見出し画像

忖度だらけの事業計画 〜新規事業成功への本当の道筋とは〜

はじめに:社内起業家の苦悩

「3年で売上30億円、黒字化達成」
あなたは、この数字を見てどう感じますか?希望に胸を膨らませますか?それとも、胃が重くなる感覚を覚えますか?

新規事業の立ち上げに携わる多くの社内起業家が、このような非現実的な目標設定に直面し、苦悩しています。

実現可能性を十分に検討せずに立てられた計画。それは、単なる数字の羅列ではなく、あなたの未来3年間の奮闘の軌跡を決定づけるものになるのです。
例えば、大手電機メーカーでIoTプラットフォーム事業の立ち上げを任された田中さん(仮名)は、こんな経験をしました。

「最初の会議で、役員から『3年後には10億円規模の事業に成長させろ。そうでなければそもそもチャレンジする意味がない』と言われたのです。

市場調査では、類似サービスでさえ5年かけて2億円程度の規模だったのに。でも、その場では『はい、頑張ります』としか言えませんでした。」

実態とは関係なく、収益計画はそこから逆算して作ることしか許されなかったのです。

みなさんこんにちは。MOONSHOT WORKSの藤塚洋介です。
70以上の新規事業立ち上げに携わり、中でも大企業での経験からこう思うのです。

<上層部からは、2年で単月黒字、3年で累計の黒字化、事業規模は10億円以上を作らなければ意味がない。>など大企業が目指す新規事業の目標は高い一方、世の中の優秀なスタートアップでも10億の事業を作るには5~10年かかっているケースを理解しているのでしょうか?

求められることと現実とは大きくずれているのです。

そしてこのプレッシャーが結局既存事業と変わらない「新規制の低い事業にしかチャレンジしない社員」を量産してしまうのです。

そうならないためには、どう立ち回るか?
”社内起業家の腕の見せ所”でもありますので興味のある方は一緒に見ていきましょう。


忖度の罠:なぜ起こるのか

ある大手企業の新規事業部門リーダーは、こう振り返ります。

「当初は『早く結果を出さなければ』というプレッシャーに押しつぶされそうでした。
しかし、本質的なコンサルタントのサポートを受けて、過去の失敗事例から段階的な成長戦略と柔軟な計画修正の重要性を学びました。

その結果、経営陣との建設的な対話が可能になり、5年かけて事業を軌道に乗せることができました。

当初の規模はとても経営陣を満足させるものではありませんでしたが、今では社内でも重要な収益源となっています。

この言葉は、多くの社内起業家の心に深く刺さるはずです。
なぜなら、それは彼らが日々直面している現実だからです。
では、なぜこのような「忖度」が生まれるのでしょうか?

その背景には、複雑な要因が絡み合っています。

忖度が発生する要因

1.短期的成果主義
四半期ごとの業績評価などに象徴される、短期的な成果を重視する企業文化。これは、長期的な視点での事業育成を困難にします。

2.リスク回避傾向
「失敗は許されない」という暗黙の圧力。これが、挑戦的ではあるが現実的な計画よりも、「無難な」計画を選択させる要因となります。

3.経験不足
新規事業の実態を知らないまま、既存事業の成長モデルを当てはめてしまうこと。これは特に、大企業での新規事業立ち上げ時に顕著です。

4.組織の期待と現実のギャップ
経営陣の高い期待と、市場の現実との間に存在する大きな溝。これを埋めるのは容易ではありません。

5.コミュニケーション不足
現場の声が経営層に届きにくい組織構造。これが、現実と乖離した計画の是正を難しくします。

例えば、大手食品メーカーで健康食品の新規事業を担当することになった佐藤さん(仮名)は、こんな体験をしました。

「既存の菓子事業の成長モデルを基に、1年目から大規模なマーケティング投資を行う計画を立てました。

しかし、この健康食品市場では口コミによる緩やかな成長が一般的で、結果的に大きな損失を出してしまいました。この業界の新規事業特有の成長パターンを理解していなかったことが原因でした。」

これらの要因が複合的に作用し、現実とかけ離れた「忖度」の事業計画が生み出されるのです。

実話をもとにしたフィクション

現実を直視する:スタートアップの成長モデルから学ぶ

例えば、今や誰もが知る大手ECプラットフォーム企業も、創業から黒字化まで9年の歳月を要しました。
「赤字覚悟で規模を追求する」という戦略に対し、当初は「いつまで赤字を続けるのか」という批判の声も多くありました。
しかし、ユーザー基盤を着実に拡大し続けたことが、最終的な成功につながったのです。

私が関わった新規事業の中で、5年以内に10億円規模に成長したものは、ほぼありませんでした。

多くの場合、それ以上待てずに3~5年で中止してしまうことが多いですが、5年以上の時間をかけたビジネスが徐々に成長していきました。

しかし、スタートアップを中心に年々市場成長のスピードは早くなっているのも事実です。

CB Insights の調査によると、ユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の非上場企業)になるまでの平均期間は7年で、生成AIのユニコーンはその半分、創業してからユニコーンになるまでの期間が平均3.6年と倍速になっているのです。

これらの数字が示すのは、新規事業の成長には事業のタイプや業界によってどれくらいでスケールするか、ものすごく差があり、早すぎても、遅すぎても失敗するという、大きなリスク伴う厳然たる事実です。

この現実を直視することが、健全な事業計画を立てる第一歩となります。

実現可能な事業計画の策定:社内起業家の真価

PLAN Bの準備


では、このようなジレンマを抱える社内起業家は、どのように行動すべきでしょうか。以下に、実践的なアプローチをご紹介します。

実践的なアプローチ

”参入業界”と”自信のビジネスモデル”を見極めることが重要
・参入する業界が現在イノベーターカーブのどこに位置するか特定する
・自社のビジネスモデルからどれくらいでスケールできるか仮説を作る。
・業界の成長スピードと照らし合わせその市場でNo1に慣れるか考察する。


具体的なアクション
1.データに基づく現実的な予測
・過去の類似事業の成長曲線を参考にする
・業界専門家や先行するスタートアップへのヒアリングを実施する

2.フェーズ別の目標設定
・短期(1年以内)、中期(1-3年)、長期(3年以上)の目標を明確に分ける
・各フェーズでの具体的なマイルストーンを設定する
・「収益」だけでなく、「顧客獲得数」「製品完成度」など多角的な指標を設定する

3.PLAN Bの準備
・想定されるリスクが発生した場合の代替え案としてのPLAN Bも提案する
・成功した場合の大きな機会も同時に示しバランスの取れた視点を提供する
・市場の変化に応じて計画を修正できる仕組みを組み込む
・「ピボット(方向転換)」の可能性も考慮に入れる

4.経営陣とのコミュニケーション強化
・月次での進捗報告と課題共有の場を設ける
・経営陣を巻き込んだワークショップで現場の実態を体感してもらう
・「なぜその数字なのか」の根拠を、ストーリーとともに説明する

例えば、大手メーカーでシェアリング事業の立ち上げを担当した山田さん(仮名)は、こんなアプローチを取りました。

「最初は『3年で全国展開、売上100億円』という単なる数値目標を提示されましたが、それでは中身が伴っていないことに気づきました。

そこで代わりに『1年目は東西2都市でのパイロット事業、2年目はその2都市でのマネタイズ展開、3年目で主要5都市カバー』という段階的な拡大計画を提案しました。

事業計画の売り上げは3パターン、成功し独占した場合、競合が現れ厳しい戦いになった場合、ニッチなニーズに留まった場合の3つでした。

同時に、各段階でのマイルストーンと、それが達成できなかった場合の代替案も用意しました。

これにより、経営陣の期待に応えつつ、現実的な道筋を示すことができたのです。

結果的に経営陣の理解を得られ、より現実的なペースで事業を進められました。

まとめ:真の価値創造に向けて

「新規事業の成功には、『忍耐』と『柔軟性』が不可欠です。
短期的な数字に一喜一憂せず、長期的な視点で事業を育てる。

同時に、市場の声に真摯に耳を傾け、必要なら大胆な方向転換も厭わない。この2つのバランスを取ることが、真の意味での『社内起業家』の腕の見せ所なのです。」

経営陣が求める要求に単に「忖度」する事業計画は、短期的には受け入れられやすいかもしれません。

しかし、長期的な視点で見れば、企業の成長を阻害する要因となりかねません。

真に価値ある新規事業を生み出すためには、現実を直視し、柔軟かつ粘り強くチャレンジを続ける姿勢が不可欠です。

それは決して容易な道のりではありませんが、この挑戦こそが、企業に持続的な競争力をもたらし、社会に真の革新をもたらす原動力となるのです。

新規事業に携わる全ての方々の成功を、心よりお祈りしています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?