第一話「それぞれの桜、開花の時」
葛飾北斎の版画で「桜花と富士図」と言う作品がある。
横長の大判の版画であり、満開の桜の樹々の間から富士山が見えるものだ。
桜の開花は、面白いもので、九州より東京の方が早かったりする。九州は、熊本が中心となって、広がるように開花していく。だから、鹿児島、特に屋久島の桜の開花は遅いのである。
この場合の桜は、ソメイヨシノのことを言っており、山桜は別である。
海や街から見える屋久島の山は前岳と呼ばれ、1,000メートル前後の山が連なり、その奥に2,000メートル近い九州の最高峰の山々が聳え立つ。前岳を登って初めて見えるのが奥岳であり、前岳と奥岳の間を埋めるように、樹林帯が広がっている。白谷雲水峡を登って行って太鼓岩に立つと、奥岳が見渡され、その間を埋め尽くすように山桜が広がる。
得も言えぬ、長閑でかつ山の凛とした気品がある美しさなのだ。
屋久島の人は、山桜の開花を楽しみにしており、山に登った人がFacebookなどで、開花をし始めている写真を上げると、普段山に登らない島の人達も子供連れで登っていく。
みんな楽しみにしており、春を感じる風物詩である。
そして山のピンクが消え去ると、
色とりどりの緑がエネルギーを含んで萌え初夏に向かっていく。
春とは、日本人にとって、
新たなエネルギーを持って再生する季節なのであろう。
さて、この4月から「屋久島の深く静かな森の塾」を、事業構想大学院の修業生の有志からの話もあって始める。
これがその初回の原稿なのだ。
昨年から東京の修業生とともに、隔月で様々な視点で物事を議論して切り取ってきたが、希望者が増える中で「塾」として、様々な事象をマスコミに踊らせることなく、考えていこうと思っている。
そして、究極的には、一人一人の自分なりの視点を持ちながら、自分は何者なのか?何のために生きるのか?と言うことを考えてみたいと思っている。
我が宿に生える姥桜も、毎年GW近くになって漸く花をつける。
宿の裏に桜の道があるのだが、その桜並木も4月中旬ごろの遅い開花である。よって、我が家では、この時期に「桜花と富士図」を飾って、お花見をすることになる。
春だなぁ。
生命力が溢れ出すこの季節、来年もそして再来年以降も塾生が集まり、
ワイワイガヤガヤとお花見ができれば嬉しいものである。
森の黒ひげ塾
塾長 早川 典重
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