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「文字にのせて…」│詩のような物語
文章の変化から見える、感情の変化を敏感に感じ取ることが、特別なことだって知ったのは、最近のことなんだ。みんな当たり前のことだと思ってた。だって文字はちゃんと、主張してるじゃない?
「どうしたの?何かあったの?悲しいの??」
彼女は言う。
「え?今普通に返しただけなのに・・・なんでわかるの??」
「え?だって・・・わかるよ」
「あはは・・・こんな文字から?あなたの特殊能力ね」
そうなんだ。特殊なことなんだ。知らなかったな。
そう、僕はいつも彼女から返ってくる一言だけの文字にも、彼女の感情の変化を感じ取って尋ねる。そういや今までは、他の誰かには、感じ取っても尋ねることはなかったからな。だから気付かなかったんだ。彼女のことはなんでも知りたい。だからそのまま聞いちゃうんだよね。だから知ったんだ。
これが特殊な能力なんだって。
文字の変化から見る、感情の変化。その心の機敏に僕はとても敏感だ。
そう。わかりやすく例えるなら・・・
人と人とのやり取りにおける「文字」には色がある、といったところかな。
そしてその色には変化が起こる。僕にはその色が見える。変化に気付く。
「あれ?」って。何か変化を感じるんだ。いつもはカラフルな文字。突然モノクロな文字になって返ってきたり。
それは送る人の、その時のとても強くて大切な感情の色なんだと僕は思う。
心は文字にだって感情を載せる。無機質な画面の中でだってちゃんと、感情を読み取ってもらえるように。心は文字に、感情を載せるんだよ。僕にはその、色が見える。色の変化に気付く。
あぁ・・・いつからだったっけ。
手紙というものがいつしか無くなりつつあって。手書きの文字のやり取りが、無機質な画面の中の、無機質なカタチのやり取りに変わったのは。
学生時代はみんなで手紙に色んな感情表現を、書いたよね。笑った顔だったり、時には動物だったり、おひさまだったり。なんとかちゃんと想いが、感情が、伝わるようにって。心を込めて想いを込めて、手紙を書いたもんだよね。
いつしかそれが小さな画面の中のやりとりになっても、顔文字、絵文字、スタンプが出てきたよね。小さな無機質な画面の中でも人は、ちゃんと感情を伝えようとしていたんだね。
それがいつのまにか、無機質な画面に無機質な文字、時には攻撃的な文字だったり。そんなのが羅列された画面が世界中に広がるようになった。
そして人は文字に感情を、載せようとはしなくなった。
だけどね。心はちゃんと主張する。してるんだよ。
特に想いを伝えたい人にはちゃんと、主張する。
不器用だって、拙くたって、心は感情をちゃんと伝えようとする。それはたぶん、無意識化で働く、人の心のはたらきなんだ。
言葉が無機質な文字になって、小さな画面に載せられてきたって文字はちゃんと、心の変化を文字に載せてる。微細な色の変化となって、心の変化を主張する。
会って無表情な人だってね。文字はカラフルだったりするんだよ。隠しているつもりだってね。悲しい時はカラフルだった文字が急にそこだけ、グレーになったりするんだよ。とっても伝えたい感情はね、まぶしいくらいに光ったりもするんだよ。
僕は知りたい人が送ってくれる文字達は、ひとつ残らず拾ってあげたい。どんな変化だって見逃さない。だって、ちゃんと教えてくれているんだもん。
ね。
・・・あ、彼女からチャットがきた。
ふふ。
今日はご機嫌みたい。良い1日だったんだね。
文字が踊ってキラキラしてるみたいだよ。
僕も空色の心を文字にのせて、送っておこう。
僕も今日1日、とっても楽しかったんだよ。
とっても晴れやかな気分なんだ。
ちゃんと気付いてね。
そして1日の終わりにも、
君への愛の色を、文字にのせて…
「おやすみなさい」