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わたしの日記 「なつかしい日に」
あの子の日記 特別編
駅の改札を二人で抜けたとき、さよならの前のやさしい口づけを思い出した。
数年前、遠く離れたところに暮らす人とお付き合いをしていたころ、月に一度、二人で会うのが彼との約束だった。
一ヶ月分の好きを胸いっぱいに抱えて、新幹線に乗ってぴゅんと会いに行くのだ。
不思議なことに、いっしょに過ごす時間もぴゅんと早い。くっついて歩いて、美味しいものを食べて、肌に触れて、おだやかに朝を迎えればもうお別れの時間。
「さあ次はどこへ行こうか。来月も楽しみだね」なんて話しながら駅に向かい、そろって駅の改札を抜ける。
それぞれ反対方向に進む新幹線に乗らなくちゃならないので、手を繋いでいられるのはここまで。
お互いにぎゅっと握っていた手を静かにゆるめ、軽くキスをして、じゃあねと手を振ってさよならをする。
何度も繰り返したこのさよならが綺麗な思い出になったころ、恋人ではなくなった彼と、とある機会に再会した。
あのときと同じように二人で改札を抜けたあと、少し話をして、じゃあねと言って手を振った。なつかしい記憶に限りなく近いのにぴったりと重ならない。
「大人になるってこういうことか」と納得したけど、やさしい歌を聴いていないと視界がにじんでしまいそうだった。
夜 / 星野源
いつも読んでくれてありがとう。本日の主人公はもりみでお送りしました。
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