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改変歴史のエジプトで魔術的事件を追う女たち~P・ジェリ・クラーク『精霊を統べる者』

20世紀初頭、ジン(精霊)の魔法と科学の融合により大発展した魔都カイロ。そこへ40年前に姿を消した伝説の魔術師を名乗る怪人が現れ、彼を崇拝する人々を焼き尽くした。エジプト魔術省の女性エージェント・ファトマは、恋人の女性シティ、新人パートナーのハディアらと共に捜査に乗り出す。ネビュラ賞、ローカス賞、イグナイト賞、コンプトン・クルック賞の4冠に輝いた新鋭の第一長編! 解説=渡邊利道


作者P・ジェリ・クラークは歴史学の専門家で、コネチカット大学で助教授を務めるかたわら、小説を執筆している。本書『精霊を統べる者』は第一長篇で、ネビュラ賞、ローカス賞、イグナイト賞、コンプトン・クルック賞の四冠を獲得。魔術と科学が混淆する二十世紀初頭のエジプトを舞台とした、絢爛たる改変歴史ファンタジイである。

四十年前、伝説の魔術師アル=ジャーヒズが異世界に通じる穴をあけ、世界は激変した。穴を通ってジンをはじめとする超自然の存在があらわれ、各国は対応を迫られる。ひそかにジンと協約を交わし、新たな秩序を打ち立てたのがエジプトだった。エジプト社会は安定的に近代化が進み、欧州列強に対峙する勢力を有するようになる。女性参政権を世界に先駆けて(といっても、わずか数カ月前のことだが)導入したのもエジプトだった。そのいっぽうで、エジプトはさまざまな宗教が混淆する土地でもある。イスラム教、古代宗教、神秘主義、心霊主義......。その坩堝のような文化背景が、物語に深く影を落とすことになる。

エジプトでは得体の知れない秘密結社も跋扈している。そのひとつがアル=ジャーヒズ秘儀友愛団だ。アル=ジャーヒズを崇めるというのが表看板だが、白人至上主義を掲げる偏頗なイデオロギーといい、各方面への政治的暗躍といい、キナ臭い空気がふんぷんな集団である。この集会に突如、黄金の仮面をつけた魔人が出現し、そこにいた全員を斬殺した。町のひとびとは、ずっと姿を消していたアル=ジャーヒズが戻ってきたのだと噂する。

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