見出し画像

[物語]僕だけの世界で

ずっと幼く小さな僕が
ずっと心に持っていた

僕だけの世界

そこは賑やかに
色んな音に溢れていて

それは色とりどりに
鮮やかだったり淡かったり

そして突然に静かな風が吹いて
大きな青い空が広がる

そんなのが

僕だけの世界

それは誰にも見えなくて
それは誰からも理解されなくて

小さくなったり
遠くなったり

だけど僕の中に確かにある
僕だけの大切な
僕だけが大切な
僕だけの世界

そこにはずっと昔から
遥か遠くで静かに佇む人がみえた

その人からは優しく暖かいニオイが
わずかにわずかに流れてきて
僕はそのわずかなニオイに
いつだって心を落ち着かせていた

どんな人か見たくて
だけど
どんな人か見えなくて
その人までは遠くて
その人にはたどり着けなくて

ただずっと
その人の影とニオイを
僕はただ心いっぱいに感じていた

辛く痛い太陽の下で
泣きながら走って帰った日も

冷たく苦しい真っ黒な空から
逃げるように叫んだ夜も

静かに目をつぶればいつでも
僕だけの世界が広がって
その優しいニオイのする人の
遠い姿を優しく感じれた

僕だけの世界から見えたその人は
僕だけの世界を見ていたその人は

あなたはいったい誰なの?

そしていつしか
見た目だけが大人になった僕は
僕だけの世界を抱えたまま
僕だけの世界から見えるその人を
この現実の中で求めて探して歩いてた

この人も違う
あの人も違う

歩き疲れて傷ついて
やまない雨に自暴自棄に
諦めかけていた僕が
雨宿りをした場所に待っていた

その人が君だった

君から感じたニオイは
君から感じた温かさは
君から感じた優しさは

あの遠く遥かに居た
懐かしいニオイがする人だった

こんなにも懐かしくて
こんなにも温かくて
こんなにも優しく微笑む

それが君だったんだね

ここで待っていてくれたんだね・・・

やっとたどり着いたんだね・・・

やぁ

待たせてごめんね

ずっとずっと

君を探していたんだ

だけどちょっと道に迷っちゃって

随分と遠回りをしちゃった

だけど僕はたどり着いたよ

僕は君を見間違わないよ

だって君はずっとずっと

僕だけの世界に居た人

僕だけの世界を共に

ずっとずっと見てきた人

遠回りの時間がきっとここに

僕を連れてきてくれたんだね

「この時間が必要だったの」

そう君は言ったね
僕もそう思ったんだ
それがわかったんだ

君を見つけ出すための
大切な時間だったね

待たせたね

さぁ行こうか

これからは一緒だよ

これからは
僕だけの世界じゃない

僕と君が共に居る世界
僕と君が共に見る世界
僕と君が共に歩く

そんな世界だ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?