森見登美彦氏とわたし【聖地に住む編】宵山万華鏡の巻
学生時代から続いた東京と京都との遠距離恋愛に終止符を打ち、半同棲というゼロ距離恋愛をすべく京都へ移住してからおよそ3か月。
初めての祇園祭で訪れた宵山の喧騒を、思い出してみる。
まだ、四条通の歩道が狭かった頃。
四条寺町あたりから人の波に飛び込んだ私たちは、人の波に飲まれながら長刀鉾を見上げ、四条烏丸交差点でも波から逃れることはできず、西へ西へと流されていた。
ようやく本流から抜け出して新町通りを下がってみるも、さらに密度を増した人の波に飲みこまれていた。
その間、私たち二人は、固く結んだ手を放さずにいた。
川べりに打ち上げられた木の葉のようにたどり着いた場所は、マンションのアプローチだった。
割り込むことを躊躇したくなるような人の流れが目の前を行き交っていた。
ここだけは人の流れが及ばない。
私たちが呆然と流れを眺めている間にも、木の葉が流れ着いては、再び流れに飲まれていった。
川べりではマンションの住人らしき人物がビールやジュースを売っていた。
本流にあった露店より、若干安い。
その横には、小さな生け簀を置いた金魚すくいがあった。
それに気が付いたパートナーが、ふっ、とつないだ手を解いた。
あ、と思っている間にも、彼女は金魚すくいに吸い込まれていく。
彼女が生け簀をのぞき込んでいると、どこからか赤い浴衣の女の子が駆け寄ってきた。
同伴の保護者の姿なんてなかった。
彼女が露店のおじさんにお金を払っている感にも、女の子は彼女に寄り添うように生け簀をのぞき込んでいた。
他の人が生け簀をのぞき込むと露店のおじさんは「やってくかい?」と話しかけるくせに、
その女の子には見向きもしない。
僕のパートナーの同伴者と思われているのか、あるいは……。
結局、二人合わせて三回チャレンジしたけれど、一匹も救うことができず、三回分で三匹の金魚をもらった。
私たちのチャレンジが終わるころには浴衣の女の子の姿はなくなった。
だけど、私の記憶にはなぜか残り続けている。
自宅のマンションに着く直前、物陰に見えた赤い浴衣の裾のことを。
次回『森見登美彦氏とわたし【聖地に住む編】聖なる怠け者の冒険の巻』
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