「名探偵津田」の面白さを検証してみたい
いつもお疲れさまです。
唐突ですが、 『水曜日のダウンタウン』の「名探偵津田」は傑作ですよね。
「名探偵津田」は、ダイアンの津田篤宏さんを強引に巻き込んでスタートするミステリードラマ風ドッキリ企画です。津田さんが探偵役となって、ロケ先で起こる事件を解決することになります。
本企画は急に始まるものですから、主役の津田さんはいつも嫌そうな表情を浮かべます。しかし、最初は嫌そうにしていた津田さんが、ドラマが進むにつれて探偵役としての自覚が芽生えていき、いつのまにか乗り気で捜査を進めていきます。文句を言いながらも聞き込みを行う津田さんの顔は、紛れもなく主人公のソレなんです。
先日もシリーズの第3弾が放送されて、SNSではかなり話題になっていたようです。私のタイムラインでも、「名探偵津田」の話題で持ちきりになっていました。
これまでのシリーズ2作も観ていましたが、3作目はそれを上回るほどの面白さでした。
「上着をください」と真剣な面持ちで問答する津田さん。15〜30分おきに来客が現れて、全然寝られなくてイライラする津田さん。「1の世界」と「2の世界」という独特なワードを用いて、現実とドッキリの狭間で迷子になる津田さん。謎解きとほぼ関係のないところで走り回されたりプールに沈められたりする津田さん。どの場面を観てもバツグンに面白いです。
そんな本作を観て、腹を抱えるほど笑わせてもらった一方で、この企画の面白さは一体どこにあるのだろうという疑問を抱きました。無論、番組を批判する意図はなく、純粋な好奇心としての疑問になります。
素人のお笑い評論なんて見るに堪えないとは思われるでしょうが、これを突き詰めていけば、最近のコンテンツ産業全体に対する知見が得られるかもしれない、と思うのです。まぁ、きっかけは某氏のツイート(ポストとは断固として呼ばない意志)なのですが……。
本記事では、「名探偵津田」の面白いところを分析しつつ、いま流行りのコンテンツ群に共通することを探っていこうかと思います。
もっとも、結論はすでに分かっています。それは、ドッキリに嵌められた津田さんは面白いということです。
「名探偵津田」の面白さを要素分解する、の段
まずは「名探偵津田」の面白さを私なりに要素分解してみます。主な要素は次の五つになるでしょう。一つずつ、分析してみたいと思います。
芸人にドッキリを仕掛けて、そのリアクションを楽しむ
おおよその筋書きを用意しつつ、物語を進める過程は津田さんのアドリブに任せるという不確定要素
津田さんは騙されたと知りつつ、番組が用意した物語に沿って行動していくというメタ視点
本編と関係ないように見せかけたVTRの中に、ドラマに繋がる伏線を忍ばせておき、視聴者に「考察」を促す戦略
「考察」がSNSで共有されていき、リアルタイムでの視聴体験により一層の面白さが付与される仕組み
①芸人にドッキリを仕掛けて、そのリアクションを楽しむ人間観察の要素
『水曜日のダウンタウン』をはじめとして、TBSの『モニタリング』やフジテレビの『ドッキリGP』など、ドッキリ企画を行うテレビ番組が数多くあります。また昔の話ですが、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の「早朝バズーカ」はドッキリの代表的な企画だったといえるでしょう。
ただ、最近のドッキリは力の入れようが半端ではなく、見るからにお金が掛かっているであろう豪華なセットが出てきたり、何日も(下手すれば何週間も)の長い時間を割いてドッキリを仕掛けたり、と企画の規模が大きくなっています。
「名探偵津田」もその例に漏れず、舞台となるホテルはおそらく貸切でしょうし、本編の前フリのVTR「有名人の卒業アルバム、その地元に行けば意外とすんなり手に入る説」も、嘘の企画とはいえしっかりと作り込まれていました。
バズーカをドカーンと撃って、「うわぁー!」と驚く芸人たちのリアクションを観て楽しむという刹那的な芸から、作り込まれた架空の舞台に芸人を誘って、「○○で××な状況になった時、人はどう対処するのか?」といった一種のシミュレーションとして芸人の奮闘ぶりを観察するという実験的な芸へと進化している、と言えるのではないでしょうか。
②おおよその筋書きを用意しつつ、物語を進める過程は津田のアドリブに任せるという不確定要素
これは言ってみれば、TRPGの面白さですよね。番組スタッフというゲームマスターが、演者を通して津田さんに指示を出していく。津田さんはプレイヤーとして物語を進めるわけですが、その進め方は津田さん自身に委ねられます。
もし津田さんがTRPGに明るい人だったら、サクサクと物語を進めていくでしょう。しかし、津田さんは率先して物語を進めたりはしません。むしろ、めちゃくちゃ嫌がります。「上着をください」とゴネますし、「1の世界」と「2の世界」の区別がつかずに混乱します。
そのアドリブ性が、かえって物語を予定調和に進めない要因となり、展開の予測がつかない面白さに繋がるのだと思います。
③津田さんは騙されたと知りつつ、番組が用意した物語に沿って行動していくというメタ視点
津田さんは、ドッキリを仕掛けられていると分かった上で「名探偵津田」の企画を進行します。いわばメタ視点を持った主人公として、津田さんは配置されているんですね。
普通のドラマなどで、「視聴者が〜」とか「カメラの位置が〜」とか言われてしまうと興醒めしてしまうものですが、ドッキリ企画においてはマイナス要素になりえません。むしろ、視聴者の側に近い視点で芸人がリアクションを取ったりツッコんだりすることができるため、より視聴者がのめり込みやすくなると考えられます。「津田さん、よくぞツッコんでくれた!」といった共感を呼びやすい、とでもいいましょうか。
このメタ視点があったからこそ、「1の世界」「2の世界」という名言は生まれたわけですし、ことごとくプラスに働いています。
④本編と関係ないように見せかけたVTRの中に、ドラマに繋がる伏線を忍ばせておき、視聴者に「考察」を促す戦略
「名探偵津田」シリーズの前フリとなった卒業アルバムの検証VTRには様々な伏線が仕込まれていました。みなみかわさんが野呂佳代さんの卒アルを見ていたお店の壁に白鳥の絵が飾られていて、それが「名探偵津田」で言及されていたハギオシュウセイの描いた絵とソックリだった──とか、VTRを観ていた野呂佳代さんが昔の写真が出てくることにめちゃくちゃ嫌がっていて、その言動がバラエティにしては不自然だった──とか。
それをテレビで観た視聴者は数々の違和感を覚えては、何か裏があるんじゃないかと考えるのです。その違和感を元に「考察」を行い、それをSNSで発信する。その「考察」を見た他の視聴者もまた、自分なりに「考察」を深めることになる。「考察」が「考察」を呼び、いつしかSNSのトレンドになっていくという仕掛けです。
また、卒アルのVTRはいわゆるモキュメンタリー的な作風だと感じました。ドキュメンタリーとしてVTRを観ていた視聴者は、その映像が実はフィクションだったと明かされて衝撃を受けます。この衝撃によって、番組に対して強烈な印象を持つようになるのです。
下手すれば、ちゃぶ台返しとして捉えられてしまいそうなモキュメンタリーですが、これは視聴者に向けたドッキリ企画なのだと考えれば、興醒めすることはないでしょう。むしろ、「自分たちも番組に参加できた!」という一体感が生まれることに繋がるのではないでしょうか。
大森時生Pの『SIX HACK』や中京テレビの『初恋ハラスメント』はホラーチックなモキュメンタリーでしたが、「名探偵津田」(藤井健太郎P)の場合はミステリーチックなものに仕上がっていて、上手く差別化が図れています。この点にも注目したいです。
⑤「考察」がSNSで共有されていき、リアルタイムでの視聴体験により一層の面白さが付与される仕組み
④で挙げた「考察」とモキュメンタリーの要素。この二つの要素は、リアルタイムで番組を観ることに一層の付加価値を与えてくれます。みんなで「考察」する連帯感、番組に騙されたとみんなで驚く一体感。どちらも、リアルタイムでなければ体験できないことです。
かつてはテレビ局から視聴者へ一方通行にしかコンテンツは提供できなかったのですが、今ではSNSなどを駆使することで視聴者も主体的に番組へ参加することができるようになっています。この感覚は、YouTuberなどの配信者によるライブ配信に近いかもしれませんね。
双方向的な視聴体験という斬新さが、「名探偵津田」をさらに面白くしているのだと言えます。
コンテンツのリアルタイム性/アーカイブ性
ここまで、「名探偵津田」を要素分解してみました。その結果、「考察」とモキュメンタリーという二つの要素が「名探偵津田」に独自の面白さを付加していることが窺い知れました。
「考察」については第2弾の時にも見られましたし、本企画独自のものといっても差し支えないでしょう。
ここで気になるのが、最近のコンテンツはリアルタイムで観ること=リアルタイム性を重視しているということです。
Vtuberやライバーたちによる配信活動を代表として、大勢の人が同じコンテンツを同じタイミングで触れることが多くなっています。
これまでにも、会場でライブなりイベントなりに参加する機会は多かったかと思いますが、それをネット上でも同様の体験が得られるようになっていると言えるでしょう。
リアルタイム性に重きを置くコンテンツというと、先述したモキュメンタリーも例に挙げられそうです。リアルタイムで番組を観た人に訪れるサプライズ感は凄まじく、従来のテレビ番組で得られる感動を上回ることでしょう。
しかし、その感動はリアルタイムで観るからこそ得られるものであり、SNSなどで話題になった後から追いかけて視聴しても、同等の感動が得られるわけではない、と思ってしまいます。
「いま、ここ」で得られる感動の熱量は凄まじい一方で、旬を過ぎてしまうとその熱量は急速に減少していく。そんな感覚がします。
とはいえ、リアルタイムでしか得られない感動は確かなモノなので、リアルタイム性重視のコンテンツも引き続き作っていただきたいです。
大事なのは使い分けでしょう。リアルタイム性を重視するコンテンツも作ればいいし、それ以外の要素を重視したコンテンツも作ればいいのです。例えば、アーカイブ性を重視することが挙げられます。後世の人に当時の文化を伝えるという観点でコンテンツを作るのです。それこそ、NHKのドキュメンタリー番組などはアーカイブ性の高いコンテンツと言えます。
テレビを観る人が少なくなっているという話をたびたび耳にします。ですが、今でも面白いテレビ番組は続々と作られています。水ダウ然り、『ラヴィット!』然り、『ねほりんぱほりん』然り(ただ個人的に好きな番組)。
「名探偵津田」があれだけSNSで話題に上がり、TVerの視聴回数も歴代最高記録を打ち出したことを思えば、まだまだテレビには可能性があるでしょう。
テレビを観て育ってきた身としては、これからもテレビに期待したいところです。
まとめ
以上、私なりに「名探偵津田」について感想を書いてみました。途中から水ダウとは関係がなくなってるとは思いますが、要はドッキリに嵌められた津田さんは面白いということです(2回目)。
2024年の末、「名探偵津田」と令和ロマンのM-1二連覇によって、お笑い界は大変盛り上がりましたね。KISUKEから始まった2025年も、いっぱい笑える日々が過ごせるですね。