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下山事件にみる歴史のねじ曲げ方 プロローグ5
NHK「下山事件」に別の違和感
前回まで「NHKスペシャル未解決事件File.10下山事件」で本筋となった情報屋Mのストーリーを中心に見てきました。今回は別の情報屋についてです。
他殺論を象徴する人物
番組のクライマックスは、Mが日系二世Fの写真を見せられて「そいつが犯人だ」と名指しするところだと思います。NHKがわざわざ皆様の受信料を使い米国に取材に行って、Fが生前に「下山総裁は暗殺された」と語っていたことを突き止めたというのですから、そこが番組の本筋のはずです。
一方で、R(事件当時30歳)という韓国人についてもかなり長い時間を割いていました。
事件の本筋からは外れると思うのですが、Rについては、番組のロジック、レトリックが象徴的に表れていたと思いますので。ここからしばらくはNHKが描いたRについて見ていくことにします。
NHKの特ダネなの?
まず、当時の吉田茂首相が登場します。
事件から約1年半後の1951(昭和26)年、来日した米国ダレス特使に対し「国鉄総裁の暗殺事件は韓国人によるものだと政府は断定したが、韓国へ逃亡したと思われる犯人を捕まえることはできなかった」と述べたというのです。
そして、アナウンス。
「政府が下山事件の犯人と断定した韓国人とは何者なのか? この謎に光を当てる極秘資料を入手した」
「極秘資料」とは前に触れた「検察の捜査の全容を記録したとされる極秘資料」のことです。捜査結果を700ページ余りにわたって記録してあるとの触れ込みでした。
違和感を持ったのは、次のようなアナウンスで番組を続けていくところです。
「資料を分析して行く中で、吉田首相が名指しした韓国人とみられる人物が浮かび上がってきた」「男の名はR(番組中実名)」
下山事件に詳しくない人がこれを見ると、NHKが極秘資料をつかんで重要な人物を初めて暴き出したと感じると思います。
手あかの付いた名
しかし実は、Rの名は事件翌年(1950年)の3月25日、朝日新聞に出ているのです。以後、その名が他殺説に繰り返し利用されてきました。手あかが付いたような名です。
ついでに言えば、吉田首相の「犯人は韓国人」発言も、1978年に公表された米国外交文書に載っていました。公表時に各紙が一斉に報じています。
私が違和感を持ったのは、既に世の中に出ている情報なのに、まるで特ダネのような書き方をする手法です。ここ10年のNHKの報道を見ていて、何度か同じような思いに打たれたことがあります。
(ちなみに、新資料でもないのに「新資料」をうたって展開するのが他殺説のやり方の一つでもあるように感じています)
以下長くなりそうですので、次回以降に続けます。
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(プロローグ6につづく)