多面的に米作りを学べる学校旅行は茨城で|東洋英和女学院小学部・稲刈り体験レポート1
「田植えと稲刈りを体験させてくださる田んぼがあれば、社会科の授業で米作りを学んでいる5年生が年2回茨城にこられます」
以前のインタビューでそう話してくださったのは、東洋英和女学院小学部の部長・𠮷田太郎先生です。東洋英和女学院があるのは、東京都港区六本木。都会の真ん中で育つ子どもたちに、よりよい成長・発達のため本物の体験をさせてあげたいと、本校では普段から実体験を伴う学びを重視しています。校外学習・宿泊学習についても同様で、「子どもたちには原体験となるような、学校旅行でしかできない旅をさせてあげたい」と、工夫をこらして実施してきました。
この学年の児童の皆さんの茨城旅はこれで3度目。昨年、4年生の秋に一泊二日で笠間焼体験や涸沼散策を行いました。自然豊かで、農業にも力を入れてきた茨城県で、普段都会で生活する子どもたちに本物の米づくりを学んでほしいという先生方の想いから、春と秋に茨城で学ぶ今回のプロジェクトは生まれました。(春の様子はこちら[リンク貼り付け])体験当日はもちろん、体験場所の下見や、学び・体験の内容まで、先生方とJA水戸・JA茨城県中央会の職員さんが共同で企画を行い、実現させることができました。
今回は、秋の2日間の旅行のうち、お米に関する体験部分をピックアップしてレポートしていきます。田んぼでの稲刈り体験だけでなく、お米を多面的に学ぶプログラムの内容、ぜひご覧ください。
米を学ぶ
旅行1日目の夜に、2日目に予定している稲刈りに向けて、講話をいただきました。話をしてくださったのは、JA茨城県中央会の萩谷茂さん。自身が編集した動画を提示しながら、米作りについて教えてくださいました。
本日のテーマは「お米を、もっともっと知ろう」。
とはいえ、田植えをしてからは4か月が経過しています。萩谷さんはまず、前回の活動の様子をまとめた動画を再生。新たなことを伝える前にまずは復習です。
「前来た時に、田んぼに行く前にこの建物で『お米はお茶碗一杯分で25円くらい』って話したよね」などと振り返ります。子どもたちも「懐かしい」「もう10年前みたい」と、あれこれ思い出したようでした。
その後、田植えと稲刈りの間の、稲の様子と、行ってきた作業を紹介。
稲ははじめ、パレットに種まきをすること。小さな1粒の種もみから100粒ほど収穫ができること。春に田植えをするために、肥料をまく、耕す、草刈りする、水を入れる、代かきするなどの作業があること。田んぼに足を運ぶのは2回でも、その間を知ることで、育った稲がどのようにして大きく育ったのかに想像を巡らせられるようになったのではないでしょうか。
続いて萩谷さんから子どもたちに
「なぜ田植えが必要なんだろう」「なぜ稲はこんなに均一に育つんだろう」
という問いが投げかけられました。実は稲作は、ほかの作物と同じように畑で育てることもできるといいます。それらが成長し、秋には綺麗に揃った丈で稲穂をつける様子は見事なものです。「なぜ」を紐解いていくことで、米づくりに携わる人々がかけてきた作業量を垣間見ることができました。
最後には、お米の種類ごとの特徴をまとめた表を示しながら「炊き上がりが綺麗で、香りがよく、ほんのり甘い。ふっくらと柔らかく、粘りもあって適度なかたさがあるものが美味しいお米と言われているんだよね」と教えてくださいました。ごはんを食べるとき、ちらりとでも思い出してみてほしいです。
米に触れる
事前学習でお米について広く学んだら、メインの稲刈りです。宿泊と講義の会場を兼ねられるJAグループ茨城教育センターから徒歩でいける距離に田んぼはあります。この日はあいにくの雨だったのですが、せっかく来てくれた児童の皆さんに何とか稲刈り体験していただきたいと、雨雲レーダーをチェックしつつ、関係の皆さんにご協力いただいてスケジュール調整をしながら、雨の弱まったタイミングで田んぼに出かけました。
思いのほか強い雨が朝から降っていたので、残念ながら田んぼには入らず、せめて稲の成長を直に見てもらおうと雨具を身に付けた状態で田んぼまで向かいました。が、ちょうど田んぼに着くころに雨が止んだのです! ご協力いただいているJA水戸の皆さんの計らいで「雨が止んだので、田んぼに入って1人1株だけ稲刈りしてみましょう」ということに。一度は諦めた稲刈り体験、1株だけでもしてもらえてほっとしました。
JA水戸の竹林光晴さんから、田んぼに入る前に、のこぎり鎌の扱い方や、稲刈りの手順の説明を受けます。その後数人ずつ田に入って、順に稲刈りをしました。自分の番が来るのを待っているお子さんの中には、友達が稲を刈る姿を見ながらイメージトレーニングしている子も。「稲を持つ地面から10㎝ってこのくらい?」「稲を逆手って持つって、手の向きはこれでいいのかな」などと、待っている間も楽しそうです。
刈りとった稲は、本来なら藁で束ねて天日干しにします。本来は児童のみなさんにそこまで体験してもらう予定だったのですが、今回は残りの稲の刈り取りから乾燥させる作業はJAの皆さんにお任せすることになりました。
「稲穂を持ち帰ってもいいですよ!」と声をかけていただき、帰り道はみんな1本の稲穂を手にしながら宿泊施設に戻りました。途中、自然風景式庭園・七ツ洞公園の中を通りました。パビリオンやフォリーが設置されているこの公園は、映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地として使用された場所でもあります。レンガにたくさんいたカタツムリは、見慣れないからか苦手な子が多そうでしたが、イギリス風庭園でバラや彼岸花などの季節の花が雨に濡れながら咲いている様子を楽しみながらの帰り道となりました。
米を食べる
せっかくお米の体験に来ていただくので、今回はお米をおいしく食べてもらう体験も意識的にプログラムに入れました。先生方の「旅先ではその地域ならではの地のものを食べてほしい」という想いを反映させたものです。
まず、宿泊施設では、食堂で1日目夜と、2日目の朝・昼の3食分、おいしいコシヒカリをいただきました。1日目夜のメニューにはお米のパスタで作ったペンネも。地域の野菜を使ったおかずと一緒に、味わっていただきました。ちょうど食べ頃だった梨をデザートに出していただいたのも嬉しかったです。
食べるだけではなく、お子さんたちに作るところから楽しむ体験もしてほしいと、2日目には米粉クッキングも。教えてくださったのは日立市にあるこなのて米粉工房の安齋美代さん。元々は洋菓子店で勤務していたとのことですが、国産米から作れる、おいしくて身体に安心なパンやお菓子を米粉でつくれることに衝撃を受け、米粉専門の工房を作ったのだそう。小麦や卵のアレルギーをもっている人でも米粉で作ればスイーツも楽しめます。ご自身も、小麦、バター、白砂糖たっぷりのお菓子を作って食べていた頃にはひどい冷え性や乾燥肌で悩んでいたのが、生米や米粉、米油、未精製の糖類など、身体に負担のかからない材料に切り替えたことで少しずつ体質が改善したそうです。そんな安斎先生から米粉を使う魅力を教えていただき、いよいよクッキングスタートです。
この日挑戦したのは、米粉をつかったパンケーキ。小麦粉や卵、乳製品を使わずにできるレシピでつくります。米粉をベースに、きび糖・自然塩などを加えていきます。計量したり混ぜたりといった作業を、4人または5人のグループで上手に分担しながら進める様子から、普段の学校生活でも互いが気持ちよく過ごせるよう気遣いあっているのだろうなとほっこりします。お菓子作りの経験がある子は「小麦粉とは違って、片栗粉みたいな感じ!」と感触の違いも教えてくれました。確かに袋ごしに触ってみると、特有のキュッとなる感触がありました。ホットプレートで数分ずつ、両面を焼いたらでき上がりです。
この日は、盛り付けるお皿にデコレーションも行いました。使ったものは、デコペンと、季節のフルーツであるぶどう・梨。お皿を一枚のキャンバスとして好きなものをたくさん描く子、パンケーキを際立たせるために白いお皿に柄を描き入れて華やかにしていく子、中には焼く際にまん丸にならなかったパンケーキの形からイメージをふくらませ、物語性のあるデコレーションを行う子も。限られた材料でも、これだけ個性が出るのだなぁと1枚のお皿からそれぞれの感性の豊かさを感じることができました。
2日間で、炊きたての白いお米と、お米をアレンジしたお菓子作りで「お米を食べる」を体験してもらいました。五感で感じる情報は記憶への残りやすさに差があるそうで、味覚や嗅覚で取り入れたものは、記憶に残りやすいと言われています。良い匂いに包まれて作ったおいしいパンケーキの味と一緒に、今回のお米に関する学びが彼女たちの中に残ればいいなと思いました。
せっかくだから、多角的にお米を捉えられる学校旅行を
児童・生徒の皆さんに米作り体験をさせたいと思っている先生方は多いと思います。しかし、
・利用できる田んぼがない
・田んぼの管理をしきれない
などの課題があって実現できていない学校は多いのではないでしょうか。
また、東洋英和女学院さんのように、せっかくならより密度の高い体験をさせてあげたいと考えている先生方もいらっしゃると思います。
森と未来の学校では、学校ごとの課題や先生方の想い、児童・生徒の実態にあわせて茨城県内での学校旅行をサポートしています。茨城の地で田植えから収穫までの一連の流れを学ぶ教育プログラムも、オーダーメイドでお手伝いいたします。お気軽にお問い合わせください。
今回の秋の稲刈り体験の様子もJA茨城公式YouTubeで掲載していただきました。子どもたちの様子を、ぜひ動画でもご覧ください!
プレスリリース