魅力的な経営理念の事例
企業にはそれぞれの理念があります。
何を大事にして、どんな活動をよしとしているのかを明文化して意思統一を図ります。
社内の目立つところに貼り出すだけでなく、ホームページに掲載する場合も多いので、様々な企業の理念を見ることができます。
企業理念という言葉の通り、あくまでも価値観を示しているだけですから、良いも悪いもありませんし、どこと比べる必要もないものですが、中にはその企業ならではの、他社に置き換えられない表現を発信する企業もあります。
今回はゾクッとするほど上手くはまっていた企業理念をご紹介します。
タイガー魔法瓶株式会社。
言わずと知れた有名家電メーカーです。
代表的な製品は社名にもある魔法瓶の技術を活かした水筒と、土鍋をキーワードにした炊飯器です。
他にもオーブントースターや電気ケトルなど、加熱物の調理家電を幅広く取り扱っています。
「食卓に、ぬくもりの魔法を」
これがタイガー魔法瓶の企業理念でした。
過去形で語るのは今は「世界中に幸せな団らんを広める」に変わってしまったからです。
ご紹介したいのは現在のブランディングが行われる前の企業理念です。
企業理念は価値観ですからどんな形であっても社会に貢献する姿勢が示せればとやかく言われる筋合いはありません。
なんでもいいと言えばそれまでですが、厳しい競争環境に晒される中では独自の立ち位置が示せることが一つの強みになります。
その独自の立ち位置を示す手段の一つに企業理念はあるのです。
独自性を示すのに必要なのはキャッチーでポエミーな言語表現ではありません。
セグメンテーションです。
事業領域を示し、自社の必然性を示し、取り組み姿勢を示す。
そこまでのことができれば独自の立ち位置が示せるはずです。
食卓に、ぬくもりの魔法を。
そこにはそれらが内包されています。
まず、「食卓」はタイガー魔法瓶の事業領域が食に関連することを示しています。
次に「ぬくもり」が示すのは技術領域です。
魔法瓶でいつまでも温かい状態を保つ技術を提供してきた矜持から、温度制御をベースとした商品カテゴリーに展開しています。
主力カテゴリーである調理家電を「食卓にぬくもりをもたらすもの」として定義しているのです。
そして「魔法を」と締めますが、ここには魔法瓶という出自を示すだけでなく、前半の調理家電に対するアプローチを示しています。
魔法とは物理現象の逆の存在であり、理屈を超えた特別な力です。
ただ食卓に温かいものを提供するのではなく、常識や想像を超えたアプローチをしようという姿勢が読み取れます。
事業領域を語り、歴史を語り、強みを語り、社会に対する姿勢を語る。
これだけのことを俳句よりも短い文字数でまとめ上げたのは脅威としか言いようがありません。
惜しむべきはそれが新しいものに変わってしまったことですが、より抽象度を高めることで成長できる領域を広げたものと思いますので、変わるべくして変わったのかもしれません。