本稿はアメリカのTokyo Happy Coats研究家Roy Baugher 氏の許可を得て日本版サテライトコンテンツとして作成しています。
■学生新聞の音楽評に登場していたTokyo Happy Coats。 アメリカのサイト『INTERNET ARCHIVE』 で、THCの最も新しい順に記録を検索して中身をチェックしていた。1970年末頃?にTHCが活動を停止した後、どんな情報が流れ、どんな取りあげ方がなされていたのか、ちょいと確認したいと思ったから。
ひとつ拾ったのは、ブランダイス大学 で発行されていた『The Justice』 というインディペンデント新聞の記事。この学生新聞、試験期間と休暇期間を除いて学年度中に出されていた、と解説にあった。
"The Justice" 私の姿勢として、 Gay Little Heartsが渡米しTHCに生まれ変わってからはそれこそ芭蕉たるRoy Baugher氏の領分だと思っているので、アメリカ時代には触れようと思わないし、またそれをこなせる器でもない。
しかしこの記事は、サディスティック・ミカ・バンド『黒船』 のレビューの中にTHCがすこし顔を覗かせるというもの。あくまでも主役はミカバンドである。少々脇道に逸れるとはいえ、執筆者がそれぞれをどう捉えているのか気になったし、加藤和彦 師のトリビュート映画が(2024年)5月末から公開されたこともあってピックアップしてみた。
『Sadistic Mika Band/Black Ship』SMB (See For Miles SEECD 674、1998) 筆者所有 ■ミカバンドとTHC、レビューワーの捉え方は? どんな記事か、さっそく見てみよう。 新聞に掲載されたのは1975年4月末、タイトルは「Sadistic」、執筆者はPeter Morkという人物だ。
掲載された時期は、THC活動停止からいけば約5年ほど経過した頃か。ミカバンドだと前年の74年11月に『黒船』をリリースし、75年10月にRoxy Music全英ツアーのオープニングアクトとしてイギリスに渡る間のこと。故にMork氏のこのレビューは『黒船』が対象となっている。
a part of ”Sadistic” Peter Mork( "The Justice" 1975.04.29) Sadistic Mika Band(Harvest)isn’t the first Japanese rock act to get released in the U.S. But since no one members East or the Tokyo Happy Coats(Yoko Ono never counts), this can be considered a first. And the Sadistics aren’t half bad; when they try they can produce some good, solid rockers. Listening to the album, one is struck by the extent to which they’ve assimilated their styles from numerous Western models.Much of the music derives from one identifiable source or another, and part of the fun in figuring out who’s being ripped off. 『サディスティック・ミカ・バンド』 (Harvest)は、アメリカでリリースされた最初の日本のロック・アーティストではないが、EastやTokyo Happy Coats 以来顔触れが誰もいないので(オノ・ヨーコは数に入らない)、これが最初の作品とも言える。そしてサディスティックスも悪くない。努力すれば、良い、しっかりしたロックを制作できる。 このアルバムを聴くと、彼らがいかに多くの西洋のモデルから自分たちのスタイルを同化させているかに気づかされる。音楽の多くは、ある特定できるソースか別のソースに由来しており、誰をパクっているのかを見極めるのも楽しみのひとつだ。
※『黒船』は米では『Sadistic Mika Band』と改題。web翻訳と太字は引用者。 一読、『黒船』に対してけっこう辛口な批評だ。長くなるが、参考までに続きも載せておこう。
Time Machine thunders along in Mott the Hoople fashion; Black Ship sounds like Man with a little James Brown tossed into the middle,and Dontaku is a sort of Eastern Billy Preston number.Elsewhere can be heart echoes of Chick Corea,the Stones(both at once!).Sly and Donovan,which ought to give you some idea of spectrum involved. Not all of it works; the attempts at head music(Sayonara and the first half of Sumie No Kuni E,are pretty boring, as is Japanese folk-longish Four Seasons. Certainly not very Sadistic. I don’t think the SM Band is an important group at this stage; they don’t have any solid identity or direction.But they have the chops,and when they let loose,as on Time Machine,they can be electrifying.Given the chance,they may yet turn a trick. 「タイムマシンにおねがい」はMott the Hoople風に轟音を立てて進む。「黒船」はManに少しJames Brownを混ぜたようなサウンドで、「どんたく」は一種の東洋風のビリー・プレストンのナンバー。他の場所では、チック・コリア、ストーンズ (両方同時に!)、スライとドノヴァンの心の響きが感じられる。これは、含まれるスペクトルについてある程度の見当をつけるはずだ。 すべてがうまくいっているわけではない。ヘッド ミュージック (「さよなら」 や「墨絵の国へ」の前半) の試みはかなり退屈で、日本のフォーク風の長めの「四季頌歌」もそうだ。確かにあまりサディスティックではない。SMバンドは現段階では重要なグループではないと思う。彼らには確固としたアイデンティティや方向性がない。しかし、彼らには才能があり、「タイムマシンにおねがい」のように自由に演奏すると、衝撃的になることがある。チャンスがあれば、彼らはまだトリックを披露するかもしれない。
翻訳は引用者 話を戻す。
■引退から5年、それでもインパクトを残していたTHC。 レビュー内でTHCについて言及した箇所は下記。
『サディスティック・ミカ・バンド』(Harvest)は、アメリカでリリースされた最初の日本のロック・アーティストではないが、EastやTokyo Happy Coats以来顔触れが誰もいないので(オノ・ヨーコは数に入らない)、これは最初の作品とも言える。
まず”アメリカでリリースされた日本のロック・アーティスト” という言葉がポイントだと思った。
”日本のレコーディング・アーティスト” だったならば、それこそ”最初級”は江利チエミ (1952年にそれもKingの子会社Federal から)、ナンシー梅木、Q坂本、下って若大将(加山雄三)、加藤師在籍のフォーク・クルセーダーズなど多く存在する。Mork氏がTHCを挙げて”最初のロック・アーティスト”としたは、そういう認識を持っていたからだろう。
その認識を前提に、ミカバンドがアメリカで盤をリリースした”最初のロック・アーティストではない”というのであれば、確かにそうかも。Mork氏が言う、”最初のロック・アーティスト”両者にこだわれば、EastのCapitolからのリリースは1972年、同じくTHCは1970年なので、THCが最初 である。
余談だけど。名前が出てきたEast 、 懐かしいね。 1972年に東芝音工が送り出したバンドで、当時読んでいた雑誌『ミュージック・ライフ』にデカデカと全ページ広告が掲載されていたのをいまも覚えている。アメリカCapitolとの契約であちらで先行デビューという販売戦略だったかな。結果として完敗。バカ売れしたのは”こっち” の方だった。
加えてMork氏にアピールした点として、名門レーベルKing からLPやシングルを発売したという、レーベルのブランドイメージも大きく作用したのではないか。これまで幾度か紹介している下記ブログも、”Japanese Pop on King Records”というリードが効果的なツカミだものね(え?!てなもんで、私もツカまれた)。
以上、すでにTHCが活動停止して5年近く経過しているのに関わらず、Mork氏がレビューの中でその名を引き合いに出したのは、それだけ彼女たちがロック・アーティストとして強いインパクトを与えていたのだ、と想像する次第である。
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それにしても(オノ・ヨーコは数に入らない )というのは、可哀想だよね。ジョンや、それこそミカバンドの本家「プラスティック・オノ・バンド」のシングルのB面で聴いていた頃は解釈不能だった。でもオルタナティブなものに親しんでからオノ・ヨーコを聴き直したら、当時すでに先を行ってて凄いと認識改めたもんなぁ。Morkさんは今、どう思ってるんだろな。
■補遺:2024年7月18日 この稿を読んでいただいたBaugher氏から一報が入った。
I read the THCs Bonus Track 2. Peter Mork is still alive. Last month I contacted him about the article he wrote. This is what he told me: ### I sure don't remember writing that, but it does have my juvenile attitude all over it. I heard of the Tokyo Happy Coats from a copy of the Schwann record catalogue I had in my possession. I thought it was an interesting name. At the time I'd never heard of a happi coat. I did radio at the Brandeis station, WBRS, and was always on the lookout for obscure records that few if any ever heard of. Eventually I ran across a copy of "Forevermore" at Discount Records in Harvard Square, for a bargain two dollars. I used "Tea-A-Wanna Whistle" as the intro music on my weekly radio shift. I gather they were popular in Hawaii. Oh, and Yoko Ono actually does count. ### -------------- THCs のボーナストラック 2 を読みました。 ピーター・モークはまだ生きています。先月、彼が書いた記事について連絡しました。彼は私にこう言いました。 「それを書いたかどうかは覚えていないが、私の子供っぽい態度が全面に出ている。 Tokyo Happy Coatsのことは、持っていたシュワンのレコードカタログから知った。面白い名前だと思った。当時はハッピコートなんて聞いたこともなかった。私はブランダイス放送局の WBRS でラジオをやっていて、ほとんど誰も聞いたことのないようなマイナーなレコードをいつも探していた。最終的にハーバードスクエアのディスカウントレコードで「Forevermore」を 2 ドルという格安で見つけた。毎週のラジオのシフトでイントロの音楽として「Tea-A-Wanna Whistle」を使った。 ハワイでは人気があったようだ。そうそう、オノ・ヨーコもカウントされる。」
Baugher氏からのメッセージ。翻訳文もご本人。 Baugher氏がすでにMork氏とコンタクトを取っていて事情を尋ねていたとは驚いた。さすが研究者である。
”Yoko Ono actually does count.”という言葉に、Mork氏が積み重ねた年輪を見る想いがする。私もそうだったから。
このご両人のやり取りを本稿の末尾に追加していいかどうか、Mork氏への確認をお願いしたら、Mork氏からこのような返信が届いたという。
Peter-san says it is OK to use his quote 😊 This is what he wrote: “That's fine! Goodness, my past is coming back to haunt me” --------- ピーターさんは引用してもいいと言っています😊 彼が書いたのはこうだ。「それはいいことだ!ああ、私の過去が再び私を悩ませている」😎
(了)