やっぱ、割烹着の威力はハンパない
夜はなかなか出かけることはない。
待てよこの間もそう言ってたな…そうかも知れない。
まあでもあえて夜に予定は入れないようにしている。
この日はお話会があった。
お話会に行きたい!と言い出しっぺの友だちは、いつもアツイ女なので、常に何か企画を考えている。
案の定、カノジョ。わが町のために屋台を始めるといい出した。そしてお話会のあと、屋台の視察にまわるとも…
またか、と最初は思ったけど、彼女の中ではすべては町のためにやっていること。
最後はそれも楽しそうだなと思えてくる。
本日光栄にも、そのための視察団の一員に別の友だちと選ばれ、女3人で屋台にいくことに…
某長屋&屋台街。
浅草のホッピー街なんかで見かける、冬は簡易ビニールで覆った屋台ではなく、ちゃんとした二坪ほどの建物がズラッと20軒ほど並んでる。
それが道を挟んで二箇所。左手が長屋、右手が屋台街と呼ばれているようだ。
よーく外のメニューの看板を見て、店の雰囲気を窓からのぞきながら、端からまずは偵察。
一番端っこまで来た時、ちょっとくもったガラス戸をのぞくと割烹着の五月みどり似のママがニコニコしている。
いいね、ここ。
肉が苦手な友だちがいるから、和食なら大丈夫だろと思い「3人いけますか〜」ってガラガラっとドアを開ける。
屋台と聞いたから、長めのオーバーを着てきたけど、中はストーブたいてるし、思ったよりあったかい。
カウンター9席ほどに先客2名。おおよそ50、70くらいのオジちゃんたちが端と端に座ってる。
…メニューってどれだろ、
屋台初心者の私たち、どこ見ていいかわからず、そのうちに、あーでもないこーでもないって女三人しゃべりだす。
隣の黒尽くめのお兄さん、よっぽどうるさかったのか「先に決まった食事が出てくるから、それ食べてから食事は頼んだほうがいいよ」と、自分の前の料理を見せて私たちを黙らす。
なるほど、5品ほどお盆に乗ってる。
ポテサラ、サカナの煮付け、ごぼうの煮物、小鉢のセンスもかわいい。
こういう店をおばんざい屋さんっていうんだ…
とりあえずメニューも決まり、黒尽くめお兄さんも含めて乾杯。
ふと、カウンターに紅葉のステッカーが貼ってある。ママ曰く、一ヶ月前に店をオープンしたばかり。
カウンターに傷があったから急遽隠すために貼った。えー、最初からそういうのってどーなんだろ…ワタシならごねるのに。そこがママの優しさなのかもしれない。
それにしても一ヶ月前にオープンなんて料理も美味しいし、ママも優しいし、なんだか一軒目からいい感じのとこを当てた。
こういう時の嗅覚だけは鋭い。
しかも割烹着ママ、最初スナックで働いてて、その後近くの温泉街で女将やって、ここが最後と長年やりたかった、おばんざいの店を出した。
視察の私たちには勉強になる、いい話。やっぱり、割烹着ママ、ただものではなかった。
右端の70代のオジちゃんは、スナック時代からの常連さん。ママとも親しげに話してる。
そうこうしてるうちに、「…割烹着がいいよね〜」って言いながら二人組入ってくる。
そうそう、ワタシたちも割烹着につられて入ってきたんだよね〜とか思いながら、やっぱ割烹着の威力はハンパない。
割烹着なんて、ワタシの場合、出番は親戚の葬式くらい。普段奥の方にしまってある。
そう言えばSTAP細胞の彼女も実験中に着ていた映像が一時期流れていたような…
良く考えたら、すごいアイテム。
どんな看板より、ひきつけられちゃうんだからさ。
ワタシたち、屋台出すなら日替わりでおばちゃんたちに割烹着着てもらって、お客さん呼び込むしかないね、
とかなんとか話していたけど…
これはさ、
五月みどりが着るから割烹着も威力があるんであって、日焼けした、農家のおばちゃんたちが来たら本当の戦闘服になっちゃうよ。
…ひっそりとした我が町に帰ってきて思う。
あの町のこうこうとした明かりと、五月みどりの割烹着はやっぱりあそこでしか味わえない。
またいこ。