あの子の日記 「きみと春ときらきら」
14時8分。もしも、時計の針をいじくって世界中の時間を操作できるなら、針も文字盤も今すぐ壊してこの瞬間にとどまっていたい。そうしてシュンをバスから連れ出し、道路に並んで寝そべって特上の惰眠をむさぼっていたい。進むことも戻ることもない時間のなかに、だれかわたしたちを閉じこめてくんないかしら。
コートの袖に隠れた腕時計で時間を確認するハルコは、恋人が乗りこんだ発車直前の高速バスを前にそんなことを考えている。時刻は14時8分。あと15秒ほどで9分に変わるところだった。
小走りでやってきた若い男が乗降口で息を切らし、運転手は手に持ったバインダーを確認する。バインダーに挟んだなんらかの書類とチケットを交互に見たあと、男と運転手はしんとしたバスに乗りこんだ。恰幅のいいベテランふうの運転手は指さし確認をしながら通路を往復し、慣れたようすで人数確認をきっちりと済ませた。
14時10分。バスはぷしゅうと車高を上げる。シュンとそのほかを乗せた窮屈な箱が、あかるいまちへ滑りだそうとしている。太陽はとおくの道路できらきら光った。
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