『学習データの著作権侵害だけではない!AIと著作権問題 総まとめ』~【web3&AI-テックビジネスのアイディアのタネ】2024.10.4
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■生成AIアートの「著作権を認めない」米当局とクリエイターの戦い
ジェイソン・アレン氏がAIツール「ミッドジャーニー」を使って制作したアート作品「宇宙オペラ劇場」に対する著作権申請が拒否されたことを取り上げた記事をご紹介します。
米国著作権局は、この作品が人間による創作とは認められないため、著作権を付与しないという判断を下しました。アレン氏はこれに対して異議を唱え、訴訟を起こしました。
AIが生み出すコンテンツに対してどのように著作権を適用するのか、あるいは適用しないのかは、今後のクリエイティブ産業全体に大きな影響を与える可能性が高いと考えます。
また、今後AIが多用されるようになる中で「著作権が発生しない」という事例が増えると、企業でのAIの利用が抑制される恐れもあり、これからのAI時代に合わせた法整備が求められます。
加えて、よく使われる「AIの著作権問題」という言葉の中身を整理する必要があるとも感じました。Apple Intelligenceについて「AIの著作権問題が発生しない」という見出しが付けられることがありますが、上記のような「著作権が発生しない問題」も含めたすべての著作権問題が発生しないAIだと捉えるのは誤りです。
今回は、「AIと著作権」について改めて整理したいと思います。
AIの著作権が認められるための条件
まず、冒頭の「AIで制作したものの著作権が認められない問題」を整理します。
著作権が認められるためには、いくつかの条件を満たす必要があります。一般に、著作権法は「人間の創作性」を前提としており、以下のポイントが重視されます。
創作性:著作物は、単なるデータや事実の羅列ではなく、創造的な表現が行われているものである必要があります。AIが生成したものがこの条件を満たしているかどうかが、まず最初の判断基準となります。
人間の関与:著作権が認められるためには、その作品が人間によって創作されたものでなければなりません。AIが自動的に生成したものは、人間の創作性が直接的に反映されていないため、この条件に合致しないと見なされる可能性が高いです。
表現の固定性:著作物は、具体的な形で表現され、固定されたものである必要があります。たとえば、音楽であれば録音されていること、文章であれば書き留められていることが求められます。AIによって生成された作品も、この基準をクリアしなければ著作物と認められません。
これらの条件がクリアされない限り、AI生成物に著作権が発生することは難しいとされています。この点は、米国のみならず、他国の著作権法にも共通しており、特に「人間による創作性」という要件が強調されています。
日本の文化庁も同様の見解
日本の文化庁も、AIで生成されたコンテンツに対して著作権が認められるかどうかについて、基本的に米国と同様の見解を持っています(文化庁「AIと著作権」PDF)。
文化庁の公式見解では、AIが自動的に生成した作品は、「人間の思想や感情を創作的に表現したもの」とは認められないため、著作権法上の著作物には該当しないとされています。これは、日本でもAI生成物に対する著作権の認定が難しいという状況を反映しており、AIを使ったクリエイティブ活動における法的な課題を浮き彫りにしています。
ただし、日本では、AIが単なるツールとして使われ、人間が積極的に介入し、生成物に対して創作的な寄与を行った場合には、著作権が認められる可能性があるとされています。この点において、AI生成物と人間の関与のバランスが重要な判断要素となるでしょう。
「AIの著作権問題が発生しない」とするAppleの主張
一方で、Appleは自社のAIに関して報じられるとき、「著作権問題が発生しない」という言い回しをされることがあります。
Apple自身は、AIの訓練において、著作権で保護されたコンテンツを無断で使用することによる著作権侵害のリスクを回避していることをアピールしているのみなのですが、見出しで「AppleのAIは著作権問題が発生しない」と書かれがちです。これは誤解が生じる言い回しです。
この記事では、誤解を生じさせない正しい言い回しとして「自社AI訓練の著作権問題がない?」と、著作権問題のうち「学習データの著作権侵害」だけにフォーカスする見出しを付けています。
しかし、「AppleのAIは著作権問題が発生しない」と捉えてしまう報道も見かけます。
Appleは、コンテンツ使用に関して出版社やメディア企業と交渉を行い、合法的にコンテンツを使用していることを主張しているのみで、「AIの著作権」の問題すべてが発生しないと捉えると誤りです。
AppleのAIは訓練データの使用に関する著作権問題をクリアしており、ユーザーが安心して利用できる環境を提供していることは確かに重要です。しかし、これがすべての著作権問題を解決するわけではありません。
一般に「AIの著作権問題」というときに指すもの
「AIの著作権問題」について報じられるとき、多くの場合に指しているのは、AIが訓練に使用するデータが著作権で保護されているかどうかという問題です。
多くのAIは、大規模なデータセットを使用して訓練されますが、その中には著作権で保護された作品も含まれていることがあります。このデータを無断で使用すると、著作権侵害にあたる可能性があり、これがAIにおける著作権問題の中心的な論点です。
たとえば、OpenAIやGoogleのAIが訓練に使用したデータの中に著作権で保護されたテキストや画像が含まれていた場合、それを無断で使用したことで訴訟が起こるケースが増えています。このような訴訟を回避するために、企業はデータ使用の合法性を確保する必要があります。
AI生成物に関する2つの別の問題
しかし、「AIの著作権問題」という言葉が指すものは、AIの訓練に使用するデータの合法性に限られており、以下の2つの問題は別に存在します。
AIで生成したものの著作権の発生が認められない問題:冒頭のジェイソン・アレン氏のケースです。AIで生成された作品は、通常の著作権法の基準を満たさないため、著作権が認められないケースが多いのが実情です。これは、AppleのAIであっても他のAIと同様で、「AppleのAIで生成すれば作品自体に著作権が発生する」わけではありません。
AIで生成したものが偶然に既存のものに似てしまい、他者の著作権を侵害する問題:AIが生成した作品が、偶然にも既存の著作物と似てしまう可能性があります。この場合、著作権侵害が発生するリスクは避けられません。AIの訓練データの合法性を確保していても、生成物が他者の著作権を侵害する可能性は残っています。これはAppleのAIも同様です。
Appleが「著作権問題が発生しない」と主張しているのは、あくまでAIの訓練データに関する部分であり、AI生成物そのものの著作権問題や、生成物が既存の著作物に似てしまう問題を解決しているわけではありません。
AppleのAIを使うユーザーは、AI訓練時の著作権問題が回避されているという安心感を得られるかもしれませんが、生成された作品が他者の著作権を侵害しないか、またその作品に著作権が発生するかどうかについては、引き続き注意を払う必要があります。
AIを商用利用する際に必要な留意点
AIの著作権問題を特に気にするのは商用利用する法人などの場合です。AIを商用利用する際には、以下の点に留意する必要があります。
訓練データの合法性:AIを訓練する際に使用されるデータが、著作権で保護されたものでないか、合法的に使用されているかを確認することが重要です。
生成物に対する著作権の有無:AIで生成された作品に対して著作権が認められるかどうかを慎重に判断する必要があります。特に、商業利用を考える場合は、法的リスクを避けるために事前に確認が必要です。
既存の著作物との類似性:AIが生成したコンテンツが既存の著作物に似ていないかを確認することも重要です。意図せずに著作権侵害が発生しないよう、注意を払う必要があります。
契約やライセンスの活用:AI生成物を使用する際には、契約やライセンスを通じて法的なリスクを管理することが有効です。
AI技術は急速に進化していますが、その法的な枠組みはまだ発展途上です。商用利用を行う際には、これらの点を考慮しながら慎重に対応することが求められます。
商標登録を活用する方法も
AIのみで制作されたもので著作権が発生しないことから、他社に模倣されるなどを懸念する場合、商標登録が有効です。
商標登録に関しては、著作権とは異なり、「創作性」や「人間の創作的寄与」が求められないため、AIが生成したロゴやデザインでも要件を満たしていれば登録が認められる可能性があります。以下のポイントを考慮することで、AI生成物を商標として登録する際の流れがわかります。
商標登録における基準
商標登録では、以下の基準が重要となります:
識別力のある商標であること
商標が識別力を持ち、他者の商品やサービスと明確に区別できることが必要です。たとえAIで生成されたものであっても、独自性や識別力があれば登録は可能です。例えば、AIが生成したユニークなロゴやキャッチフレーズが他の商標と区別されるものであれば、商標登録の対象となり得ます。
他者の登録商標と同一または類似でないこと
登録しようとする商標が、すでに他者によって登録されている商標と類似している場合、拒絶される可能性があります。AI生成物であっても、既存の商標と類似していないか、事前に調査することが重要です。
公序良俗に反しないこと
商標が公序良俗に反する内容(不快な表現や違法な内容を含むもの)でないことが求められます。これはAI生成物であっても同じ基準が適用されます。
AI生成物と商標登録の関係
商標登録は、著作権とは異なるため、AIによって生成されたデザインでも登録が認められます。重要なのは、そのデザインやロゴが商標法の基準を満たしているかどうかです。具体的には、以下の点を考慮します:
商標の目的:商標は商品やサービスの出所を示すためのものであり、そのための識別力が重要視されます。AI生成物であっても、他者の商品やサービスと区別できるものであれば、商標として認められる可能性があります。
AI生成物の独自性:AIで生成したロゴやデザインが、他の商標と区別できる独自性を持っていれば、商標登録が可能です。このため、AIが生成した内容が単純で汎用的なものでないかを確認し、識別力を確保する工夫が求められます。
著作権との違い:著作権は創作性を保護するものですが、商標は識別力に基づいて登録されます。そのため、AI生成物が著作権の対象外であっても、商標としての識別力を持っていれば保護される可能性があります。
AIで生成したものの著作権が認められない場合や、AIで生成したものが偶然他者の著作権を侵害してしまうことを防ぐことに対しても、商標登録は有効な手立てです。
ただし、先行登録されている商標と類似していないかを探すことや、商標登録することそのものにかなりの手間暇とコストがかかります。しかしながら、商用でロゴやデザインを作る場合は、AIを使うかどうかに関わらず必要なプロセスです。
個人的な願望を言うなら、類似デザインが先行登録されていないかを、AIで画像検索するような仕組みが整えられ、より簡便で安価に商標登録の仕組みを利用できるようになるとよいなと思います。
AIが当たり前に使われる時代に適した法整備を
AIでデザインされた作品が急速に増加している現代において、法整備の必要性は非常に高まっています。AIによる生成物に関連する問題を解決するためには、以下のような法整備が必要だと考えられます。
1. AI生成物に対する著作権の明確化
現在の法律では、AIで生成された作品に対して著作権が認められないケースが多くあります。このため、AI生成物に著作権を付与するかどうか、どのような条件で付与するかを明確にする法整備が必要です。具体的には、以下のような点を検討する必要があります。
人間の関与の基準:AIで生成された作品に人間がどの程度関与した場合に著作権が発生するのか、その基準を明確に定める必要があります。例えば、プロンプトの作成やAI生成物に対する後編集などの「創作的寄与」がどの程度であれば著作権が認められるのか、具体的なガイドラインが求められます。
AIに対する新しい権利の創設:AI自体が生成するコンテンツに対して、新しい権利を設けるかどうかも議論の余地があります。著作権とは異なる形式の権利を導入し、AI生成物を保護する新たな枠組みを整備することも検討に値します。
2. AI生成物が既存の著作物と類似する問題の対応
AIで生成された作品が偶然にも既存の著作物に似てしまうことによる著作権侵害の問題についても、適切な法整備が必要です。この問題はAIの特性上避けがたいものであり、次のような対策が考えられます。
AI生成物に対する著作権侵害の判断基準の明確化:AIが生成した作品がどの程度既存の著作物と類似している場合に著作権侵害と認定されるのか、その判断基準を明確にする必要があります。AIは膨大なデータを基に作品を生成するため、偶然の類似が発生しやすいですが、これをどのように取り扱うかが重要です。
データセットの透明性確保:AIがどのデータを学習して生成物を作成しているかを透明にし、著作権侵害が発生しないようにするための法的なガイドラインが必要です。企業はAIの学習に使用するデータセットを明示し、適切なライセンスの取得や、著作権保護されたコンテンツの使用を避けるようにすることが求められます。
3. AI訓練に使用されるデータの合法性に関する規制
AIを訓練するために使用されるデータセットには、著作権で保護されたコンテンツが含まれることが多く、これが訴訟の原因となることが増えています。AI訓練時のデータ利用に関しては、次のような法整備が必要です。
訓練データに関するライセンスの規定:AIが訓練に使用するデータに対して、どのようなライセンスが必要かを明確に規定することが重要です。企業はAIの訓練に使用するデータについて、適切なライセンスを取得しているかを確認する義務を負うべきです。
フェアユースの適用範囲の再検討:AIの訓練における著作権で保護されたコンテンツの使用に対して、フェアユース(日本では引用などの権利制限)の適用範囲を再検討することも必要です。AI訓練のためのデータ利用が、社会的に重要であり正当な範囲で行われる場合、一定の条件下でフェアユースが適用される可能性があります。
4. AI生成物の商標や意匠権の適用
AIで生成されたロゴやデザインは、商業的に利用されることが増えていますが、これに対する商標や意匠権の適用範囲を明確にすることも重要です。
商標や意匠権のAI生成物への適用:AI生成物が商標や意匠として登録される場合、その基準を明確にし、AI生成物であっても商標登録や意匠登録ができるような法整備を進めるべきです。これにより、企業はAIを使って生成したデザインを安全に商業利用できるようになります。
5. AIの倫理と責任に関する規制
AIが生成するコンテンツに対する責任や倫理的な規制も、今後の法整備において重要な要素となります。AIが生成した内容が誤った情報や不適切な内容を含んでいた場合、誰が責任を負うのかについての議論が必要です。
責任の所在の明確化:AIで生成された作品が著作権侵害や法的問題を引き起こした場合、その責任がどこにあるのかを明確にする法整備が必要です。AIを開発・運用する企業やAIを利用するユーザーが、どのような責任を負うべきかを明確に規定することが求められます。
AI生成物における倫理基準の設定:AIが生成するコンテンツが社会的に受け入れられるものであるかどうか、倫理的な観点からの基準を設定することも重要です。特に、AI生成物が不適切なコンテンツや差別的な要素を含む場合、どのように対処すべきかを法律で明確にする必要があります。
結論
AIによる生成物が今後ますます普及する中で、必要な法整備は多岐にわたります。AI生成物に対する著作権の適用や、既存の著作物との類似による著作権侵害のリスクを回避するための法的な枠組みの整備は急務です。また、AIの訓練データに関する規制や商標・意匠権の適用範囲の明確化も重要です。さらに、AIが生成するコンテンツに対する責任の所在や倫理基準を定めることにより、AI技術の健全な発展を促進しつつ、法的リスクを最小限に抑えることが可能となるでしょう。