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【刑法総論】正当防衛①

こんにちは、Yagitoです。本日は刑法上の正当防衛についてまとめてみました。

1. 正当防衛の法的意義

1.1 刑法36条の規定

刑法36条1項は次のように定めています。

「急迫不正の侵害に対して、自己または他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」

この規定が示すのは、違法な攻撃を受けた際に、自分や他人を守るために行った必要な行為であれば、たとえ犯罪の構成要件に該当しても処罰されないという仕組みです。
正当防衛は、自己または他人の生命・身体・財産などを守るための緊急的な措置として、刑法上特別に認められた制度です。


2. 正当防衛の正当化根拠

正当防衛がなぜ法的に認められるのかについては、主に次の4つの理論が考えられています。

2.1 自己保存権説

(1) 概要

  • 人は本質的に**自らの生命や身体、財産を守る権利(自己保存権)**を持っている。

  • その権利を実現するためには、違法な攻撃に対して適切に防衛することが認められるべきである。

(2) 正当化のポイント

  • 正当防衛は自然権的なものであり、刑法が特別に許容しているわけではなく、本来的に認められるべきものである。

  • 国家が市民の生命・身体を守るべきだが、緊急時には個人が自己の権利を守ることが許される。

(3) 批判

  • 防衛行為の適用範囲が広くなりすぎる可能性がある(行き過ぎた正当防衛を許容しかねない)。

  • 国家の役割と個人の防衛行為のバランスが問題となる。


2.2 法益衡量説

(1) 概要

  • 正当防衛が認められるのは、守られるべき法益の価値が、侵害される法益の価値よりも大きい場合である

  • 例えば、「攻撃者の生命」よりも「被害者の生命」が重要と考えられるため、被害者が攻撃者を防衛することは正当化される。

(2) 正当化のポイント

  • 個人の法益(生命・身体)を守るために、攻撃者の法益を制限することが合理的である。

  • 被害者の正当な利益が攻撃者の違法な利益よりも優先されるべきである。

(3) 批判

  • 法益の価値をどう比較するかが不明確であり、正当防衛の基準が曖昧になり得る。

  • 攻撃者の法益が完全に無視されるリスクがある。


3. 正当防衛の成立要件

刑法36条の文言に基づき、正当防衛が成立するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。

3.1 急迫不正の侵害

「急迫不正の侵害」とは、現に行われている、または今にも行われようとしている違法な攻撃を指します。
この要件は、**「急迫性」「不正性」**の2つの要素から成り立っています。

(1) 急迫性

  • 侵害が現在進行形であるか、間近に迫っていることが必要。

  • 将来的な危険や過去の攻撃に対する報復行為は、急迫性が認められない。

  • ただし、侵害の発生が確実であり、未然に防ぐ必要がある場合には、急迫性が認められることがある。


Aが突然Bをナイフで刺そうとした → 正当防衛が成立する可能性あり。
Bが過去にAを殴ったが、今は危険がない → これは「急迫」ではないため正当防衛は成立しない。


(2) 不正性

  • 「不正」とは、違法な侵害行為であることを意味する。

  • 警察官の適法な職務執行(例:正当な逮捕)に対する抵抗は正当防衛とならない。


強盗が刃物を持って襲いかかってきた → これは「不正」な侵害なので正当防衛が成立する可能性あり。
警察官が適法に逮捕しようとしたのに抵抗した → これは不正な侵害ではないため、正当防衛は成立しない。


3.2 防衛の意思

  • 正当防衛が成立するためには、自己または他人の権利を守る意思(防衛の意思)が必要。

  • 報復目的や攻撃の意思で行われた場合、正当防衛は成立しない。


AがBに襲われたため、Bを殴って反撃した → 正当防衛が成立する可能性あり。
Bの攻撃が終わった後、Aが報復目的でBを殴り返した → これは単なる復讐なので正当防衛は成立しない。


3.3 やむを得ない必要な行為

「やむを得ない必要な行為」とは、防衛の手段として適切であり、相手の攻撃に対して相当な範囲内で行われた行為を指します。

(1) 必要性

  • 防衛行為が侵害を防ぐために本当に必要なものでなければならない。

  • 逃げることが可能だった場合や、他の手段があった場合には、正当防衛が否定される可能性がある。


AがBに殴られそうになったので、Bを突き飛ばして逃げた → 正当防衛が成立する可能性あり。
Bが逃げることができるのに、あえて反撃して重傷を負わせた → 必要性がなかったため、正当防衛が成立しない可能性あり。


(2) 相当性

  • 防衛行為が攻撃の程度に対して適切であること。

  • 軽度の侵害に対して過剰な防衛行為を行った場合、過剰防衛となる(刑法36条2項)。


AがBに襲われそうになり、Bを押し倒して逃げた → 適切な防衛行為と評価される。
Bが素手で襲ってきたのに、Aがナイフで刺した → 防衛行為が過剰すぎるため、過剰防衛が成立する可能性がある。


4. まとめ

正当防衛は、刑法の重要な概念であり、成立には厳格な要件が求められます。
各要件を慎重に検討することで、防衛行為の適法性が正しく判断されることが重要です。


次回は過剰防衛や偶然防衛などについてまとめる予定です!

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