鬼えんぴつ
小鬼の お風呂上りに 様子をみに行くと
いつものように 小鬼は消えていて
でも その身代わりみたいに 1本の えんぴつが 残されていた
部屋にもどり そおっと いっぽん 線をひいてみた
線は サラサラ流れる水へと かわった
ためしに
魚を描いて 水を流してみたら
スイスイ泳いで とっても気持ちが よさそうだった
鬼のえんぴつで バラを描いた
花壇で 今年初めて花をつけた ピンクのバラ
鬼えんぴつで 描いたバラは 香りを放ち
風にそよいで やさしく揺れた
鬼えんぴつは たのしい
たくさんの人を 描いてみたら どうなるだろう と
いちど 試したことがあった
描くはじから飛び出して 部屋のあちこちへ てんでに走り回るので
うるさくて嫌に なってしまった
あちら こちらで固まって
ぺちゃくちゃ ぺちゃくちゃ 話に花をさかせたり
グルグル おなじところを 走り続けるのがいたり
自分で描いておいて なんだけれど
ずいぶんと 愛想のない人々だった
身の回りのお世話をよろこんでいたします、なんて、まさかね、
それとなく 声をかけてみたけど もちろんダメだった
なにもなかったように 会話にもどったり
走るのを やめることすら しないのもいた
食卓で 楽しい午後のお茶でも一緒に、なんて
まるで興味がないようで ちょっと さみしかった
お風呂に入って いつも そのまま消える 小鬼と同じように
あまり交流のないまま
しばらくしたら みんな消えて いなくなり
静かになった
もしかしたら 外に 出たのかもしれない
今頃 どこかの家の 片隅で
私の描いた小さな人達が ガヤガヤと 好き勝手に暮らしているかと
思うだけでも 楽しくて
今でも 鬼えんぴつは 大事にしている
ときどき 思いついたものを 描いている
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