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知ってますか?新規事業の”元カレ”問題
デート計画のシーン
明日は彼女(彼氏)と久しぶりの休日デート。
あなたは、これまで行けなかった場所を巡るプランを計画しました。
「メインはあの国民的テーマパークに行って、お洒落なカフェでランチ。そのあとは買い物に行って…」
あなたは目をキラキラさせながら、テーマパークを中心にしたプランを熱心に彼女に話しました。
すると、彼女から一言
「楽しそうだね…でも今回は他のところにしない?」
と、曖昧な返事が返ってきました。
どれだけテーマパークの魅力を伝えても、彼女の態度は変わりません。
しびれを切らして理由を尋ねると、
「実は元カレとそのテーマパークに行ったことがあって、喧嘩をしてしまい、いい思い出がないの」
と、まさかの理由を明かしました。
あなたは
「私と一緒なら喧嘩しないし、きっと楽しいはず!」
「あのテーマパークには最近、こんなアトラクションができて以前とは違う!」
と説得を試みますが、結局理解を得られず、
ついには
「そんなに行きたいなら、一人で行けばいいじゃない!」
と喧嘩に発展し、デート自体がなくなってしまいました。
皆さん、近い経験ありませんか?
実は、社内起業家の皆さんこそ、これに近い経験をする可能性があるのです。
新規事業開発の世界に足を踏み入れて10年と少し。
私、藤塚洋介が 70以上のプロジェクトに携わってMOONSHOT WORKS を立ち上げて今日までに頻繁に目にしてきた"あるある"シーンがあります。
それは、他部署を巻き込もうとした瞬間に直面する「過去の失敗の影」です。
意気揚々が日々悶々に変わる…
大手家電メーカーで働く、入社2年目の田中さん(仮名)は1年がかりで練り上げた、次世代のスマートホーム構想を上司の承認をもらいました。
ある日、田中さんは技術部を巻き込む為のプレゼンで意気揚々と話し始めてました。
「技術部も特許を使いたいはずだから、きっと協力を得られるに違いない。」と資料の最終ページには田中さんが考えた技術部の役割表やスケジュールまで作っていました。
しかし、プレゼン開始から5分しないうちに、技術部長から
「3年前にも君の部署から似たような依頼があったけど失敗してるよ」
「またやるの?」
と、寝耳に水の一言。
初耳だった田中さんはフリーズしてしまいました。
そこからは技術部内メンバーで話が盛り上がり
「前は誰がやっていたっっけ?」
「あの時はなぜ失敗したのか」
と田中さんそっちのけで、用意していた資料の説明も半分も出来ないまま
「もっと過去のビジネスとの違いを明確にして再提案するように」
と終了し、WEB会議の時間が終了してしまいました。
内心で「過去と私のやり方は違うはず!」思いながらも、技術部を巻き込めず、悶々とした日々を送っていたそうです。
デートでなく、このケースなら思い当たりますか!?
今回は、このような「過去の失敗の影」に焦点を当て、なぜこれが起こるのか、どのように乗り越えていけばいいのかを、私の経験を交えながら詳しく解説していきます。
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現場からの生々しい声
![](https://assets.st-note.com/img/1724213533850-Nix0gpe5sR.jpg?width=1200)
その後、田中さんから相談を受けました。
「困っています。新規事業に必須の部署を巻き込もうとプレゼンしたんです。」
「すると『似たようなビジネス、3年前に私の部署からの依頼で一緒にやって失敗してた』『事前に調べて提案してください。』
と言われたんです。」
「そうは言っても、クローズしてるので引き継いでいる人はもちろん居ないから調べようもなかったんです。」
「会議の後、調べたら担当者は既に異動していて…」
「なんとか探して実際に話を聞いてみると、個人PCから山のようなデータが出てきて...」
その「山のようなデータ」の中には田中さんが調べたものと重複するものもあり、逆に、手に入らなかったデータもあったそうです。
「もっと早く教えてくれればよかったのに、と落胆しています。」
ただ、「なぜこの事業が上手くいかなかったか」については資料を見てもよく分からないんです。」
田中さんは、理由も聞かされないまま「過去に同じ分野でダメだった」というだけで1年かけて準備してきた話を聞いてすらもらえなかったのです。
どこかデートの話と似ていますね。
なぜこのような状況が起こるのか?
それでは、なぜこのようなことが起きるのか見ていきましょう。
1.組織の記憶力の弱さが原因
一般的に新規事業の黒字化までは平均3~5年、投資回収までは3~10年かかると言われています。
対して、管理職の平均的な異動サイクルは2〜3年。
この「ギャップ」が「記憶の分断」を生み、長期的な知識の蓄積を困難にする理由の1つになっています。
また驚くべきことに新規事業プロジェクトの約6割以上が、「個人PCにのみデータが保存されている」という現状もあるそうです。
これではデータが引き継がれないのは当たり前ですね。
あるプロジェクトで、3年のうちに起案メンバー全員が入れ替わっているということがありました。
顧客やパートナー企業は担当が変わるたびに、何度も同じことを説明しないといけないと、次第にうんざりするようになり、正しく情報をインプットしない様になりました。
また、開発に伴うデータのうちユーザーインタビューに関するほとんどが共有サーバーに残っていませんでした。
そして当初の顧客の課題・ニーズに向けた重要な情熱は薄れ、新担当は、そもそも何のためにやっているか?それすら分からなくなることがありました。
これが意味することは、担当者の異動・退職と共に貴重な知見が消えてしまうということに加え、恐ろしいところは、「どんなデータがあったか」も、分からなく「消えても認識できない」ものもあるということです。
2.標準化されていない報告形式が原因
データの管理について
「私の会社はITツールで全部保存してるから大丈夫」
と思った方。
いくらITツール、DXが発展しても使う人間が「理解できる形」でデータ化しないのであれば残念ながら機能しないのです。
仮にデータが残っていても、「調査の一次情報」がそのまま保存してあるケースなどでは当事者以外は意味を読み取るのが非常に困難なのです。
ある IT 企業では、10の新規事業に10通りの報告形式が存在。
エビデンスは顧客インタビューをテキスト化したものがそのまま提出されていました。審議する側は毎回理解に時間がかかり、そのうち何も通らなくなっていました。
さらに、音声の膨大なインタビューデータがあることがわかりました。数十人の何時間の音声から何を読み取るべきなのか、本人たちも分からずに放置されていたのです。
3.部署間の情報の分断が原因
某調査会社のレポートによると、大企業の従業員の80%が他部署の情報アクセスすることに困難を感じているそうです。
開発中の新技術が、マーケティング部門には全く知られていないということで、市場ニーズを逃してしまうケースはどの企業にでもありうることでしょう。
大企業では部署間の壁が高く、情報が共有されにくい構造があるのです。
この問題がもたらす深刻な影響
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1.市場機会の損失
過去の失敗を適切に分析できていないことで、本来なら成功できたはずのプロジェクトが 「Early kill」 されてしまうケースもあります。
例えば、ある家電メーカーでは、10年前に失敗した「スマート冷蔵庫」がトラウマとなり、IoT家電の提案がほとんど通らなくなり、そのうちにライバルにシェアを奪われたそうです。
適切に原因を分析していれば、技術の進歩や消費者ニーズの変化を捉え、市場を先導できたかもしれません。
2.人件費の無駄
同じ調査や検証を繰り返すことで、年間に数千万円規模の無駄が生じている企業もあります。
え?うちはそんな規模じゃないから大丈夫!?
4人構成の2チーム8人が知らずに同じ分野の事業開発を行っていましたとしてください。
投資は行っていなくても、本来4人で行うべきことをプラス4人で行っているわけです。4人の年収の合計はいくらになるでしょうか?
気づかないうちに数千万円が無駄になる、というのはどんな企業でも簡単に起こってしまうのです。
3.モチベーションの低下
社内起業家にとっては、
「自分たちの努力が無駄になる」
という感覚を一度でも味わうと
個人、チームの士気を下げる原因になります。
「それ、去年検討して駄目だった」(やっても意味ないよ)
と一蹴されたことで、その後一切新しいアイデアを出さなくなったという話を聞いたことがあります。
ちなみに筆者はこの「モチベーションの低下」が人財をロスする最大の原因になるため一番重要な問題だと思っています。
解決への道筋
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それでは、この問題の解決策を解説していきましょう。
短期的な異動サイクルに対応する
短期的な異動サイクルに対応する為には、誰がみてもわかる様に普段から共通言語化し残していく必要があります。
まずは新規事業に関する情報は、社内起業家などのプレイヤーと審議者双方が「共通言語化」し「再利用可能」にする必要があります。
わかりやすく書くと組織へ「新規事業フレームワークのテンプレート」を作って保存しようってことです。
ただし、単にテンプレートを統一すればいいわけではありません。
事業を作る段階から、
「残すことを意識」して、
「出来るだけシンプル」に、
「関係者が理解できるフレームワーク」
を使用することがポイントです。
誰が見ても理解しやすい形でデータを蓄積するのです。
ただし、そのフレームワークの選び方には注意です。
なぜなら取り組む事業のスタイルによって事業開発する際の
「力をかけるべき点」
が違うからです。
例えば、
「新規制が高く仮説をしっかり作り込むべき新規事業」なのに、
「エビデンスばかり求めるようなもの」
を採用したとしましょう。
これではフレームワークが仕方なく資料を作る際の
「穴埋め問題」
化してしまい、新規事業の質を高めるものとは程遠くなってしまうのです。
本やネットの記事では「使い方」はわかるものの、
あなたの事業にあった「使いこなし方」は簡単には分からないものです。
「走り方の本を読む」だけでは「本当に早く走れない」のと同じです。
体や能力は100人いれば100様、走るコースにも合わせる必要がありますね。
フレームワークはうまく使うと非常に強力です。
選び方や、その使い方は専門家のサポートを受けるのをお勧めします。
![](https://assets.st-note.com/img/1724636457909-rgQMWViD7H.png?width=1200)
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新規事業事務局が「共通フォーマット」と「データ共有」を機能させる
もう一つの解決策は、新規事業事務局の設置です。
これによる、具体的な4つのメリットを紹介しましょう。
「既に事務局があるよ」という方は4項目ができているかチェックしてください。
1. 組織の記憶力の強化
過去の失敗例、成功例などを集約し事務局主体で管理します。これにより、担当者の異動によっても知識が失われることなく、長期的な視点での知識の蓄積が可能になります。
2. 報告形式の標準化
事務局が標準化された報告フォーマットを提供し、各プロジェクトが一貫した形式でレポートを作成できるようにします。また、フォーマットの共通言語化を進め「役員など審議者」と「プレイヤー」双方がフォーマットの意味を正しく理解してして使えるように指導する必要があります。
3. 人件費の最適化
重複作業を防ぎ、リソースを最適に活用することで、無駄な人件費を削減します。
4. モチベーションの維持
過去の経験や失敗から学び、透明性を持って次のプロジェクトに活かすことで、社員のモチベーションを維持します。
このように新規事業事務局を機能させることことで、問題を効果的に解決し、より成果の出やすい環境を実現できます。
最後に
いかがでしたでしょうか?
簡単に新規事業事務局を作れないという方は、
あなたが中心になって、月に一度、30分でも良いので部署を超えた「過去の失敗共有会」を開催してみてはいかがでしょうか。
続けるとすごく力を発揮しますのでお勧めです。
ちなみに、冒頭のデート計画の場合だと、
「元彼(彼女)との失敗談共有」をテーマにしたZoom飲み会をしてもいいかもしれません、なんだか秘密っぽくて興味湧きませんか!?
ただし、この場合テンプレート化されたデータを残しておくのはお互いのプライバシーの観点から避けましょう 笑。
少しは曖昧さがあるから何度も恋愛できるのかもしれませんね。
それではまた別記事で、お会いしましょう!
新規事業・社内起業家のこんなケースも取り上げて欲しい、もっと詳しく聞きたい。という方はコメントか、MOONSHOT WORKSのHPからお問い合わせくださいね。
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