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あの子の日記 「湯気」

夏、なにもない日、13時17分。

パジャマと部屋着の中間のような格好でスーパーに向かう。信号待ちの数十秒のうちに、わたしたち全人類は洋服を着たまま大きな浴室に閉じこめられちゃったのでは、と地球規模の錯覚をする。

「あぢいよう」
「ほんとな」
「はやくハーゲンダッツ食べたいよう」

じいっと見つめていた信号が青に変わった。横断歩道の少し手前で信号にかかった赤い車は、何食わぬ顔でスピードを上げた。舌打ちをしたてっちゃんに乱暴に手を握られ、半歩遅れて歩き出す。歩幅はいつもより大きい。

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夏、なにもない日、17時40分。

昼寝から目覚めてもまだ太陽は沈んでいない。仰向けでまだ眠っているてっちゃんは、Tシャツから少しお腹をのぞかせている。呼吸するたびに小さくうごく大きな体がうつくしい。

「ごはん何たべよっか」

返事はない。

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夏、なにもない日、23時34分。

浴室の熱気を連れて布団にもぐる。冷房の効いた部屋のなか、タオルケットの下で足が触れる。じんわりと火照る体を夏のせいにして、眠る。




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もりみ
あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。