あの子の日記 「171030」
日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集
濡れた指先をスマホに伸ばし、画面のロックを解除する。体に染みついた指の動きは、はじめてスマホを手にした高校生のころから変わっていない。
6桁の数字を入力するだけなのに、わざわざ親指を上下させるような並びにしたのが不思議でならないけれど、覚えなおすのが面倒だから、しばらく変えずにやっている。
「171030」
なにか意味がありそうで、すこし懐かしい感じがする数字の並び。
103が10月3日だとすれば私の誕生日になるけれど、のこりの数字はなんだろう。布団にもぐって天井を見つめ、うす暗い部屋でぐるぐると考える。
171で「いない」と読んで、030で顔文字風?日付だとすれば平成17年10月30日?もしくは2017年?ハロウィン前日ってなにかあったっけ。
どうにも思い出せない意味探しはあきらめ、「そろそろ寝なきゃ」と目を閉じた。
まぶたの裏側に広がる暗闇をじいっと見つめ、夢の世界へと歩きはじめる。一歩、一歩と現実を抜けて、数字の呪いから解放されたころ、懐かしい17歳の私と目が合った。
彼女が後ろをふり返って誰かに合図をすると、年が近そうな男の子がぼんやりと現れて彼女の手を握り、くしゃっと笑った。
彼女もつられてほほ笑むと、私のどこかに仕舞いこんでいた記憶がまぶたの裏にじわじわと広がり、2人の姿に重なっていった。
好きだった男の子と一緒に帰ったこと。手をつないで公園に寄り道したこと。そして、別れ際に初めてキスをしたこと。忘れてしまっていた記憶が夢のなかで蘇っていく。
きっと、こうして思い出せるように仕組んでいたんだ。
17歳、ハロウィン前日のファーストキスを、6桁の数字に閉じこめて。
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あたまのネジが何個か抜けちゃったので、ホームセンターで調達したいです。