下山事件にみる歴史のねじ曲げ方 プロローグ14
NHKが入手した新文書
(前回はこちら)
「NHKスペシャル未解決事件File.10下山事件」が、なぜ古典的な他殺説を取ったのかプロローグ2で考えました。情報屋Mが「犯人だ」と名指しした人物Fが、自分の娘に「総裁は暗殺された」と述べていたことが分かって、Fが登場する説を取るしかなくなった、と推測しました。
それがこの番組の本筋部分です。
本筋でもない人物で引っ張る番組
前回まではこの本筋を離れ、番組に登場するRという別の人物のことを長々と書いてきました。
一つはNHKの展開の仕方が突っ込みどころ満載だったということがあります。しかし、番組自体がRのことに長い時間を割いていたのが何よりの理由です。
NHKはなぜ、本筋でもない人物で、こんなにも長く引っ張ったのでしょうか。
「アメリカが関与していたという疑惑に光が当てられることはなく、1人の韓国人が引き起こした事件として幕引きが図られた」
そういう米国謀略のラストにつなげる意図があったとは思います。
でも、それだけではなく、長く引っ張るだけの材料が見つかったということが大きかったと思います。
GHQの覚書を入手か
米国の国立公文書館にある陸軍関係者の名簿にRの名が載っていることが日本から検索しても分かります。さらに陸軍関係の書類のうち「諜報および捜査書類の個人ファイル」の「シリーズ」にRのファイルが二つあることが確認できます(タイトルがRの名になっています)。ネットでは中身まで見られません。
想像ですが、NHKは米国でこのファイルを手に入れたのではないでしょうか。実際、同名のファイルが画面に映し出されました。
画面から判断すると、GHQ参謀第2部(G2)内部連絡用の覚書2種類を手に入れたようです。
さらに、Rの捜査について記した「記録メモ」も入手していることが分かります(覚書に添付されていたのか、全く別個の文書なのか判断できません)。
覚書は日本で検索できるファイルと数が一致しますが、ちょっと不可解な印象も残ってしまいます。
まず、二つの文書で表現が全く重なる部分が多いことが不思議になります。内部連絡に以前の文書と全く同じことが(表現まで同じで)書いてあったら、私などは面倒くさくなって最後まで読まないかもしれません。
それから、表現は全く同じ文なのに、一方だけが手書きの線で削除されたり、訂正されたりした箇所が目立ちます。
番組では両方とも同じ人物が書いたように描いているのに、どうしてそうなったのか理解できません。
文書を写した画面から、一つは1950(昭和25)年2月16日付と分かります。
もう一方の日付は分かりませんが、16日付の文書の中に「49年12月16日付の同名(タイトルがRの名)覚書参照」と書いてあります。二つあるはずのRファイルのもう一方は、この12月のものでしょうか。
でも、画面に映った文章から判断すると、日付不明の文書が12月のものとすれば時間的に合わない内容が含まれていることになります(後日に触れます)。
NHKの取材で3ファイル目が見つかったのかもしれません。今後、国会図書館などで(NHKでもいいですが)資料を公開してほしいと思います。
「極秘資料」はどうなったの?
それにしても、本筋でもない部分で延々と引っ張ったということは、「捜査の全容を記録したとされる極秘資料」の方はどうなったのでしょうか。期待に反し、めぼしいことが書いてなかったのかな、と思ってしまいます。
そもそも注意する必要があるのは、東京地検の「捜査の全容」であって捜査本部の「捜査の全容」ではない点です。
番組では、ドキュメンタリー編の冒頭、「捜査の全容を記録したとされる極秘資料を入手」とアナウンスしています。その場面では、どこの「捜査」かは言及しませんでした。
これは視聴者の印象を導入部分から「闇に埋もれていた事件の全容が明らかになる」と誘導するレトリックとさえ思えてしまいます。
捜査の主体はあくまで捜査本部であり、その結論は自殺です。検察も認めざるを得なかったのです。その経過は後日に見ていきます。
次回は、NHKが入手したファイルの中身を検討します。
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(プロローグ15につづく)