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【夜の魔法シリーズ「優しい店主の物語」】第二話『本のお医者さん』〜記憶を治す本屋の物語〜
もし、あなたが大切にしている一冊の本が壊れてしまったら、どうしますか?
その本には思い出が詰まっているでしょうか?
誰かが読んでくれた声や、その本を手にした日の景色が浮かび上がるでしょうか?
そんな時、もしその本が蘇るだけでなく、失われた記憶や想いまでも蘇る場所があったら……。
ここは、そんな不思議な小さな本屋さんのお話です。
街の片隅でひっそりと営まれているそのお店では、
「本のお医者さん」と呼ばれる老人が、訪れる人々の壊れた本と、心に眠る物語をそっと修理していきます。
さあ、少しだけ時間を忘れて、この本屋さんの扉を一緒に開けてみませんか?
どこか懐かしい香りが漂う店内で、今、物語が始まります。
〜第一章 本のお医者さん〜
町の外れにひっそりと佇む、小さな本屋さんがありました。
その名は、「ページの記憶」。古びた木製の看板には、こう書かれています。
「本のお医者さんー思い出の物語、修理します」
店主は、リオンさんという白い髭をたくわえた優しい老人。古い本や壊れた本を持ち込むと、彼は驚くほど丁寧に修理してくれることで評判でした。
彼の手にかかると、ただ本が直るだけではありません。
その本に込められた‘’想い‘’までもが蘇ると言われていました。
リオンさんのお店にはいつもどこか懐かしい香りが漂い、訪れる人々をほっと安心させてくれます。
〜第二章 雨の日の来訪者〜
ある雨の降る午後、お店のベルがちりんと鳴りました。
リオンさんが顔を上げると、傘も差さずにびしょ濡れの小さな女の子がお店の中に入ってきました。
年は7歳くらいでしょうか。彼女はおずおずと古びた布袋を抱えています。
「ごめんなさい…これ、直して欲しいんです」
女の子が差し出したのは、小さな絵本。
表紙にはやさしい色で描かれた子うさぎの絵。
しかしその絵本は、表紙も角も擦り切れ、ページは何枚か外れていました。それでも女の子は、その本をぎゅっと抱きしめています。
「お母さんがね、いつもこの本を読んでくれたんです。
でも……お母さんはもういなくて……」
彼女の言葉にリオンさんは一瞬、目を細めました。
やがて静かに頷くと、柔らかな声で言いました。
「大切な思い出の本なんだね。もちろん、お医者さんにお任せを」
〜第三章 思い出の絵本〜
リオンさんは、いつも通り丹念に修理を始めました。
擦り切れた表紙を磨き直し、剥がれたページを丁寧に繋ぎ合わせ、失われた部分は同じ紙の質感を探して補いました。
しかし、今回はいつも以上に特別な作業が必要だと感じました。
修理が終わると、リオンさんは引き出しから銀色の小瓶を取り出しました。その中には、きらめく星屑のような粉が入っています。
「本には、ただの文字や絵だけじゃない。読んだ人の思い出や想いも詰まっているんだ」
リオンさんは絵本の表紙にそっと粉を振りかけ、絵本に耳を当てました。
すると、かすかに誰かの笑い声と優しい歌声が聞こえてきます。それは女の子のお母さんの声でした。
〜第四章 生まれ変わった本〜
数日後、女の子が本を受け取りに来ました。
絵本は新品のように美しく生まれ変わり、手触りまで優しくなっています。
「これ、読んでみてごらん」とリオンさんが言った。
女の子がページを開くと、なんと本の中に小さな光が差し込み、物語の中のうさぎたちが動き出したのです。
そして、次の瞬間、そこには女の子のお母さんが現れました。
柔らかい声で子うさぎの冒険を読み聞かせる姿が、ページの中に浮かび上がってきたのです。
女の子の目からは涙があふれました。
しかし、それは悲しみの涙ではありません。
まるでお母さんがそばにいるような温かさが、彼女の胸を満たしていきました。
「お母さんが、ここにいる……」
リオンさんは微笑みながら頷きました。
「本はただ読むものではなく、心と心を繋げる魔法なんだよ。この絵本は、お母さんとの大切な時間を覚えているんだ。」
〜エピローグ 本のお医者さんの物語〜
その日を境に、「ページの記憶」の評判はさらに広がり、多くの人々が本を修理に訪れるようになりました。
それぞれの本に込められた思い出が、リオンさんの手で優しく蘇り、読んだ人々の心を癒していきます。
誰かが一度、「どうしてリオンさんはこんなことができるの?」と尋ねたことがありました。
彼は静かに答えました。
「本の記憶を治すのは、僕じゃないよ。その本を愛した人たちの想いが、僕の手を借りて蘇るだけさ」
その言葉通り、リオンさんの店では今日も、壊れた本とともに、人々の心の物語が修理されていきます。
リオンさんの仕事は、ただの修理ではありませんでした。それは、失われた時間と想いをもう一度繋ぎ直す魔法。
そして「本のお医者さん」の物語は、これからも続いていくのです。
『本のお医者さん』いかがでしたか?
もし、あなたの大切な本が壊れた時、その本に宿る思い出や記憶まで直してくれる場所があったら、どう感じますか?
この物語のリオンさんのように、誰かの心に寄り添い、壊れたものを修復することは、必ずしも「本」だけではないのかもしれません。
もしかしたら、私たちの身近にも、そっと心を繋ぎ直してくれる
“本のお医者さん”のような存在がいるのかもしれませんね。
あなたにとって、思い出深い本はありますか?
その本には、どんな物語が詰まっていますか?
ぜひ、この物語を読みながら、あなたの中の「本の記憶」に耳を傾けてみてください。