キノコのことだけを考えるnote。スーパーに並ぶキノコとお店でしか出ない高級キノコは何がちがう?
「おいしいキノコ料理専門店があるから旬になったら行こう。」
わたしの森の師匠と「なぜ土はふかふかしているの?目に見えない土の中のはたらきものたちの話」の記事について意見をもらっているとき、師匠が不意にこんなことを言っていた。
↓この記事。
この記事の中にキノコの話が出てくるから、そんな話になったのだと思う。
その時は3月か4月。まだキノコの旬ではないので、へ〜そんなお店あるんだ!くらいで話は終わっていた(気がします)。
そして月日が経って、8月が終わるころ。
「そろそろ本格的にキノコの季節が始まります。キノコ料理専門店に行く日もそろそろ検討しましょう。」
言ったことはちゃんと実現してくれる。師匠の素敵なところ。
(約束したものの、月日が経って忘れちゃうなんてことも大人になったらありますよね。)
ということで、9月中旬にキノコ料理の専門店に行くことができました。
お店の名前は「恵比寿マッシュルーム EBISU MUSHROOM」。
恵比寿にそのお店はあります。
もしかしたら知っている方もいるでしょうか。
店内に入ってみると、数えきれないほどのキノコの置物。
恵比寿マッシュルームのオーナーシェフである山岡昌治さんはお休みの日には山へキノコ狩りに出かけたり、お家のドアノブをキノコのオブジェにしたり、ただならぬキノコ愛の持ち主なのです。
フランスに修業に行っていた際、世界中の天然キノコの奥深さに魅了されて、日本に帰ってきてキノコ料理を中心としたフレンチレストランをつくったようです。
これまで生きてきてこれだけキノコ尽くしのディナーをいただいたのは初めてだった上、名前さえ聞いたことのないキノコを味わうことができて、楽しいひとときだった。
キノコ初心者のわたしはあまりに感動して「記事にしたい!」と師匠に駄々をこねてみたら、
「うーん。そういうことなら、まずはお店の了解を得て、きちんとインタビューさせていただいた上でないとまずいよね」
ということで、もう一度お店に行く機会を恵んでくれました。
なので、実は、わたし、2回行っています。
しかも1回目はディナー、2回目はランチ。ランチとディナーの両方をしっかり楽しませていただきました。
贅沢させてもらいすぎました。(すみません。ありがとうございます。)
今回は2回目に訪問した際にいただいた「キノコづくしのお任せランチコース」をご紹介しながら、キノコについて語る、キノコづくしnoteです。
キノコづくしランチ開始
まず初めの一皿として出てきたのがこちら。
上にのっている白いリボンパスタのような、フリルのようなものがキノコです。
名前は、ハナビラタケ。
食べてみると、すこしコリコリした食感でおもしろい。
クセがなく旨みを感じる。お鍋とかに入れてもおいしそうな感じ。
ハナビラタケは標高1,000m級の山のカラマツなどのマツ類の根元などで見られるらしい。
すでに枯れている(もしくは弱っている)マツ類を分解するキノコです。
(木って枯れるとそのまま残るのではなく、キノコなどの菌類によって分解され、土に還ります。自然は循環していますね。)
最近では人工栽培もされているみたいですが、
自生している天然ものはかなり珍しいようで、キノコ好きが山で見かけようもんなら飛び回りたい気持ちらしい。
師匠とちょいちょい登場しているわたしの父が2010年9月7日に「サントリー天然水の森 赤城」で見つけたようです。
これは父からもらった写真。
「撮影日は、2010.09.07. お店でもお話しした通り、もういわゆる“薹がたっている”状態ですね。」
とのこと。
“とうがたっている”。成長しすぎて食べられる時期を過ぎてしまった、と。
こちらの写真は残念ながら表面が茶色く傷んでいますね。
もうちょっと前だったら白く美しく、名前にもついているように、まるで花びらが折り重なるようだっただろうな、と思います。
マッシュルームってマッシュルームじゃないらしい
そして次にいただいたのが、ジャンボマッシュルームが贅沢にあしらわれたこちら。
大きいっ!!
肉厚で歯応えがよく、口いっぱいに広がる風味がやはり最高でした。
フォアグラの上にかかっているソースにもマッシュルームが使われていて、フォアグラのこってりとした旨みによく合う。
いただいたパンにたっぷりソースをつけて、きれいにいただきました。
マッシュルームといえば、みなさん!
マッシュルームってマッシュルームじゃないってご存じですか?
いや、ね。
こちらのお店の名前「mushroom」じゃないですか。
お店が落ち着いた頃に、オーナーシェフの山岡さんのお話をうかがうことができたので、聞いたんです。
数あるキノコの中で、なぜマッシュルームを選んだのか。
そしたら山岡さんが
「・・・あ、マッシュルームは元々英語でキノコって意味なんですよ。」
はっっ!!なんか聞いたことある!!!
マッシュルームはキノコの総称というか、キノコ全体を指している。
日本でいわゆる「マッシュルーム」と売られているキノコは和名「ツクリタケ」。
なぜか日本では「マッシュルーム」とつけて販売していたら、定着したらしい。
(一説によると、ブラウン・マッシュルームとホワイト・マッシュルームがあるから、それらを総称してマッシュルームになったのかも、という人もいるみたいです。真相は闇の中ですが。)
なんて、ややこしいの!
なので、山岡さんはいわゆる「マッシュルーム(ツクリタケ)」をイメージして名前をつけたのではなく、キノコが伝わる店名をいろいろ考えた結果、キノコを表すし、覚えやすいしということで「mushroom」に落ち着いたようです。
知識不足すぎる恥ずかしい質問しちゃったけど、勉強になったからよしとしましょう。
ついに看板メニューをいただく
料理界屈指のキノコ博士こと山岡さんの元にはさまざまなキノコが集まってくる。
「趣味で山にキノコ狩りに行ったり、こういうお店をやっていると、全国各地にネットワークができまして。」
その全国にある希少な野生種や高品質の栽培種などから厳選されたキノコをソテーするという料理。
それがこちら。
キノコ自体の個性をきちんと生かすように、必要最低限の調理がなされています。
お店を始めた当初はこのキノコ色々ガーリックソテーはメニューになかったらしい。
それが趣味のキノコ狩りやこうしたお店を続ける中で、北は北海道、南は九州まで繋がりができたことにより、1年を通して豊富なキノコが入手可能になりました。
だからこそ、定番メニューとしてキノコ色々ガーリックソテーが提供できるようになったみたいです。
同じキノコでも北と南では旬がズレたりもする。だからこそ長い期間、こうして多種多様、多彩なキノコ料理をいただくことができているわけですね。すごいな〜。
この日のキノコの種類は、12時のとこから時計回りに、セップ茸、クロカワ、シモフリシメジ、ムラサキシメジ、アカモミタケ、コガネタケ、ピエ・ド・シェーブル。
まだ経験の浅い店員さんから2つ目がシモコシであるというご案内をいただいたのですが、
「うーん、シモコシなら、裏がヒダでしょ。これは菅孔っていって、細かい穴の集まりになってるんで、さて、何だろう」
と師匠。
さすが、詳しい。
まぁ、そんな疑問を投げかけられても、無知なわたしは当然なにがなんだかなので、相槌だけとりあえずうっていた。
結局山岡さんにちゃんと確認して、正しい種類を知ることができました。よかった。
それでは実食。
初めて食べるキノコばかり。
とりあえず上から一口ずつ口に入れてみる。
おいしい。
粉くさいものやクセの強いものがあるかと思ったけれど、ひとつもない。
調理方法がすばらしいのもあるかもしれないけれど、どれもおいしい。
セップ茸はフランスを代表するキノコ。
ちょっとクリーミーで風味が口いっぱいに広がる感じがとてもおいしい。さすが。
実は運よく2回とも食べることができたんです。ありがたや。
シモフリシメジは、歯切れがいい感じの食感で、キノコらしい風味がすばらしかった。
そして先ほど、「傘の裏がシモコシではなさそう」と言っていたやつは、結局クロカワで。
ちょっと食べてびっくり。深いコクというか、ほのかな苦味が美味しさを引き立てていて、わたしは結構好きでした。
そしてそして、せっかくなので、前回ディナーでもいただいた「旬のキノコソテー」もご紹介しちゃいます。
9月中旬にいただいたのは、こちら。
この日のキノコの種類は、12時のとこから時計回りに、マイタケ、ハツタケ、オオイチョウタケ、セイヨウタマゴタケ、ハタケシメジ、オオモミタケ、セップダケ。
この中にもともと知っていて、まさか食べられないでしょと思っていたキノコがあってびっくりしたので紹介させてください。
それは「セイヨウタマゴタケ」。
冒頭でも紹介したnoteの記事で「タマゴタケ」について触れていまして。
「タマゴタケ」というのはこんなキノコなのですが、
赤々としていて、いかにも「食べたらダメだよ」っていう見た目をしていませんか?
知識がなく、森の中で遭遇したら、どんなにお腹が空いていても手を出さない自信があります。
だからこそ、食べられると知って、かなり印象に残っていたんです。
このかわいらしいフォルム、そして圧倒的に毒キノコの見た目なのに、食べられる、という矛盾を持ち合わせたキノコ。
一度生で見てみたいな、食べてみたいなと思っていたんですよね。
今回は「セイヨウタマゴタケ」ということで、わたしが知っていたタマゴタケとは兄弟のような感じなのですが、見た目もほとんど同じらしい。
念願!ということで、ウキウキしながらいただきました。
もったいないので、丁寧にナイフで一口サイズに切り、頬張る。
おお〜。
しっとりとした、歯応えのある感じ。そして、高級なキノコの風味がする!!
「セイヨウタマゴタケ」の方は日本にはほとんど輸入されてないようですが、また機会があったら「タマゴタケ」と食べ比べのような贅沢なことをしてみたいですね。
そして、また余談ですが、「タマゴタケモドキ」というキノコもあるようですが、これは猛毒キノコなようです。卵のような白いツボから生まれるところが同じですが、色は真っ白みたい。こちらの方が、色が白い分、安全そうな見た目な気がする。危ない。気をつけましょう。
わたしは少し集合体恐怖症なので、たまにキノコの写真を見ているとゾッとすることもあるのですが(同じ方います?)、
タマゴタケってなんであの色になる必要があったんだろうとか、どうやって木との共生という生き方を編み出したんだろうとか、考え始めると終わりがないたのしさに巻き込まれます。
そんな中でこれまた疑問に思ったのが、なぜ今回いただいたキノコたちはこういうお店でしか食べられないのか?ということです。
スーパーには、シメジやナメコ、エリンギ、シイタケ。さまざまなキノコが並んでいるのに、タマゴタケはありません。
栽培できるキノコとできないキノコ
その理由は、簡単。
キノコの希少さが異なるからです。
どういうことかというと、シイタケなどは人工栽培ができるから採れる数が多く、タマゴタケは栽培が難しいから採れる数が少ないからより希少なんです。
ではなぜ、シイタケは栽培できて、タマゴタケは栽培できないのか?
それは、栄養の取り方が異なるかららしいのです。
大前提、キノコは、スーパーなどでは野菜コーナーにありますが、野菜ではなく、「菌類」です。
それぞれの菌の種類がちがうので、栄養の取り方が異なるようです。
今回何度も出てきているnoteの記事では、植物と共生する菌根菌についてお話ししました。
記事にもあるように、菌根菌は、植物に水や養分を運びつつ、植物からの栄養で生きています。
(その例として、タマゴタケを紹介しています)
一方、シイタケなどのほとんどは「木材腐朽菌」と言い、木などを分解して栄養源にしています。
(葉っぱとか枯れた木とか“土に還る” と表現されますが、それはまさにキノコなどの菌類が分解しているからです。)
つまり、菌根菌は生きている木のそば(しかも木の種類にも依存する)でしか育つことができないのに対し、木材腐朽菌は木が生きている必要はなく、環境依存も少ない。
そのため、菌根菌の方が人工栽培の難易度が高いみたいです。
(中には成功しているものもあります!)
なるほど、だから菌根菌であるタマゴタケは、天然でしか採れず、数が少ないがためにスーパーには並ばないんだな。
そして、ついでにお話すると、
先ほど実際にお店でシモフリシメジをいただいた時に、「シモフリシメジってわたしが知るシメジの仲間なのかな」なんて疑問を抱いていましたが、結論、別の種類のようです。
「香りマツタケ、味シメジ」ってあるじゃないですか。
あの「シメジ」ってスーパーでよくある「シメジ」のことじゃないらしいんですよね。
いろいろと調べていたら「シメジ」は菌根菌という情報を得て、「あれ、菌根菌はスーパーに並ばないはずでは」と思いさらに調べを進めていたら、わたしが思う「シメジ」は「シメジ」じゃなかったんです。
「香りはマツタケがいいけど、味は庶民の味方シメジよね」って感じかと思っていたら、どうやらこの「シメジ」もマツタケと同じく、ちゃんと高級キノコ。
そして正式名称は「ホンシメジ」。
まじか。
ホンシメジは、タマゴタケと同じ菌根菌。
人工栽培が難しく、おいしいのに、あまり出回っていないキノコだったようです。
なので、このおいしいキノコの名前にあやかってしまおう、とまずはまったくちがうキノコの「ヒラタケ」を「シメジ」として販売したのが始まりらしい。
でもそれはいくらなんでもちがうのでは、となったようで、最近ではちゃんと「ヒラタケ」として売られています。たしかによく見かけますね。
だた、次は「ブナシメジ」を「シメジ」として売り出している場合も多々あります。
なので、「ブナシメジ」を「シメジ」として認識している人も少なくないはず。
じゃあ、シモフリシメジはホンシメジの仲間なのか!と思ったら。
「ちがいます。」
えぇ!
しっかりと師匠に訂正していただきました。
今回いただいたシモフリシメジやムラサキシメジは「キシメジ科」というらしい。
そしてホンシメジやブナシメジは「シメジ科」。
そこが一緒なのかよっ!
どうやら天然キノコで「シメジ」がつくものは「シメジ科」「キシメジ科」「ヌメリガサ科」などにわけられるようで、なんかもうややこしいな。
とはいえ、スーパーでよく見るシメジは、ヒラタケにせよブナシメジにせよ、木材腐朽菌なので、ホンシメジやシモフリシメジなどの菌根菌の仲間ではないという回答になります。
無限キノコ
ちなみに今回いただいたキノコ料理はまだありまして、最後に簡単にご紹介させてください。
こちらはナメコとアラゲキクラゲが使われたもの。
こちらはキノコのリゾット。
コウタケのソースが添えられた、蝦夷鹿のポワレ。
最後のデザートにアレゲキクラゲをジュレ状に添えたアイスクリーム。
(キノコがデザートになるのは驚きだった)
そんな感じでとにかくキノコ尽くしの料理をいただきました。
キノコって普段生活しているだけでは知り得ないほどたくさんの種類があり、生き方も異なる。知れば知るほどのめり込んでいく、師匠の気持ちに触れた気がします。
木から栄養をもらう代わりに、木では吸収できない木にとって大事な栄養素を運んであげたり、枯れた木を分解することによって自分の栄養素にして、分解された木は森の栄養となる土に還ったり。
わたしたちの目の見えないところで、静かに、だけど森にとってとても重要な役割を担っています。そのはたらきを知った時、土の中に広がる宇宙のような不思議な空間につい引き込まれていくんです。
そんなキノコのはたらきについてはこちらにまとまっているのでぜひ。
森の未来を考えることは、キノコの未来を考えることでもあるわけですね。
森と共に生きる師匠が、キノコに詳しく、キノコを大事にし、キノコを追究するのは、単純に好きだけではないのかもしれないなと思いました。
(元から好きだったらから詳しいだけだ、と言われそうだけど)
はー、キノコおもしろい。
おかげさまでまたもや長くなっちゃって。(たしか前回も最多文字数を記録したのはキノコの記事だった)
以上、わたしのキノコづくしの回でした。