あの子の日記 「最後のふたり」
日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集
サイフォンに残ったコーヒーを冷たいカップに半分注ぐ。温かいうちに飲みきれば良かったんだけど、今はそんな気分になれない。向かい合わせに座ったシュンタは、サイフォンとカップを空っぽにしてテーブルの端によけている。
話題が尽き、ここにいる理由もないのに「帰ろう」と言い出せないのは、今日が恋人として会う最後の日だからだろうか。別れ話がチャラになって、「やっぱり俺はお前がいい」なんてふざけた台詞を心のどこかで期待しているからだろうか。
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「もう会うのやめよう、俺たち」と曖昧な言葉で別れを切り出されたのは、おとといの夜。メッセージアプリの一言で二年間を終わりにするのはあまりにもあっけなく感じたから、会って直接言ってほしいと返事をした。
どうせ悲しさが倍増するだけだから、本当は面と向かって別れ話なんてしたくないけど、送信ボタンで手軽に終われる関係になってしまうほうがずっとずっと悲しい気がした。
最後に会うのに良さそうな当たり障りのないカフェが近くにあったかなとか、沈黙が紛れるような少し騒がしい店がいいなとか考えているうちに、シュンタからメッセージが返ってきた。スマートフォンの通知画面には日時と場所が表示されていた。
こういうときに、「この前、一緒に行きたいって言ってたから」と前置きをしてお店を提案してくるから、嫌いになれない。むしろ好き。いや、好きだった。すごく好きだった。
・・・
冷めたコーヒーを口にすると、酸味が強くなっていてあんまり美味しく感じなかった。美味しいものを美味しいうちに楽しめない、損した人生を歩んでいるらしい。
ラストオーダーの声を掛けられた私たちは、温かかったコーヒーを一人分残して席を立った。
彼女が知らない
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たのしい Instagramも、やっているよ。