく、他に思いつくのはサッチモくらいか。彼のようなジャズメンは今でもあまりいない。
My Funny Valentine
チェットの歌は、巧いとか下手とか技巧的なことを超えたところにあると思う。
どこか捉えどころのないような、彼にしか出せない独特の空気感があり、唯一無二のスタイルなのだ。
I've Never Been In Love Before
(Vocal Version)
物憂げで中性的とも言える甘美な歌声と、ソフトで洗練された演奏からは、想像もつかないような、ドラッグと其れにまつわる数々のトラブルにより、トランペッターの命とも言える前歯を全て折られ演奏活動ができなくなったりと、破滅的な人生を歩んだチェット・ベイカー。
若い頃1950年代はマイルス・デイヴィスにも肩を並べるほど、ウエストコースト・ジャズで頭角を現し、甘いマスクも相まって女性人気も高かったという。
晩年は若い頃の面影は全くなくなり、まだ50代とは思えないほど深い皺が刻まれ枯れた風貌からは、人生の光と影を感じさせた。
Autumn Leaves
生涯ジャンキーだったチェットは、アメリカやヨーロッパを転々とし、しかしそれでもトランペットは手放さなかったが、オランダのホテルで不可解な転落死を遂げ、58歳で人生の幕を閉じたのだった。
Almost Blue
チェット・ベイカーを題材にした映画「ブルーに生まれついて」
白人ジャズのプレッシャーとクスリの誘惑、愛、苦悩、悲哀、埋まらない父親との溝、壮絶な人生を描いたフィクション。
ここに登場する、どんな苦境の時も献身的に彼を支える恋人のキャラクターは実在しないらしいが…。
チェットの不安定な繊細さ、頽廃にまみれた中の一握りのピュアな部分を、イーサン・ホークが好演している。
ラストは、音楽への希求とジャズメンのどうしようもない業の深さまでも感じさせた。
実際の彼の人生は、もっともっと闇深く、悪魔に魅入られたようなものだったと言うけれど。