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【刑法総論】正当防衛② 過剰防衛・誤想防衛・誤想過剰防衛の法的整理
こんにちは、Yagitoです。昨日の続きで、今回は過剰防衛、誤想防衛などについてまとめています!!!!
1. はじめに
正当防衛(刑法36条1項)は、違法な攻撃(急迫不正の侵害)を受けた際に、自己または他人の権利を防衛するために行う行為を正当化するものです。しかし、防衛行為が必要以上に強すぎたり、適切でなかった場合は「過剰防衛(刑法36条2項)」となり、原則として違法とされます。
しかし、刑法は過剰防衛を行った者に対して一律に処罰を科すのではなく、刑を減軽または免除する余地を認めています。本記事では、過剰防衛における刑の減免が認められる根拠について解説します。
2. 刑法36条2項の規定
刑法36条2項では、以下のように定められています。
「防衛の程度を超えた行為であっても、情状により、その刑を減軽または免除することができる。」
この条文から、防衛行為が過剰だったとしても、一定の条件下では刑の減免が認められることが分かります。
3. 過剰防衛の分類
過剰防衛には、大きく質的過剰と量的過剰の2種類が存在します。
3.1 質的過剰
防衛行為の態様自体が、防衛に必要な程度を超えている場合を指します。
✅ 例:
・Bが素手でAに攻撃してきたが、Aがナイフで反撃した → 防衛手段の強度が過剰。
・Bが軽く殴ろうとしただけなのに、Aが銃を発砲した → 明らかに行き過ぎた防衛行為。
3.2 量的過剰
急迫不正の侵害が弱まったり、終了した後も反撃を続けた場合を指します。
✅ 例:
・Bが攻撃をやめて逃げようとしているのに、Aがさらに暴行を加え続けた → 反撃をやめるべきタイミングを逸している。
・Bが倒れた後もAが殴り続けた → 防衛行為の継続が過剰。
4. 過剰防衛における刑の減免が認められる根拠
過剰防衛の刑の減免が認められる主な理由として、以下の4つの説が挙げられます。
4.1 違法減少説
過剰防衛は正当防衛を成しうる状況で行われるものであり、防衛の範囲内であれば違法性が減少するという考え方です。
✅ ポイント
・正当防衛の要件を一部満たしているため、完全な違法行為とはいえない。
・防衛行為の正当性をある程度認めるべきであり、刑の減免が可能とされる。
4.2 責任減少説
緊急状態では、恐怖・驚愕・狼狽・興奮などの心理的要因によって、行為者が適切な判断を下せないことが多いため、過剰行為に対する非難可能性が減少するという考え方です。
✅ ポイント
・行為者の精神的動揺を考慮し、冷静な判断ができなかった点を重視する。
・責任能力が一部減少しているとみなされ、刑の減軽や免除が認められることがある。
4.3 違法・責任減少説
違法減少説と責任減少説を組み合わせた説であり、
✅ ポイント
・違法性は部分的に否定されるが、完全に正当化されるわけではない。
・行為者の心理状態も考慮し、処罰の必要性を減少させる。
4.4 可罰的責任減少説
違法・責任減少説をさらに発展させ、処罰の必要性そのものを考慮する説。
✅ ポイント
・「処罰の必要が低い場合には、刑を免除すべき」という視点を持つ。
・特に、社会的に見て許容される範囲内での過剰防衛であれば、免除が適用される可能性が高まる。
5. 誤想防衛とは?(刑法38条1項)
5.1 定義
誤想防衛とは、**「行為者が急迫不正の侵害があると誤認し、正当防衛として防衛行為を行ったが、実際には侵害がなかった場合」**を指します。違法性阻却事由の錯誤から問題になります。
✅ 例
AがBの銃を構えるのを見て、自分を狙っているものと誤認し、防衛のためにBに発砲した。しかし、Bは実際には鳥を狙っていただけだった。
6. 誤想防衛の成立要件
6.1 厳格故意説・修正責任説(伝統的犯罪論)
故意とは犯罪事実の認識および違法性の意識からなる。
誤想防衛は違法性阻却事由の事実的前提の不認識であるため、故意が否定され、過失犯として処理される。
6.2 厳格責任説(目的的行為論)
故意犯の構成要件は、客観的構成要件該当事実と主観的構成要件的故意からなる。
誤想防衛の場合でも、構成要件的故意が認められるため、故意犯として処理される。
7. 誤想過剰防衛とは?(刑法36条2項 × 38条1項)
7.1 定義
誤想過剰防衛とは、「誤って正当防衛の状況にあると信じ、さらに防衛行為として過剰な行為を行ってしまった場合」を指します。
✅ 例
実際には攻撃の危険がなかったにもかかわらず、行為者が「自分が攻撃される」と誤認して防衛行為を行い、さらにその防衛行為が必要以上に強すぎた場合。
7.2 誤想過剰防衛の処理
① 過剰の点について認識していた場合
誤想に基づく行為であるため、全体として過失犯として処理すべきとする説
過剰部分については故意犯とすべきとする説
② 過剰の点について認識していない場合
誤想防衛として処理される。
8. 誤想過剰防衛に対する刑法36条2項の適用
36条2項の適用
違法減少説急迫不正の侵害に対する反撃ではないため、適用否定
責任減少説行為者の心理状態が過剰防衛と変わらないため、適用可能違法・責任減少説、可罰的責任減少説違法減少が認められないため、2項の適用は不可だが、準用は可能
9. まとめ
誤想過剰防衛は、正当防衛・誤想防衛・過剰防衛の要素が絡む複雑な概念であり、刑事責任の判断は学説によって異なります。
各学説から導かれる結論について考え方と一緒に理解していってください