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下山事件にみる歴史のねじ曲げ方 プロローグ8
GHQ内部文書と落差
今回は「NHKスペシャル未解決事件File.10下山事件」で登場したRという人物の調書の詳細です。
(前回はこちら)
「暗号係」の供述
主な供述は次の通りです。
(登場する人物はほとんど実名で書かれています)
私は暗号係としてモスクワとの連絡をしていたので、下山事件についても事情を知っている。
事件の1カ月余り前、モスクワから「下山総裁に情報を提供するように装って近づき、適当な時期に処分せよ」と(大使館に)指令があった。
さらにモスクワからは「全てを一任するが、死体を海中に沈めてしまうというような方法は取らず、鉄道を利用し自他殺不明の如くにし政府に対する攻撃材料とするよう措置せよ」と指示があった。
既に国鉄内部の秘密(共産)党員が下山総裁に情報を提供するように見せかけて接近を果たしており、CIC(対敵諜報部隊)本部内に潜り込んでいたアメリカ共産党員の米人がCICの名で下山総裁に国鉄関係の情報を求めて近づいていた。
こうした関係を利用し、(総裁失踪日の)7月5日午前9時半ごろ日本橋三越北口で会う約束をした。
下山総裁は当日、南口駐車場に車を止め、三越の店内を通り抜けて反対側の出入口に出て実行犯2人と落ち合った。
ソ連側は米軍用のナンバープレートに付け替えた車2台を用意し、下山総裁をソ連大使館に連れて行った。大使館に入る前、空手で総裁の急所を突き、気絶させた。
大使館に入ってから、どちらの腕であったか、ともかく列車に轢断せられた方の腕に何かの注射をして完全に呼吸を止め、その上で同じ方の腕の血管を切断して血を抜きゴム袋に入れた。
先程の車2台を使い、うち1台に総裁の死体を入れて途中どこかに寄り道をして午後10時半ごろ現場へ着いた。
小菅刑務所(葛飾区。現場に近い)へ通ずる道路と常磐線の交叉するガードの所に車を止め、死体を降ろして線路上に運搬した。
車は一旦その場から去らせ、折りたたみ式のテコ車で死体を現場へ運んで、血を抜いた方の腕が轢断せられるようなふうに線路上に死体を置いた。
その時現場へ行った者は《4人の名》のほか、白系露人とウクライナ人の合計6人。そのうち3人が木陰に隠れて轢断を確認した。他の者は先に引き上げた。
知る限りにおいて殺害の時間は同日午前10時半ごろ。
なお、自他殺を不明にするため、替え玉を使ってタ方前後から現場付近を歩かせた。替え玉は体格が下山総裁に類似した人物で、どこに住んでおるのか知らない。
(主要な実行犯の人相など)
検察が供述に期待?
NHKでは、下山事件の捜査に当たった布施検事がRの供述に期待を寄せたように描かれていました。
さらに布施検事がRに対し「あなたの供述が遺体鑑定書と合致した」(※)と言って3月30日に追加で取り調べをしたように展開していきます。
結局、Rへの取り調べは30日を最後にGHQの圧力で止められてしまい、検察捜査陣の一人が「アメリカは下山事件の関与を自白したも同然じゃないですか」というセリフを吐いて謀略説を強く示唆する内容に発展します。
……どうなんでしょう。
前回紹介したGHQ覚書と落差を感じてしまいますね。
次回以降、この点について見ていきます。
※「遺体鑑定書と合致」
他殺説では下山総裁の遺体に血液がなかったと言われてきましたので、Rの供述「腕に注射して呼吸を止め、血を抜いた」が遺体の状況と合致したと(NHKは)言いたいようです。司法解剖は東大の桑島直樹講師が執刀し、事件から約半年後に検察へ鑑定書が提出されました。内容については後日に触れますが、桑島氏は下山事件研究会の席などで「肺臓などはむしろ血量が多かった(ので血を抜いたのではない)」「(血を抜いたとされる右腕の切断部は)つなぎ合わせると、ぴたりと合い、(血を抜くなどの)痕跡はなかった」と述べています。なぜ、こんな発言をしたのかと言えば、桑島氏の上司に当たる東大法医学教室のF教授が唐突に右腕からの「血抜き」説を主張し始めたためです。NHKはF教授の説に引きずられたのではないかと疑ってしまいます。ちなみにF教授が血抜き説を主張し始めた時期を「事件1カ月後」と書く向きがあるようですが、恐らくA紙Y記者の記述を写した結果だと思います。「血抜き」説を自ら語るようになるのはもっとずっと後のことです。また、下山総裁の遺体が油まみれだったとRが供述したように書いてしまう人も居るようですが、そんな記述は調書にありません。Y記者が後に主張し始める説「自殺では説明のつかない油の付着」の影響かと思います。
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(プロローグ9につづく)