踊りながら石を彫りたい
わたしは結構、音楽に左右されてしまう。と、思っている。
ので、作業中に聞く音楽はそれなりにこだわるというか、ちゃんと選ぶ。プレイリストを作ったりもする。
高校生のとき、色彩構成の課題を夜なべしてやっていることがあった。
最初は何を聴きながらやっていたんだっけ?bonobosだった気がする。
とにかくわたしはさわやかめな音楽を聴いていて、朝焼けをイメージしたようなさわやかな色を作っては画面を埋めていっていた。…はずだった。
どこかのタイミングでBGMがゆらゆら帝国に変わって、自分でも意識しないうちに、どんどん色が濁っていった。
ドアポストに朝刊が入る音がして驚いて、部屋の窓からさわやかに朝焼けの光が差し込んでくるころ、そんな外の景色とは対照的に画面上の色合いは完全に沼になっていた。不気味な底なし沼がそこにあった。
アレ?なんか最初朝焼けをイメージして…みたいなこと考えてなかったっけ???
えっなんでこんなことになったんだ??
…
「もしかしてゆらゆら帝国のせいじゃね!?」
今になってよく考えれば夜なべの疲れと眠さで色が濁っていったのでは…と思うのだけど、高校生当時のわたしは作業中に流れていたゆらゆら帝国のせいにした。(ひどい話だ…
しかし、それからわたしは作業中に聞く音楽を、描いているものや作っているものに合わせてきちんと選ぶようになった。
………………
大学生になって最もよく作業用BGMに選ばれたのはビョークとシガー・ロスで、アイスランド2大アーティストにとにかくお世話になった。
磨きなどの単調な作業の時はアンダーワールドにお世話になった。
色が濁った時はまるでゆらゆら帝国が悪いみたいに言ったけど(※何も悪くない)、果たしてじゃあ自分の作品にこの偉大なアーティストたちの影響が現れているのかと言われるとまったく自信はない…
しかし、同じものばっかり毎回聞いていたのではどんな名作も飽きがくるときはくる。
だからというわけでもないのだけど、今日は最近遅ればせながらハマりはじめたペットショップボーイズを聞きながら制作していた。
これがすごいよくて、ものすごいノれるし、とにかく気持ちいい。すごく集中できるしアガる。ペットショップボーイズ、最高じゃん!となっていた。
…のだけど。
最高が過ぎて、地に足がつかなくなってきた。
足が…足が踊りたがっている…
……
踊りながら石彫りたい…
踊りたい、でもなく、彫りたい、でもなく本当に、踊りながら彫りたかった。
踊りたい、と、彫りたい、がわたしの中で見事にフュージョンしていた。
こんな気持ちになったのなんか初めてで戸惑った。
本当に誰もいなかったら踊りながら彫っていたかもしれない…ペットショップボーイズ、恐ろしい人達…
しかしさすがに落ち着きがなさすぎると反省し、iTunesを漁り、落ち着くためにパステルズをかけた。
少し話がそれるけどパステルズってめちゃくちゃ落ち着くんだよね。さびれた公園の色あせた遊具って感じがして…(?
でもそれも今日は効かなかった。一度ハイになってしまったわたしの精神が「まだ…まだ落ち着きたくない!」と騒いでいるのを感じてしまい、マイブラッディバレンタインに変えてしまった。(全く落ち着く気がない選曲をしてしまった…)
ゴリゴリのノイズが、バリバリと騒音を立てる工具の音と混じり合っていく。そのノイズがイヤホンから流れているのか、自分の手元の鑿先からでているのかわからなくなってくる。
現実のノイズとイヤホンからのノイズが合わさる中から絶妙に聴こえてくる甘美なメロディ…ウワ…すごい…気持ちいい…ていうか…なんか…
…なんかヤバい!?!?えっ!?
ちょっと待ってわたし今なにしてるんだっけ!?何作ってるかわかってる!?!?
バリバリという工具を動かす音は響いていたが、もはや目の前の石は目には映っていなかった。意識は違う場所に、石のはるか上に飛んで行ってしまっていた。
…石を彫りながらトリップ(?)していた…?
こわ!!
音楽の力に畏れおののきながら工具も置いて部屋に戻って休憩することにした。
目の前の形が見えなくなってしまったのでは、さすがに彫れない。
………………
休憩しつつ、マイブラを聞きながらトリップしていた時のイメージを、忘れないようにメモしてみたけれど、それをいざ作品(彫刻)にしようと考えると構造的なことや作り方を考えてしまって、衝動はそこで一旦止まってしまう。
気持ちいい!だけで作れたらそれはそれで楽しいかもしれないけれど、立体にするとなるとなかなかそれだけでは作れない。勢いで突き通せない。
絵だったら、絵の具だったら、こういう衝動をそのままぶつけられるんだろうか。
昔はそんな絵をたくさん書いていたような気がするけれど、彫刻をするようになってからはめっきり絵をちゃんと絵として描かなくなってしまった。
たまには絵の具で絵を描こうかな、なんて思ったりした。
お茶を飲んで一息ついて、次は何を聞くか散々迷って、結局聴きなれたビョークにお世話になることにした。
あぁ、明日は何を聴こうかな。
作業中、他のみんなは何をどんな気持ちで聴いているんだろう。どんなタイミングで、どんなテンションで、どんな音楽を聴いているんだろう。
…踊りたくなったり、するんだろうか。
少し、気になった。