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社内起業家が知っておきたい、キャズム突破と逆張りの2大戦略とは?【フレームワーク#02】

イノベーションのジレンマを打破し、成長軌道を描く

今回は前回のイノベータ理論と一緒に語れらることの多い「キャズム」について書きたいと思います。

ビジネスの世界では、革新的な製品やサービスを市場に投入しても、期待したほどの成功を収められないケースが後を絶ちません。

なぜ、画期的なアイデアが広く受け入れられないのでしょうか?

その答えの一つとして、キャズム理論が挙げられます。

本稿では、キャズム理論を深く掘り下げ、イノベーションのジレンマを乗り越えるための羅針盤を提供します。

前半はキャズムの基本編、後半は実践編です。
キャズムについて基本は理解しているよっていう方は実践編から読んでみてくださいね。


<基本編>キャズムとは?

キャズムとは何か - テクノロジー普及の正念場

キャズム理論は、前回の記事にあったように消費者を5つのカテゴリーに分類する、イノベーター理論を発展させたものです。

初期市場とメインストリーム市場の間に存在する大きなギャップのことを指します。

初期市場は、新技術や革新的な製品・サービスに対して高い関心を持つイノベーターやアーリーアダプターで構成されます。

彼らは、新しいものを試すことに抵抗がなく、むしろ積極的に新しいものを求める傾向があります。

一方、メインストリーム市場は、一般消費者や大多数のユーザー(アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ)で構成され、新技術や革新的な製品・サービスに対しては慎重な姿勢を示します。

彼らは、すでに確立された製品やサービスを好む傾向があり、新しいものを試すには、十分な信頼性や実績が必要となります。

キャズムは、この初期市場とメインストリーム市場の間にある大きな溝であり、多くの企業が新しい製品やサービスを市場に投入する際に、このキャズムを超えることに苦労しています。

キャズムの壁の発生要因 - 普及を阻む3つの要因

では、なぜキャズムは発生するのでしょうか?
主な要因は以下の3つです。

1. 初期市場とメインストリーム市場の違い - ニーズと購買行動の乖離

初期市場は新しさを求め、メインストリーム市場は安心感を求めるため、この違いがキャズムの発生要因となります。

初期市場の消費者は、新技術や革新的な製品・サービスに対して高い関心を持つため、新しさを求める傾向があります。

彼らは、製品やサービスが最新のものであり、他の人よりも早く手に入れることができることを重視します。

一方、メインストリーム市場の消費者は、すでに確立された製品やサービスを好む傾向があります。

彼らは、製品やサービスが信頼性があり、安全であることを重視します。そのため、新しい製品やサービスに対しては、慎重な姿勢を示します。

例えば、初期のパーソナルコンピュータ市場では、技術 enthusiasts であるアーリーアダプターに受け入れられました。

しかし、一般消費者であるアーリーマジョリティにとっては、価格が高く、使い方が難解であったため、普及には至りませんでした。

その後、Apple IIのような使いやすく、価格も手頃な製品が登場したことで、パーソナルコンピュータは爆発的に普及しました。

2. 消費者の心理的障壁 - 不安と抵抗感の克服

メインストリーム市場の消費者は、大きな変化に対する心理的な抵抗感を持つことが多いです。

彼らは、新しい製品やサービスを使うことで、自分の生活が大きく変わってしまうことを恐れます。

また、新しい製品やサービスの使い方を学ぶ必要があることや、新しい製品やサービスが使い慣れた製品やサービスよりも劣っているのではないかと不安に思うこともあります。

これらの心理的な障壁が、メインストリーム市場の消費者が新しい製品やサービスを受け入れるのをためらう原因となります。

新しいテクノロジーに対する不安、不信感、拒絶反応などを特徴とし、アーリーマジョリティが新しい製品やサービスの採用をためらう大きな要因となります。

3. 市場成熟度 - 標準規格とサポート体制の整備

市場が成熟していない段階では、キャズムを超えるのが特に難しくなります。

市場が成熟していない段階では、製品やサービスの信頼性や実績が不足しているため、メインストリーム市場の消費者は、新しい製品やサービスに対して慎重な姿勢を示します。

また、市場が成熟していない段階では、競合製品やサービスが少なく、価格競争が激化しているため、企業は収益を確保することが困難になります。

これらの要因が、市場が成熟していない段階では、キャズムを超えるのが特に難しい理由となります。

例えば、電気自動車市場では、充電インフラの整備の遅れや、航続距離に対する不安などから、アーリーマジョリティの普及が遅れていました。

しかし、近年では、充電インフラの整備が進み、航続距離も向上したことで、市場は急速に拡大しています。

キャズムを超えるための戦略 - メインストリーム市場への道筋

キャズムを超える戦略の要素

キャズムは、乗り越えられない壁ではありません。
以下の戦略を実践することで、メインストリーム市場への道が開けてきます。

1. 市場を狭く定義し、特定の顧客層に焦点を当てる - ニッチ戦略で足場を固める

まずは、ターゲット顧客を出来るだけ絞り、その顧客層の抱える問題やニーズを徹底的に理解することが重要です。
ニッチ市場で確固たる地位を築くことで、口コミ効果が期待できます。

Geoffrey Moore は、この戦略を "Beachhead Strategy" と呼んでいます 。
これは、ノルマンディー上陸作戦における海岸堡のように、まず小さな拠点を押さえることで、その後、より広範な市場へ進出していく戦略です。

例えば、Facebook でさえ、当初、ハーバード大学の学生のみを対象としたサービスでした。
その後、徐々に利用可能な大学を拡大していくことで、最終的には世界中のユーザーを獲得するに至りました。

2. アーリーマジョリティの不安を解消する - 信頼と安心の提供

アーリーマジョリティは、新しい製品やサービスに対して慎重な姿勢を示すため、具体的なデモや事例を提供することで、アーリーマジョリティに安心感を与えることができます。

デモでは、製品やサービスの機能や使い心地を実際に体験してもらうことで、製品やサービスの信頼性を高めることができます。

具体的には、以下のような施策が考えられます。

・無料トライアルや返金保証制度: 製品を試す機会を提供することで、消費者の不安を軽減

・分かりやすい操作マニュアルや動画チュートリアル: 製品の使いやすさをアピール

・充実した FAQ やオンラインサポート: 疑問点をすぐに解決できる環境を提供

・電話やメールでの個別サポート: より手厚いサポートを求める顧客に対応

3. 段階的なアプローチ - 販売チャネルの拡大と製品の改良

市場導入は段階的に行い、一部のセグメントでの成功を基に他のセグメントにも拡大していきます。

段階的なアプローチは、市場の反応を見ながら、製品やサービスを改良していくことができるため、キャズムを超えるための効果的な戦略です。

まず、初期市場で製品やサービスを導入し、アーリーアダプターからのフィードバックを収集します。

次に、アーリーアダプターからのフィードバックを基に、製品やサービスを改良し、アーリーマジョリティに訴求できる製品やサービスに仕上げます。

最後に、アーリーマジョリティに製品やサービスを導入し、市場でのシェアを獲得していきます。

例えば、テスラは、当初、高価格帯のスポーツカーであるロードスターを発売し、アーリーアダプターを獲得しました。

その後、モデルS、モデルXといった、より手頃な価格帯のセダンや SUV を発売することで、市場を拡大していきました。

4. アーリーアダプターの積極的活用 - 口コミと推奨を拡散

アーリーアダプターのフィードバックを活用し、製品やサービスの改良に役立てます。

アーリーアダプターは、新しい技術や製品に対して高い関心を持つため、製品やサービスの改善点を見つけることに長けています。

そのため、アーリーアダプターからのフィードバックを積極的に収集し、製品やサービスの改良に役立てることが重要です。

アーリーアダプターからのフィードバックを収集する方法は、アンケートやインタビューなどがあります。

<実践編>新規事業で成功するためのキャズム戦略と逆張りの視点

基本編はいかがでしたか?
このキャズムを正しく捉えきれば、事業の成長を加速させることができるのでしょうか?

いえ、すべてのケースでキャズムを超える必要があるわけではありません。

事業の規模や目標によっては、キャズムを超えずニッチ市場でやり切る「逆張り戦略」も有効なのです。

実践編では2つのアプローチを紹介します。

キャズムを超えるためのステップ

まず、目標市場の設定が非常に重要です。

そして、目標が数十億円〜数百億など大きい場合でも、最初から大きな市場に飛び込むのではなく、小さな目標市場でシェア1位を獲得するのが必要です。

この小さな成功を積み上げることで、徐々に最終的に市場を拡大し、最終的にはマジョリティ市場へ進出するのが王道です。

最初の小さな市場で成功すれば、その市場でのNo.1という実績が大きな武器になります。

しかし、わかっていても実践するのは困難です。

なぜなら大企業でニッチな市場で提案すると、反発が起きやすいからです。
「ウチの看板でこんなニッチをやるのか?」
「もっと大きく狙えるだろう」
「すべての顧客に満足を!」
と既存事業の考えを拭うことが、担当者も、審議する側も難しいからです。

単に新規事業だからニッチでいいだろうと情熱で終わらせるのではなく、
それが
「他の市場への進出時には信頼となり、次のステップを加速させることができる」
ということを、ビジネスプランにのせて、ロジカルに伝えることが重要です。

そのように積み上げ式の戦略こそが、キャズムを超えるための基本プロセスです。

そしてマジョリティにフォーカスするデメリットもあります。
いきなりマジョリティ受けする商品を作ろうとすると、その結果、特徴が薄まり、最初の顧客にさえ刺さらないという事態に陥ります。

開発時間もコストもかかり、最終的にはどの市場でもシェアを獲得できないということがよくあるのです。

キャズムを超えない「逆張り戦略」とは?

2つ目の戦略をお伝えしましょう。
そう、みなさんはすべての事業がキャズムを超える必要があると思っていませんか?

多くの企業が、最初から大きな市場に飛び込みリスクを取ってしまうのは、新規事業の典型的な失敗パターンです。

そもそも、目標が数億円規模だったとしても、大きなターゲットにしか売り慣れていないので、いきなりマジョリティを目指す開発方法を自然にとってしまうのです。

冷静に考えれば、目標設定か、事業開発の方法のどちらかが間違っていますよね。

もし本当に数億円程度の目標であれば、ニッチ市場で十分な利益を上げられ、その市場でやり切る戦略も有効です。

大きな市場で数%のシェアをとってもあまりインパクトはありません。
数年後、「当社がその事業をやる意味は…?」

と問われてCLOSEしてしまうのが見えているのです。

それよりも、ニッチ市場でシェアNo.1を維持する方が、社会性、収益性や顧客満足度の面で大きな価値があります。

キャズムをあえて超えずその市場に特化し続けることで、他の競合が参入しにくい強固なポジションを築くことができます。


あなたは、今後どの戦略を選ぶのが適切か?

キャズムを超える大市場を戦略とするか、逆張りでニッチ市場を守る戦略か。
どちらを選ぶのが良いかは、事業の規模や目標に応じて判断することが重要です。

万が一目標が大きく、マジョリティ市場を目指すなら段階的な戦略。
目標が数億円規模であれば、ニッチ市場に特化してやり切る選択肢も検討に値します。

最終的に大切なのは、自社のリソースや市場の特性を見極め、最適なアプローチのことです。

キャズムを超える道を選ぶか、ニッチ市場で成功を収める道を選ぶか、どちらにすべき計画的かつ戦略ような判断が新規事業の成功につながります。

(参考)合わせて使うことでより効果が出るフレームワーク

▶️イノベーション理論
▶️キャズム理論
▶️ハイプサイクル


最後に
二回に続いた、イノベータ理論とキャズム、いかがでたしょうか?

実際に事業開発をやっているとつい熱中し、目の前のことに夢中になりがちで俯瞰してみるのが難しくなっていきます。

さらに、ここからがマジョリティ、とか
ここまでがイノベーター、という線などどこにもありません。
自分たちで考え、判断し、突破していくしかないのです。

冷静に俯瞰できる、とてもシンプルなフレームワークですのでぜひ定期的に使ってみるのをお勧めします。

さらに詳しく知りたい人は、MOONSHOT WORKSのスキルCUBEの講座にもありますのでお問い合わせくださいね。

それではまた別の記事でお会いしましょう。


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