あの子の日記 「とじない花と」
日本のどこかの、誰かの1日を切り取った短篇日記集
「春だから」
そう言い残していなくなった恋人を思い出す三日月の夜。うす雲で見え隠れする細い三日月は、あの子のまつ毛によく似ている。
満開の桜の下で最後に見つめた横顔は、ぼくの記憶から消えていないし、消える予定もないけれど、あの子はどうだろう。もう忘れてしまったかな。
ひらひらと散って地面に落ちていく花びらを見て、「なんか似てない?私たちと」と独り言のようにつぶやいたあの春が、たとえばもう少し肌寒くて、つぼみのまま開かな