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第七回 イノベーションとデザイン(2)   デザイナーの貢献は見えにくい

 前回も述べたように、デザイナーは古くから様々な形でイノベーションの実現に関与・貢献してきた。
 例えば、1965年に三菱電機から発売された扇風機「コンパック」は、その名の通りコンパクトに分解することができる扇風機であるが、その原案を示したのはデザイナーたちである(三菱電機デザイン史編集員会編,2004)。当時の扇風機は、多機能化を競う傾向にあったが、そこから競争の軸をずらすことで大ヒット商品となった。分解することができるため、簡単に掃除でき、収納時にスペースをとらないだけでなく、企業にとっても保管・運搬コストを下げることにつながった。

 それにもかかわらず、世間では「これまでイノベーションにデザイナーやデザインを巻き込んでこなかった」などと言われてしまう。その理由は、多くの場合、デザイナーの貢献は見えにくいからである。
 現に経営学でも、デザイナーがイノベーションにおいて果たす機能や役割に対しては、“the dark matter of innovation (Marsili and Salter,2006)や“the shadow of R&D”(Manchester University,2009)などの不名誉な称号が与えられてきた。なお、ここでいう dark matter (暗黒物質)とは宇宙物理学の専門用語で、「宇宙空間の30%を占め、様々な物理現象に作用していると考えられるものの、色電荷を持たないため、光学的には観測することができない(要は、我々の目には見えない)理論上の物質」のことである(村山,2010)。つまり、貢献しているのは確かなのに、その働きが他人には見えにくいということを表現しているのである。

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 このように、デザイナーの働きや貢献は見えにくいとされているが、その理由の一つは、経験やプロセスの違いは数値化することができないからである。例えば、デザイナーがあるプロジェクトに参加した場合と参加しなかった場合とで、プロセスにどれだけ違いがあったのかを客観的に明示することは難しい。
 そして、もう一つの理由は、デザイナーはこれまで目立つことなく、黙々とイノベーションに貢献してきたからである。自分たちの貢献を声高に主張しなかったし、わざわざ自分たちのユニークさに名前など付けなかった。その結果、一部を除いてデザイナーの貢献が認知されなかったのである。反対に、ソニーの創業者である盛田昭夫氏のように、デザイナーの効能をきちんと認識できた人は、彼らを積極的に活用してきた(黒木,1999)。ただ、残念ながら、そのような積極的な活用は一部に留まったのである。

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参考文献
黒木靖夫(1999)『大事なことはすべて盛田昭夫が教えてくれた』ワニ文庫。
Manchester University (2009) Design in Innovation: Coming out from the  
 Shadow of R&D, An analysis of the UK Innovation Surveys of 2005, 
 Department for Innovation, Universities and Skills, HM Government. 
Marsili, O. and A. Salter(2006) The Dark Matter of Innovation: Design and  
 Innovative Performance in Dutch Manufacturing, Technology Analysis 
 and Strategic Management,Vol.18, No.5, pp.515-534.
三菱電機デザイン史編集員会編(2004)『三菱電機デザイン史』三菱電機株式
 会社デザイン研究所。
村山斉(2010)『宇宙は何でできているのか』幻冬舎新書。
森永泰史(2016)『経営学者が書いたデザインマネジメントの教科書』同文舘
 出版。


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