もぐらの亡骸に抱く憧憬。
畑へ向かう小道にしかれた飛び石の真ん中に、
だれかが落としたぬいぐるみのキーホルダーみたく
死んだもぐらがポツンと横たわっていた。
ピンクのツンとした可愛い鼻。
傷もなく、体はきれいだった。
わたしは
持っていたシャベルにもぐらを乗せて、
脇の植え込みの中へよけた。
カラスやネコに、やられてしまったのだろうか。
それともなにかの病気だったのか。
分からないし、分かる訳もないのに
わたしは、この日ずっと
なぜか死んだもぐらのことを考えていた。
▷地球もぐら。
畑に通うたびに、
わたしは植え込みの中をのぞき込んだ。
なにか
おそろしい形相になっていたらどうしようかと
恐る恐るのぞき込んだ。
怖いもの見たさ、とかではなく、
なんだか気になって、
『あのもぐら、いるかな?』のような
確認みたいな感じ。
もぐらはいた。
いつもキレイな状態だった。
一カ月くらいたったころ、
もぐらはとつぜん、毛だけになった。
ふわふわの毛だけを残して
いなくなっていた。
土に還ったようだ。
毛は、
腐りにくく分解に時間がかかる、と聞いたことがある。
ほんとうに、
もぐらの毛だけが、そのまま地面の上に残っていた。
やがて、その毛も
風に飛ばされたのか
なくなっていた。
わたしは
もぐらのことを考えつづけた。
もぐらはいなくなった。
土に還った。
モグラは土になった。
もぐらは
地球の一部になった。
だからもぐらは、
完全にいなくなったわけではない。
わたしは
この時
地球になったもぐらを
羨ましく思った。
▷ついつい人間やってます。
別に、
『永遠の命が欲しい』と思っているわけではない。
いつかこの体を地球に還せるのなら還したい、と思ったのだ。あのもぐらのように。
なにも還せない。
さんざん貰っておいて。
わたしはこの地球に、
果たして
なにかを還せるんだろうか。
還せる気がしねぇ。
大地の養分となったもぐら。
わたしは
無性に焦がれた。
大地になったら
草や野菜や花や木々に養分を分け与えたい。
そして
虫や動物や人間が
豊かになっていったら
メチャええやん、と思う。
人間て、
ついつい人間やってると
なぜかじぶんも自然界の一部だって
忘れちゃうような、
どこか独立した存在のように錯覚してしまう。
だから
『ダイレクトに
自然の一部になりたい』と、
そう
思わずにはいられなかった。
▷土葬。
土葬OKの地域もある。
調べてみると
まだまだ土葬で埋葬可能な地域が
東北のほうにあった。
ただ実際は許可が下りなかったり、
いくつかの条件があったり(規定の穴の深さの確保など)
確実に土葬が叶うとは
言い切れないのだそう。
ただ焼かれ、
狭い壺に、なぞに骨だけ入れられたくないなぁ。
終わったら、還したい。
土葬が目標になったわたしは、
じぶんが
まさかこんなにも、還したい派だっただなんて
知らなかった。
ありがとう還元祭、のように。
還元率0%って、ケチすぎやしないか。
還すことが
とても自然なことだと
思えてしまう。
そして
土葬はまだ先の目標として、
だったら、
それこそ
挨拶とか
食材からもらったエネルギーだとか
とつぜんのアイディアとか
表現とか
祈りとか
された親切や
された優しさは
さっさと還しなさい、そう思った。
貰ったものを
そんなに還したいのならば。
少しずつ
還せるもんは
還していこうと思う。
もぐらの亡骸を見てから、そう思った。
そんなわたしは
さっそく切った爪を、
窓からじぶんの家の敷地内に地味に投げたりしている。
(それもどうなん)
☕︎ Have a nice day! ☕︎
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